ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

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制酸剤による免疫抑制作用

2023年10月01日 | 生物医学ネタ絡み

 現代医療、特に内科的医療は西洋薬に頼り過ぎている嫌いがある。

 治療ガイドラインで生活習慣の改善とあっても、臨床現場で食事療法などが考慮されることは多くはないだろう。現場経営の事情から、症状に応じて薬がつぎつぎと追加されていき、高齢者になると多剤併用はよくみられる現象である。
 このため残念ながら健康法を考える際には、いかに不必要な薬剤に近づかないようにするか、という点が重要になってきている。薬剤の副作用に関する知識を身につけないと、健康法によるメリットなど吹き飛んでしまう状況にある。

 

 ということで今回は絡みというより備忘録的に、ブログ「ドクターシミズのひとりごと」の、制酸剤の一種プロトンポンプ阻害薬(PPI、Proton Pump Inhibitor)に関する次の記事を取り上げよう:

PPI(プロトンポンプ阻害薬)は死亡率を増加させる -2023年9月28日
https://promea2014.com/blog/?p=23472

 

 胃薬で死亡リスクが増加するのは何故だろうか。

 この疑問点についてまとめて以下にメモしておこう(すぐ忘れてしまうので・・・)

 

 胃液(1日当たり1.0-2.5L分泌。pH1-2)の主成分である胃酸は、ペーハー(pH)1前後の強酸(塩酸)であり、粘膜が損傷していたりすると胃や周辺組織を傷つけることになる(胃を通過すれば、腸液はpH8.3前後で、2-3L/日の分泌で、胃液は中和される)。
 胃酸の過剰分泌や逆流によって起こる疾患には、消化性潰瘍(胃、十二指腸)や逆流性食道炎などがある。前述の薬は、そういった際に胃酸の分泌を阻害して症状を緩和することを意図している。

 対症療法の西洋薬でも1-2週間以内の短期間で服用する場合には有益なものも多いと思われるが、服用が2週間を超えてくるようならメリット・デメリットを慎重に検討する必要があろう。

 

 胃酸は、進化的にみれば約3億5千万年前から脊椎動物において存在し、個体の生存に有利に働いてきたようだ(ワニなどの爬虫類は、咀嚼機能がないので食餌を丸呑みにて消化する必要がある)。胃液の役割は、主に二つある:

 - 外来体(異物)の殺菌・増殖の抑制、
 - 強酸による作用で栄養素の消化吸収を助けること。

 ヒトにおいて胃や周辺組織を溶かすほどの強い酸性度になっているのは、上記の二つの役割を果たすためにはその水準の酸性度がないと困るからということになる(生体エネルギー論的にみれば、より強い酸性度を維持するのにはエネルギーの支出がより必要になることから、そもそもその水準が不用なのであれば減衰していくはずである)。


 結局、PPIを長期服用すると、胃液の役割を阻害することから次の二つの副作用が起こり得て、これらが関連する病態が現れる可能性が高まることとなろう:

 - 免疫力の低下(注1。特に胃による侵入防御能力の低下)
 - 栄養素の消化・吸収障害

 

(注1)このブログでは当面、疫を免れる力(免疫力)は、
- 外来体(異物)の侵入防御能力(皮膚、粘膜などが担う、いわゆるバリア機能)、
- 老廃物・異物の除去能力の余力(白血球が担う機能の予備力)
という二つの能力の兼ね合いで決まると整理していこうと思っているところ(将来的にアレルギーの話をする際に便利そうだから)。
 このように整理すると、PPIは胃液の酸性度を低めて本来殺菌されるべき食餌中の微生物が胃を通過するのを助けることになり、PPIも免疫抑制剤の一種と言えよう。

 

 西原克成氏の著作「究極の免疫力」(2004年)によれば、難病・免疫病の原因の多くは、免疫機能の脆弱性を突いて体内に侵入する微生物(病原体ではない、腸内細菌、ウィルス、真菌などの常在共生体が主)による細胞内共生・感染である、としている。
 PPIの長期服用は、胃を通過する外来体たる微生物の量を増やし健全な腸内細菌叢を乱すこととなり、ひいては腸菅膜における侵入防御能力を低下させ体内に侵入する微生物の量を増やすのだろう。いわば自ら脆弱性を提供してしまう状態になっているのである。
 腸管周辺で免疫細胞の7割が活動するとされており、体内に侵入した微生物に対しては残りの3割の免疫細胞(その主な仕事は新陳代謝のための古くなった組織の除去であり(1日当たり0.8-1.0kgの組織を除去するといわれる)、疫を免れる力を発揮するのは更にその一部に過ぎない)で対応する必要がある。腸菅膜から侵入する微生物や毒素の量が増えると、問題が増えるのは必然と言えるだろう。

 

 PPIの長期服用に関連する病態は幅広いが、とりあえず前述の二つの副作用で区分してみると次のようになろうか:

 

〔免疫力の低下(胃のバリア機能の低下を通じたもの)関連〕
 小腸細菌過増殖、腸管感染症(細菌性腹膜炎)
 大腸炎、膠原線維性大腸炎(collagenous colitis)
 胃ポリープ、胃カルチノイド腫瘍
 がん(胃がん、大腸がん)
 肺炎
 認知症
 間質性腎炎、腎機能障害
 動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞
 亜急性皮膚エリテマトーデス
 横紋筋融解症

〔栄養素の消化・吸収障害関連〕
 貧血(鉄の吸収低下)
 骨粗鬆症、骨折(カルシュウムの吸収低下)
 その他微量元素の欠乏(マグネシウム・ビタミン)

 

 免疫力の低下関連に区分された病態のうち、消化器系関連のものは、感染リスクの高まりによるものであり、分かり易いだろう。それ以外については、補足説明をしておこう。

 肺炎については、間質性の炎症疾患(間質性肺炎、間質性腎炎など)は前述の西原氏は微生物が主因だろうとしている。間質での炎症が燻ぶっていれば肺炎にも発展し易くなるだろう(肺炎菌は口腔内に常在しているとされる)。

 認知症については、アルツハイマー病が代表的なものだが、西原氏や以前の記事でも言及したニクラス・ブレンボー氏(著作「寿命ハック」(2022年))によれば、同病の原因は微生物であると指摘している(アルツハイマー病の微生物原因説。個人的にもこれを支持)。

 動脈硬化については、最大の原因は血糖の乱高下による血管の損傷だと思われるが、血管が細菌・ウィルスなどの微生物やその毒素に過度に曝露される(血液は古くは無菌と考えられていたが、最近ではそうではないことが分かってきている)ことによる損傷の寄与度もかなりあると推測される。免疫抑制剤の代表であるステロイド剤についても、その長期服用が動脈硬化の病変をもたらすとされており、同じ理屈であろう。

 

 亜急性皮膚エリテマトーデスは、免疫病の一種にあたる。

(参考) 冒頭の清水氏の別の記事によれば、これは氷山の一角の模様:


PPI(プロトンポンプ阻害薬)は自己免疫疾患のリスクを上げる -2021年10月21日
https://promea2014.com/blog/?p=17100
>・・・PPI使用者は非使用者と比較して、
強直性脊椎炎 3.67倍、関節リウマチ 3.96倍、シェーグレン症候群 7.81倍、SLE 7.03倍、全身性血管炎 5.10倍、乾癬 2.57倍、全身性硬化症(強皮症) 15.85倍、炎症性筋疾患(皮膚筋炎および多発性筋炎) 37.40倍、バセドウ病 3.28倍、橋本病 3.61倍、自己免疫性溶血性貧血 8.88倍、特発性血小板減少性紫斑病 5.05倍、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病 4.83倍、重症筋無力症 8.73倍、
とものすごいリスク増加を示しています。15倍や37倍という自己免疫疾患もあるのです。<

 

 横紋筋融解症については、筋肉における微生物の細胞内共生・感染が関係しているとみているのだが(難病には脳筋系の病態が少なくないため)、もしかすると栄養素の消化・吸収障害関連で起きているのかもしれない。

 

 以上みてきたように、ある種の制酸剤は、本質的には免疫抑制剤にあたると言えそうだ。
 免疫力を抑制することにより引き起こされる問題は、(一般的に認識されているより)微生物が主因である、あるいは関与する病態が多いことから、多岐にわたっているのだろう。

 

 最後に、そもそも胃酸の過剰分泌や逆流がなぜ起こるのであろうか。
 進化的に考えれば、劇物に相当しそうな液体(胃酸)の取り扱いは、本来その時その時で随意系による個別の判断を要することなしに遺伝因子(不随意・自律系)による自動制御がなされるべき筋合いのものだろう。関係疾患で悩んでいる人がいるなら、なぜ自分の自動制御が機能せずに破綻しているのか、よく考えてみるべきだろう。

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