ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

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ストレス反応と副腎機能 (2/3) 抗ストレス・ホルモン

2012年08月05日 |  関連(生物学医学)

 先ずは、前回記事のおさらい。副腎ホルモンに関し、細かいことは忘れて要点だけ抜き出し模式的に書くと、
                               
ストレス(刺激)
  ↓        〔SAM系〕     〔闘争・逃走反応向け〕
大脳辺縁系 →視床下部 ──→交感神経節 ─→ ノルアドレナリン
        │         └─→副腎髄質 ──→ アドレナリン、ノルアドレナリン
        │
        │
        ↓                      〔フリージング(すくみ)反応向け〕
       下垂体 ───→副腎皮質 ──→ コルチゾールなど(糖質コルチコイド)
      〔HPA系〕
                                
 外界からストレスを受けると、2つの経路から副腎ホルモンが分泌される。1つは自律神経系に働きかけるもので、視床下部からの指令に基づき交感神経節及び副腎髄質からノルアドレナリン又はアドレナリンが分泌される経路(SAM系)。

 もう1つは内分泌系に働きかけるもので、視床下部からの下垂体を通じた指令に基づき副腎皮質からコルチゾールなどの糖質コルチコイドが分泌される経路(HPA系)。なお以下では、「糖質コルチコイド」については、特段の問題のない限り代表的なものであるコルチゾールと記載することにしよう。

 これらノルアドレナリン、アドレナリン、コルチゾールなどの副腎ホルモンは、ストレスにさらされると分泌されるものなので、「抗ストレス・ホルモン」とも呼ばれている。

8/7追記: ググッてみたところ、「抗ストレス・ホルモン」と呼ばれるより、「ストレス・ホルモン」(ストレスを受けたときに分泌されるとの趣旨だろう)と呼ばれることの方が多いようだが、そのままでいこう。

 

 以前の記事でも触れたけど、SAM系は闘争・逃走反応に、HPA系はフリージング(すくみ)反応に関係している。これらの点について補足しておくと、滋賀医科大学のサイト「痛みと鎮痛の基礎知識」のから(以前紹介したのとは別の頁)、

闘争・逃走反応 (fight or flight response)
http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/react-emotion.html#fight-flight (リンクはココ

・「闘争−逃走反応」とは、動物が外敵に遭遇する時には、みずからの生命を守るための原始的な自己防衛本能
・身を守るために。敵が弱そうであれば闘争し、敵が強そうであれば逃走する。
 [中略]
・交感神経緊張が増加し、心拍数が増加し、血圧を上昇し、呼吸を促進し、瞳孔が散瞳する。

フリージング(すくみ)反応 (freezing behavior)
http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/react-emotion.html#freezing (リンクはココ

・ストレス刺激により、じっと動かなくなり、外部に対して反応しなくなる。
・血圧も心拍も低下する。

 闘争・逃走反応は、差し迫った危険を回避するための緊急の行動であり、フリージング反応は、危険が接近しているので緊急の行動に備えての待機的な行動と言えるだろう。つまり、これらの反応の目的は、危険に際して生命を守るための防衛行動にある。かつて狩猟採集生活をしていた縄文人あたりがこのような行動を身につけ、その結果他者との生存競争を勝ち残ることができたので、それが遺伝子にしっかりと刻み込まれているのであろう。

 より具体的な場面を想定すれば、野生動物(熊、野犬など)に襲われそうな差し迫った危機的な状況にあるときは闘争・逃走反応が必要とされ、ノルアドレナリンやアドレナリンが分泌されこととなり、野生動物に囲まれた状態のため隠れており今にも危機的になり得る状況にあるときは息を潜めて危険に備える必要があり、コルチゾールなどが分泌されることになる、と考えられる。

 あるいは運動会の100m競争において、スタートめラインに並んで心臓がドキドキしているときが闘争・逃走反応が必要とされる状態に、トラックに出る前に待機している間が息を潜めて来るべき闘争・逃走反応に備えフリージング反応が必要とそれる状態にあたるだろう。

 再度、抗ストレス・ホルモンの働きを以前より詳しい資料で確認しておこう。 ノルアドレナリンやアドレナリンについては(どちらもカテコールアミンの一種であり、まとめて「カテコールアミン」と呼ばれることも多い)、サイト「人体のしくみと働き」(http://plaza.umin.ac.jp/~histsite/。7. 内分泌系のしくみと働き http://plaza.umin.ac.jp/~histsite/endcrinetxt.pdf)から引用すると、

                  図表1 アドレナリン・ノルアドレナリンの作用

 ノルアドレナリンやアドレナリンは、体内では通常短時間で分解されていまうので(図1の最下段にあるように体内での半減期は1~3分程度)、長期的に分泌されることで問題が大きいのは、コルチゾールの方であろう。

 続いて、コルチゾールの作用をみていこう。「内科・小児科マリヤ・クリニック」のサイトの記事を参考にすると(ホルモンの働き2・副腎皮質ホルモン http://www.mariyaclinic.jp/b_exsamination/b_r01mcn/mcn/mcn2005/b_r01news0501.htm。リンクはココ)、

   図表2 コルチゾールの作用
      (1) 糖新生・血糖値の上昇
      (2) 脂肪分解促進
      (3) 抗ストレス作用
      (4) 抗炎症作用
      (5) 免疫抑制作用

 コルチゾールの基本的な作用は、3番目の抗ストレス作用と考えられる。野生動物に囲まれ隠れているような危機的な待機状況だと、中には長時間に及ぶこともあるので、普通はお腹がすいてくる。だけれども、お腹がすいて動けないようでは生命の危機なので、お腹がすいても大丈夫なメカニズムになっている。それが、1番目と2番目の作用と解される。
 
 1番目の「糖新生・血糖値の上昇」については、上記サイトから引用すると、

① 糖新生・血糖値の上昇
 筋肉(タン白質)────────→ 肝臓でクリコーゲン合成───────→ 血液中・全身へ
          アミノ酸へ分解              ブドウ糖へ合成

 糖新生は筋肉中のタン白質をアミノ酸に分解して肝臓に運び、グリコーゲンに変えた後、ブドウ糖に合成する働きがあります。コルチゾールが分泌され続けると徐々に筋肉が分解され、筋肉が細くなり筋肉不足を引き起こします。同時に他の臓器でブドウ糖の利用を抑制するので血糖値が上昇します。

 空腹時の血糖値の維持では、肝臓に貯蔵されたグリコーゲンを分解してグルコースを作る経路がよく知られているけど、グリコーゲンも無尽蔵にあるわけでもない(グリコーゲンの貯蔵量は、一説だと半日程度の活動分程度)。また、脳はエネルギー源として糖分しか利用できないので(他の臓器は脂肪からエネルギーがとれる)、脳にエネルギーを供給するためには血液中の血糖値を維持しておく必要がある。この二つが糖新生が必要とされる理由であろう。

 2番目の「脂肪分解促進」については、上記サイトから引用すると、

② 脂肪分解促進
 グリコーゲン→ブドウ糖でのエネルギーの補給が間に合わない場合、脂肪組織から脂肪を分解して(遊離脂肪酸の状態)、エネルギーに利用します。低血糖症状がおこり遊離脂肪酸値が高くなるのはこのためです。

 この趣旨は、上述のとおり、脳以外の臓器は脂肪分解によりエネルギーが利用できることにある。また、糖新生は主に肝臓でおこなわれるが、糖新生自体にも原材料(主に筋肉)ほかエネルギーが必要であって、貯蔵されたグリコーゲンによるエネルギーが足りなければ脂肪分解によりエネルギーを生産することとなる。更に、分解された脂肪の一部(グリセロール)も糖新生の原材料になり得ることとなる。

 上記の2つの経路の生化学反応については、サイト「脂質と血栓の医学」の次の記事が詳しい。ポイントだけ引用しておくと、

糖新生の経路
http://hobab.fc2web.com/sub4-gluconeogenesis.htm (リンクはココ

【ポイント】
 肝臓は、絶食時等に、糖新生により、アミノ酸等から、ブドウ糖を作り出して、血液中に供給する。絶食時には、アミノ酸(アラニン、アスパラギン酸等)、乳酸、グリセロールが、糖新生の炭素源になる。
 糖新生(細胞質内)するのに必要なエネルギー(NADH2+等)は、脂肪酸をβ-酸化(ミトコンドリア内)すること等によって、生成(供給)される。脂肪酸は、体内では、糖に変換出来ないが、脂肪酸のエネルギーは、糖新生に利用される。・・・
 糖新生の経路が肝臓に存在することにより、肝臓で、脂肪酸をβ-酸化して得られたエネルギーを、グルコースとして蓄積し、他の組織で、利用することが出来る。

 コルチゾールの作用の4番目と5番目は、野生動物に囲まれ隠れているような危機的な待機状況では、即座に生死にかかわらないような活動は、その水準を低下させてエネルギーを節約しようという趣旨だと解される。

 4番目の「抗炎症作用」については、炎症反応の目的は何らかの理由でできた傷を修復することなのだけど、傷を修復するといっても2~3日程度要するわけで、筋肉を分解しているようなエネルギー欠乏時には多少手抜きをした方が進化の過程で有利であったということを意味するものと考えられる。

 5番目の「免疫抑制作用」についても同様で、細胞分裂の異常を見逃してもがんになるのは早くて数年後なので、これも筋肉を分解しているようなエネルギー欠乏時には手抜きをして、危機が去り十分休養している時にまとめて異常分裂した細胞を処理した方が進化の過程で有利であったということを意味するものと考えられる。

 この際、免疫抑制を受けるのは、新しい免疫系(液性免疫)や古い免疫系(細胞障害性免疫)であり、細菌などの外来の異物処理担当の顆粒球(自然免疫)はあまり抑制の影響を受けないものと考えられる(明治大学のサイト「運動と免疫」の記事「ホルモンの影響」 http://www.isc.meiji.ac.jp/~suzui/immunology/hormone.htmlを参照。リンクはココ)。


 前置き(おさらい)の途中のような気もするけど、眠たいのでつづく。

 

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注) 8/7 追記。


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