ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

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アルツハイマー病の原因(清水氏23/10/13記事関連)

2023年10月17日 | 生物医学ネタ絡み

〔更新履歴:一部修正2023-10-18〕

 

 知識を蓄え慧眼を養ってこそ智慧になるのだろう。
 現代の生活においては知識が豊富な人にはなり易いけど、他方各種のマニュアルが整備されていて自分で考える機会も少なくなっていて、知識量の割に物事の本質を見抜く力が養われていかないのかもしれない(生物の進化的にみれば、脳の省力化電気回路説が成立しそうだから、易きに流れるのも仕方がない・・・)。

 

 一般的に言えば、歯科医と内科医との認識にはかなりの隔たりがある面が存在していて、特に常在共生体(細菌、ウィルス、真菌などで主に体表や管腔組織などにいるもの)に関する認識はそうだろう。歯科医にとっては常在共生体との戦いが主戦場との認識であろう(虫歯や歯周病の源になるのは口腔内の常在共生体である)。他方、内科医にとっては、悪さをするのは外部からの病原体で常在共生体が悪さをするのはかなり例外的な場合と認識していることが多いようで、その悪影響を矮小化しがちなようだ(これは「医者(内科医)の呪縛」と呼べるものなのかもしれない。腸内細菌などの影響を考えだしたらしっかりした生活指導が必要になり手間も時間もかかるだろうから、ここでも省力化が選好され・・・)。

  最近の記事でよく触れる西原克成氏は、最初に手掛けた研究ががんとミトコンドリアの関係らしく、生物進化にも造詣が深く実験進化学者としても研究をし、また、歯科医でもあり、大病院勤務故に他科から回されるいろいろな病態を眺める機会に恵まれて、豊富な知識を蓄積していったようだ。それを活用し、もう20年近く前にかなり斬新な認識に達していた模様である(検査・実験技術が進歩し、時代が追いついてきている感じ。言わば、True creativity never gets old; the longer time passes by, the more it shines.)。

 

 西原氏の斬新な考えの一つには、以前にも触れた、真核細胞生物はミトコンドリアが基本的要素でできている(生物のミトコンドリア単位説)、というものがある。ただ、その詳細は必ずしも定かではない。

 真核細胞は、アーケア(古細菌。安保徹氏の用例にならうと嫌気性の「解糖系生命体」)にバクテリア(細菌。安保氏にならうと好気性の「ミトコンドリア生命体」)が寄生した共生体から発展してきたものとされている。

 その見方を突き進めれば、解糖系生命体の細胞膜は、ミトコンドリア生命体のコロニー(集団)の生活場をドーム(カプセル)化するもの、細胞核はコロニー内のミトコンドリア生命体が従うべき司令塔ということになるだろうか。そうすると、ミトコンドリア生命体がどこからか持ち込んだらしい細胞分裂抑制遺伝子(がん抑制遺伝子。解糖系生命体側だけの都合による分裂を抑制)は、ドーム化されたコロニー・サイズ(ミトコンドリア生命体の数)の標準化に必須のものであったとも考えることができるだろう(この先まだないのでこの辺で・・・)。


 西原氏によれば、ミトコンドリア単位説を前提とすれば「ミトコンドリア機能病理論」が成り立ち得るとみているようだ。19世紀にシュライデンやシュワンが提唱した生物の細胞説(細胞単位説)がフィルヒョーの細胞病理論(学)へ繋がっていった点を念頭に置いているとみられるが、再度その詳細は必ずしも定かではない(追記注)。想像するに多分、ミトコンドリアの同じ機能障害には似たような病気が対応し、そのまた逆も成り立つ、ということではないかと思われる。

 

追記注)この背景を個人的に著作の行間から読み取った内容から解説しておこう。大病院だと器質的な異常(ここでは血液検査の異常も含めた意味)を発見するための検査漬け医療になっていて問診・身体診察を軽視する傾向(このため機能的な異常はよく分からない)を西原氏は嘆きつつ、器質的異常発見・矯正主義的な診療の方向へ導いた細胞病理学を毛嫌いして、そのアンチ・テーゼとしてミトコンドリア機能病理論を言い出したような雰囲気と思われる。
 ミトコンドリア機能異常を検査する方法は当時確立されていなかったので(現在でもそうだろう。普通の細胞内に数百から2千個あるわけだから・・・)、診療の射程距離内に同異常を捕えようととすると、必然的に検査以外の診察手法(問診など)に頼らざるを得なくなると考えたのだろう。現場主義を重んじる(個人の体質を最重視する)と思われる彼なりの発想なのだろう。

 

 このブログのテーマを健康に戻したのは、西原氏の言説に感化されて健康法を個人的に検討していたところ、書き留めて内容を世間に広めて試してみた方がよいだろうというのが幾つか出てきたためであり、今回はそのうちの一つにあたる。

 


 前置きが長くなったが、まあ例によって、ブログ「ドクターシミズのひとりごと」の次の記事をなんとなく紐解いていく感じにしよう:

スタチンと認知症 -2023年10月13日
https://promea2014.com/blog/?p=24075
スタチンと認知症の関連はいまだに議論があります。アメリカのFDAはスタチン使用と認知障害との潜在的な関連性について2012年にblack box warning(枠囲み警告)を出しています。FDAは「まれに、スタチンの使用に関連した認知障害(例、記憶喪失、物忘れ、健忘症、記憶障害、混乱)の市販後報告があります。報告されているこれらの症状は一般に重篤ではなく、スタチンの中止により回復可能ですが、症状の発現までの時間(1日から数年)と症状の消失(中央値3週間)はさまざまです。」と述べています。
 最近の研究では、スタチンは認知機能低下に関連しないという結果がいくつも出ています。だから、現在のところ何とも言えません。・・・<
>認知症は糖質過剰症候群であり3型糖尿病とも言われています。2型糖尿病と認知症のリスクの関連は十分にあることを考えると、スタチンによる糖尿病発症リスクは認知症のリスクにもなりかねない可能性があります。<


 さて、高脂血症薬は、認知症を進行させるのだろうか。
 この疑問点につては、前置き同様に以下の議論も長くなりそうなので先に述べておくと、

   スタチンの場合は進行させるだろう、

というのが個人的な結論である。理由を手短に述べれば、薬剤のミトコンドリア毒性は神経細胞のエネルギー不足を招くことから認知症(アルツハイマー病)を進行させる可能性が高く、スタチンにはミトコンドリア毒性が認められるからである(注1)。以下に、この点について順を追って解説していこう。

注1)本稿の射程外なので注での追記で済ませておくと、スタチンには免疫抑制作用がある(免疫応答過程において抗原提示細胞上のMHCクラス2の発現を阻害することによりT細胞の活性化を抑制するとされる。体内へ侵入した微生物などの異物の除去能力が低下する)とされており、後述のアルツハイマー病の病因分析からしても、認知症をより進行させると言えそうである。

 

 認知症全体の約7割はアルツハイマー型とされているようであり、例によって、小問にバラしてみると次のようになるだろうか:

Q1. アルツハイマー病は、どのようなものか。
Q2. アルツハイマー病の原因は何か。
Q3. アミロイドβとは何か、蓄積するのは何故か。

ついでに、これらに関連するものとして、

- 脳が萎縮していくのは何故か。
- 初期症状が短期記憶領域で現れ易いのは何故か。
- 同病と高血糖との関連性はどのようなものか。

も挙げて射程距離内に入れておこう。

 

 本稿で扱いたい問の紹介が済んだので、順に考えていこう。先ず最初の問については:

 

問Q1. アルツハイマー病は、どのようなものか。

A1)ミトコンドリア機能病理論的にみれば、アルツハイマー病は、脳の神経細胞内のミトコンドリアの機能障害であり、これによってエネルギー(アデノシン三リン酸、ATP)生成が不足するため、本来の脳の機能を発揮することができなくなる病態と考えられる。(A1了

 

 ここで、真核細胞のエネルギー生成について明解に解説できるとよいのだが、前回記事でも触れたように、全貌はよくわからない(ミトコンドリアの燃料選択の制御機構すらよく分からないわけで・・・)。
 とは言え、断片的に分かっていることはあるので、この方向の切り口でまとめてみたのが、以前の2023/9/9記事で触れた「ATP恒常性のミトコンドリア制御仮説」にあたる(リンクはここ)。この仮説については、議論を展開すると多くの袋小路があって長くなりそうなので、今回は触れるにとどめ別の機会にしておこう。
 このように消化不良のままだとアルツハイマー病と神経細胞のエネルギー不足との関連性がよく分からず疑問が出てくるだろうから、問Q1.の更問として、次の二つの問について解説しておこう:

 

更問Q1-a. アルツハイマー病で脳が萎縮していくのは何故か。

A1-a)ミトコンドリア機能病理論的に考えれば、脳におけるエネルギー不足の病態としては、

脚気(ビタミンB1欠乏症。脳の症状は特に「ウェルニッケ脳症」と、脳の後遺症は「コルサコフ症候群」と、両者を合わせて「ウェルニッケ・コルサコフ症候群」とも呼ばれる)

があり、かなりよく分かっていて参考にできるだろう。ビタミンB1は、ミトコンドリアでエネルギー生成する際の必須栄養素であり、欠乏するとミトコンドリアが機能障害を起こすことになる(欠乏すると、ミトコンドリアの内膜内における解糖系の代謝物ピルビン酸、及びクエン酸回路の中間体αケトグルタル酸を代謝(脱水素)できなくなり、エネルギー生成が進まなくなる)。

 

 脚気という病気から、脳でエネルギー不足が長く継続してある閾値を超えてくると、神経細胞が不可逆的に変性して元に戻らないことが分かっている(ビタミン剤を補充しても原状復帰しない)。アルツハイマー病との違いを対比するイメージとしては、脚気の場合は、脳全体あるいは全身で起こるエネルギー不足であるが、アルツハイマー病は、初期のうちは脳内でまだらに起こるエネルギー不足(あるいは、ウェルニッケ脳症・コルサコフ症候群の双方がまだらに起こるもの)ということになろうか(アルツハイマー病も進行して重症化すれば同症候群様のものに収斂していくこことなろう)。

 関係資料を(マウスでの実験だけど)一つだけ取り上げてみると、情報サイト「大学プレスセンター」の記事から:

ビタミンB1欠乏による記憶能力障害のメカニズムを発見 -- ビタミンB1欠乏により脳の海馬が障害を受けて記憶できなくなる -- 東京農業大学 -2016.09.07
https://www.u-presscenter.jp/article/post-36027.html
>【背景と概要】
 ビタミンB1は、必須栄養素の一つであり、鈴木梅太郎博士によっておよそ100年前に発見された世界で最初のビタミン。ビタミンB1は、糖代謝系やATP(エネルギー)産生に対する補酵素として働く。ビタミンB1摂取不足により脚気(かっけ)になることがよく知られており、ビタミンB1が神経系の機能維持にも重要な役割を果たすことが示されている。さらに、ビタミンB1欠乏が続くと、ウェルニッケ・コルサコフ症候群を代表とする、重篤な記憶能力の障害を引き起こす。重要な点として、脚気はビタミンB1の補給により改善されるが、ビタミンB1欠乏による記憶障害は慢性的であり、改善されない。以上のように、ビタミンB1欠乏により重度の記憶能力の減退が導かれることが古くから知られていたが、その発症メカニズムは不明だった。本論文では、喜田教授らは、ウェルニッケ・コルサコフ症候群と同様の慢性的な記憶能力障害を示すマウスを作製し、遺伝子操作技術を用いて神経細胞(ニューロン)を可視化してイメージング技術を利用することで、ビタミンB1欠乏による記憶障害の原因が海馬(注1)の変性であることを世界で初めて突き止めた

【論文内容】
 野生型マウス(C57BL/6N系統)にビタミンB1欠乏飼料を10日間給餌し、この間ビタミンB1拮抗物質であるピリチアミンを連日投与して、重篤なビタミンB1欠乏状態を誘導した(ビタミンB1欠乏マウス)。ビタミンB1欠乏により体重減少及び著しい運動能力の低下が観察されたが、ビタミンB1欠乏処置後に、ビタミンB1(チアミン)を補給させ、通常の食餌に戻して3週間の回復処置を施すと、体重、運動能力などは正常に戻った。しかし、回復処置を行ったにも関わらず、空間記憶(注2)、社会的的認知記憶(注3)、恐怖条件付け文脈記憶(注4)など海馬依存的な記憶(注5)能力の障害が観察された(図1)。すなわち、記憶することができなくなっていた。しかも、この記憶障害は少なくとも6ヶ月持続する慢性的な記憶能力の障害であることが明らかとなった。一方で、恐怖音条件記憶などの扁桃体の働きを必要とする記憶能力には、障害が観察されなかった。以上の結果から、ビタミンB1欠乏を経験したマウスは、海馬依存的な記憶能力に永続的な障害を示すことが明らかにされ、このビタミンB1欠乏マウスが示す症状は、ヒトのウェルニッケ・コルサコフ症候群と類似していることを明らかにした。すなわちビタミンB1欠乏マウスは、ウェルニッケ・コルサコフ症候群モデルとなることを示した。・・・<

 

 脚気が進行してくると神経細胞が変性することから脳全体が萎縮していくようであり、脳におけるエネルギー生成不足は、脳の萎縮につながると解釈できるだろう。(A1-a了

 

更問Q1-b. アルツハイマー病の初期症状が短期記憶(脳の海馬が担当)の機能低下で現れ易いのは、何故か。

A1-b)脳の機能もよく使う部分と普段はあまり使わない部分があるわけで、アルツハイマー病の本質がエネルギー不足であるとするならば、脳のよく使われる部分で症状が出やすいと言えるだろう。よく使われる部分としては、視床下部(臭覚以外の五感情報を集めて総合的に処理し、直下にある下垂体にホルモン分泌指示を出したり自律神経を制御するのを担当)、海馬(短期記憶を担当)あたりが挙げられるのではないだろうか。他覚的に分かり易いのは、海馬の異変の方ということになるだろう。

 また、海馬においては、神経細胞が新生するとされており、普通の神経細胞よりエネルギー需要が高いものと推定される。富山大学薬学部のサイトの記事から:

脳内で神経細胞は新生している!|教員コラム~TOM'S 薬箱~
http://www.pha.u-toyama.ac.jp/toms/column11/index.html
>・・・生後は脳の神経細胞はいったん死んだら補われることはないと以前は信じられてきましたが、1990年代に入り脳内でも神経細胞が新生していることが明らかになりました。なかでも脳内にある海馬の歯状回と呼ばれている部位(図を参照)では、正常な脳でも神経細胞の新生が毎日起こっていることがわかってきました。・・・<

>それでは、脳内で新生した神経細胞は、神経系の機能とどのように関わっているのでしょうか?歯状回を含む海馬は、学習や記憶を新たに習得・形成することに重要な役割を果たすことで知られています。・・・つまり、神経細胞の新生は、神経系の活動の程度に依存して増えたり減ったりします。これらのことから、新たに学習や記憶を習得・形成する際には、新生した神経細胞が既存の神経ネットワークに組み込まれ、より多くの情報を保持・処理できるようになるという仮説が提唱されています。また、少し違った考え方の研究者もいます。いったん海馬内で形成された学習や記憶は、徐々に大脳新皮質に移行し、その後は、その学習や記憶の内容を思い出す際には海馬を必要としなくなります。これを記憶固定と呼びますが、大脳皮質に記憶固定が起こればその記憶は海馬の中に存在している必要はなく、新生した神経細胞が、既存の神経回路に組み込まれる過程の中で不要になった学習・記憶痕跡を"分断"し、新たな学習や記l憶をしやすくしているという説もあります。今のところどちらが正しいのかわかりませんし、またこの両方の役割があるのかもしれません。・・・<

 

 上記記事では、新生された神経細胞の役割として二つの説が紹介されている。前者は、新生細胞が新たな記憶定着を橋渡しをしている説(「記憶定着容易化説」と呼べそう)、後者は、新生細胞により既存の短期記憶を分断して読めなくし新たな短期記憶の容量として使えるようにしているする説(「短期記憶容量新規フォーマット説」と呼べそう)と整理できるのかもしれない。

 進化的に考えると、神経細胞の新生が海馬で顕著であることから、短期記憶と密接に結びついているはずで、後者の方がより高い役割なのであろうと推測される(前者であれば、脳の全領域で神経細胞の新生が活性化した方が有利になると思われるが、現実はそのようになっていないようであるため)。

 海馬については、よく使われる部分ということでエネルギー需要が高くなっているほか、神経細胞の新生も併せて行う必要があり、エネルギー需要が一層高まっているとみられ、アルツハイマー病の初期症状としては短期記憶の機能低下が出やすくなっていると解釈できるだろう。(A1-b了

 

 

 前振り的な問 Q1 の答えが長すぎて既に興味を失った人も多いかもしれないが、逆に多少興味が湧いてきた変人がいるかもしれないので、気にせず次の問に移ろう:

 

問Q2. アルツハイマー病の原因は何か。

A2)微生物、高血糖、血流障害という3つ要因が組み合わさったものだろう。これらの共通点は、神経細胞におい燃料不足からくるエネルギー生成不足(ミトコンドリアの機能障害)を引き起こすことにある。
 この3つの病因を元にアルツハイマー病を区分してみると、1つの典型例と2つの非典型例に区分できるのではないだろうか(アルツハイマー病の三病因混合仮説。注2):


1. 典型:燃料掠め取られ型(微生物性エネルギー不足)
 特徴:タンパク質アミロイドβの蓄積を伴う。加齢と密接に関連し通常高齢で発病。
2. 非典型:燃焼不足・燃料取込み不足型(高血糖性、又は血管性(血流障害性)エネルギー不足)
 特徴:アミロイドβの蓄積は直接関与しない。糖尿病や脳梗塞・脳出血になり易いなどの体質であれば、若年でも発病し得る(若年性アルツハイマー病)。 

注2)以前の記事でアルツハイマー病の微生物原因説を個人的に支持すると書いたが、より正確に言えば、「アルツハイマー病の微生物主因説」を支持する。ということになろうか。(A2了

 

 この説明だけでは分かりにくいかもしれないし、この記事の最重要部分にあたるので、この答えに関連する更問を設けてみると、以下のようになるだろう。先ずは微生物性のアルツハイマー病因に関し:

 

更問Q2-a. アルツハイマー病の一因とされる微生物は、どこから来たのか。

A2-a)元々体内に住み着いている微生物(腸内細菌、ウィルス、真菌など。「常在共生体」)が多いというか、ほとんどと考えられる。これらが神経細胞内に細胞内共生・感染を起こすと、ミトコンドリア向けの資源(燃料あるいは酸素)を奪うことから、エネルギー不足が生じ易くなる(もしかするとATP生成後の段階で奪われることもあるかもしれない)。
 ミトコンドリアの機能障害によるエネルギー不足は多くの病態に関連しているようで、以前の記事でも触れたように西原克成氏の著作「究極の免疫力」(2004年)によれば、(アルツハイマー病を含む)難病・免疫病の原因の多くは、免疫機能の脆弱性を突いて体内に侵入する微生物(病原体ではない、腸内細菌、ウィルス、真菌などの常在共生体が主)による細胞内共生・感染である、としている(「難病免疫病の微生物主因仮説」とでも名付けておこう)。

 更に補足しておくと、血液は古くは微生物フリーと考えられていたものの、そうではないことが分かってきている(例えば、歯石取りをすると、90秒後には口腔内の細菌が血管内をうろついているとされる。このため最近では献血制限もあるらしい)。脳はデリケートな組織でありその血管網には脳血液関門という機能的なバリア機能が存在すると考えられており、異物を通さないとされているが、実際には脳内で200種以上の微生物が見つかっている。全身の血管内を常在共生体がある程度うようよしているという構図が現実に近いイメージのようである。西原氏が前述の著作で提唱している考え方(常在共生体による長期的な影響)を歯科医以外的にも理解しやすい発想でまとめてみると、次のようになるだろう:


常在共生体気まま活動仮説
・ヒト体内では、常在共生体が宿主のために尽力する気など更々なく勝手気ままに活動している。このため、共生体による緩慢侵襲圧(その実態は防御壁を越えてきたものが細胞内共生・感染することに起因する異常とその蓄積)が常に生じている。同圧は体細胞と「低分裂細胞」(卵母細胞(生殖細胞の一種)、分裂終了細胞など)とでは作用が異なる。
・体細胞への緩慢侵襲圧の影響は、新陳代謝があるので、想定外の高い圧力や免疫力の低下がなければ排除可能とみられる(排除できなければ、若年での免疫病・難病へと発展し易いだろう)。高齢の場合、加齢による免疫力の低下、侵襲域の増加など不可避の面もあり、この影響が無視できなくなることもあるだろう。
・低分裂細胞への同圧の影響は、新陳代謝がほぼないことから圧力の強さと暴露時間の長さの兼ね合いで決まることになるが、時の経過とともに恒常的共生による長期的影響が避けられないので、結局加齢とともに正常に機能する細胞数が徐々に減少していくことになる(特に卵母細胞、脳神経細胞、筋細胞など)。

 

 ここまで来たのでついでに紹介しておくと、西原氏によれば、蕁麻疹も微生物が原因の病態であるとしている(体内に侵入した常在共生体が皮膚近くで細胞内共生・感染した際に、何かをきっかけとして除去するために強めの免疫応答がおこり、これが皮膚に症状として現れるものが蕁麻疹。更に言えば、蕁麻疹が間断なく継続して起こるものがアトピー性皮膚炎にあたる)。多分これが最もありがちな「常在共生体病」であるとみられる。(A2-a了

 

 次に高血糖性のアルツハイマー病因に関する更問を挙げておこう:

更問Q2-b. アルツハイマー病の一因とされる高血糖により引き起こされる問題は、どのようなものか。

A2-b)高血糖の問題の背景には、インスリンの作用の不足がある。細胞内の糖(グルコース)の濃度は普段より高まるものの(細胞膜上の非インスリン依存型糖輸送体(GLUT4以外のもの。脳の細胞ではGLUT1やGLUT3が発現)は、濃度勾配で糖を取り込むようで高血糖では多く取り込むことになるようだ)、インスリン作用不足のため解糖系によるエネルギー生成が高まらないことからエネルギー不足を引き起こし、更には別の問題を引き起こすことになる。この点については、冒頭の清水氏の別の記事が簡潔にまとめているので、紹介して答えに替えてみよう:

ポリオール経路は認知症にも関連  -2023年5月19日
https://promea2014.com/blog/?p=22208
アルツハイマー病では脳のブドウ糖の取込みが低下すると考えられていますが、もしかしたら脳のグルコースレベルが上がり過ぎて、脳のブドウ糖を取り込むGLUT活性の低下が起きているのかもしれません。そして、脳に溜まったブドウ糖の利用、クリアランスが低下し、ポリオール経路が増加し、ソルビトールやフルクトースが増加しているのかもしれません。ポリオール経路などの回路が促進されると酸化ストレスが増加し、解糖系が最後まで回りづらくなり、さらにポリオール経路が促進されてしまいます。
 グルコースの増加、フルクトースの増加は有害なAGEs(終末糖化産物)の増加をもたらします。脳はブドウ糖も上手くエネルギーにできないし、AGEsも増加するので、どんどん機能低下を起こすのでしょう。(A2-b了

 

 最後に血管性(血流障害性)のアルツハイマー病因について補足しておこう。

 血管が関与する認知症類型には別途「脳血管性型認知症」(認知症全体の約2割)というのがある。論理的に言えば、血管性の病因のものは全て同病に整理した方がよいとも考えられるが、どうも現実的には、画像診断による異常所見(脳梗塞、脳出血、多発脳梗塞など)がないと同病に区分されないようで、結果としてアルツハイマー病の区分に落ち込んでいるものがあるように見受けられる。

 また、太い血管周囲の神経細胞内なら一緒にいる常在共生体のために余分の燃料・酸素も取り込んでやろうという太っ腹なミトコンドリアがいるかもしれないが、細い毛細血管の先の片隅にいる神経細胞だと、血管が運べる燃料・酸素の上限がボトルネックとなりそうもかないだろう(このような状況だと、血管性か微生物性かの区別は判然としなくなる)。

 


 最後の3番目の問に移ろう。アルツハイマー病と言えばタンパク質アミロイドβを思い浮かべる人も多いだろう(アルツハイマー病のアミロイドβ原因仮説に基づく新薬が国内で発売されたようで、この仮説を信奉する人もまだ多そうだ)から、これらの関係をまとめおいた方がよいだろう、というのが問3の趣旨である:

 

問Q3. アミロイドβとは何か、蓄積するのは何故か。


A3)アルツハイマー病の微生物主因説の立場からすると、たんぱく質アミロイドβは、免疫応答物質の一種である、ということになる(アミロイドβの免疫応答物質仮説)。この点については、以前の記事でも触れたニクラス・ブレンボー氏に登場してもらおう。雑誌「プレジデント」のサイト "PRESIDENT Online" の記事から:

「認知症になりたくなければデンタルフロスを習慣にしたほうがいい」 北欧の分子生物学者がそう説くワケ 治療薬はなく、自然寛解もない恐ろしい病気 -2023/01/18
https://president.jp/articles/-/65373
記事2頁目の後段>ではアミロイドβが重要だとしたら、その機能は何だろうか。最も可能性が高いのは微生物と闘う武器になることだ
 微生物の培養液にアミロイドβを入れると微生物が死ぬことを科学者たちは発見した。アミロイドβは微生物の周りに凝集し、無力化して息の根をとめるのだ。さらには、念のため、厳重に保存する。このみごとなメカニズムが起きるのは実験室で培養した微生物に対してだけではない。
 マウスの脳に細菌を注入するとアミロイドβはさっそく活性化し、細菌の周りに集まって塊を作る。そのため、アミロイドβを持つマウスは細菌を注入されても生き残りやすいが、アミロイドβを持たないマウスは細菌によって死ぬ。さらに、アルツハイマー病の遺伝子研究から、この病気の発生に免疫システムが何らかの役割を果たしていることがわかっている。<

 

 別の例を挙げれば、頭部に外傷を受けた際に周辺にアミロイドβが蓄積する場合があるが、この蓄積は傷が治るとともになくなっていくという現象がみられるらしい。
 アミロイドβの蓄積に関し、異常なタンパク質の蓄積であり分解がかなり難しいと捉える、アミロイドβ原因仮説に親和的な立場を採るならば、外傷の治癒とともに蓄積が消滅する理由を別途説明する必要があろう。
 他方、アミロイドβの免疫応答物質仮説の立場からすれば、特段説明が不要な現象にあたるが、念のため書いておくと、外傷の出現で微生物がやってきたが外傷が治癒するにつれて微生物も除去され、免疫応答物質たるアミロイドβの蓄積も不要となり分解されてしまった、という説明になろう。

 脳内のアミロイドβの蓄積は、発病の20-30年前から始まるとされている。目安としては、高齢の70歳前後で発症するとして40代半ばあたりから蓄積が始まるということになるだろう。
 加齢により蓄積量が増えるのは、前述の常在共生体の気まま活動仮説を前提とすれば、緩慢侵襲圧が加齢により累積するため神経細胞に細胞内共生・感染する常在共生体が徐々に増加し、それに応じて免疫応答物質の蓄積も増加してくる、という説明になるだろう。(A3了

 

 以上のように、いろいろな仮説(ミトコンドリア機能病理論仮説、ATP恒常性のミトコンドリア制御仮説、難病免疫病の微生物主因仮説、常在共生体の気まま活動仮説、アルツハイマー病の微生物主因説・三病因混合仮説、アミロイドβの免疫応答物質仮説)を使って長々と妄想に近い内容を展開してきた気もするが、様々な現象を筋を通して整理できそうな印象を受ける方が強いので、(スタチンは認知症を進行させるの解説として)当たらずとも遠からずぐらいにはなっているのではなかろうか。

 最後に、最近の記事を一つ取り出して疑問を投げかけておこう(偶然の一致なのか、そうでないのか???)。科学情報サイト「ナゾロジー」の記事から:

会話内容の理解スピードは40代半ばから低下し始めると判明 -2023.10.10
https://nazology.net/archives/135894
>その結果、話し言葉を理解する速さは20代半ば〜30代前半でピークに達することが判明しました。
以前に行われた類似研究では、16〜18歳でピークに達すると示唆されていたので、これは言語の理解スピードが予想よりずっと遅くまで発達を続けることを示す結果です。
その一方で、このピークはそれほど長くは続きませんでした。
実験では、話し言葉の理解スピードは40代半ばを境に低下する傾向が見られたのです
これは先ほどと反対に、従来の予想よりずっと若い年齢でした。
また66歳〜78歳の高齢グループでは、事前の予想通り、他の年齢層に比べて話し言葉を理解する速さが遅くなっていたとのことです。<

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