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「コルチゾール過剰症候群」とステロイド剤の副作用 (7-1)

2012年08月22日 |  関連(生物学医学)

 今回も前回記事の続きだけど、その前に、このシリーズのタイトルの変更についてお知らせ。

 従来「コルチゾール過剰症」としていたけど、いろいろ症状があるようなので、「コルチゾール過剰症候群」に変更した。これは、なんとなく気分の問題といえる。

 あと、タイトルの付番の仕方を変更した。これは、夏バテもあり(節電バテ?)、まとめて長い記事を書くのが億劫になってきたので(涼しくならないと書く気が起きない、ではいかんし)、1つの項目を分割して記事をかいても後で検索しやすいようにという趣旨のもの(簡潔に書けばよいのに「ついでに」とか言って長々と趣味の領域を書くからだという意見もあろうが・・・)。

 お知らせは以上で、ステロイド剤(ステロイド系抗炎症剤)の副作用の項目別に、問題の症状へのコルチゾールの関与の仕方、関連する疑わしい症例をあげていこう。

(7) 易感染性

 易感染性へのコルチゾールの関与については、以前の記事(ココ)で触れたように、コルチゾールの基本的な作用には免疫抑制作用があり、このためコルチゾールの過剰は過度の免疫力の低下を招くことが関係している。この点を少し詳しくみると、ラジオNIKKEIの番組サイト「アボット感染症アワー」から、

ステロイド薬長期投与における重症感染症
2010年7月9日放送
http://radio848.rsjp.net/abbott/html/20100709.html (リンクはココ

ステロイド薬の免疫抑制作用
 ステロイド投与により感染症を起こす機序として重要なのは白血球に対する作用です。白血球分画は顆粒球と単核球に大きく分かれ,顆粒球には好中球・好酸球・好塩基球が,単核球には単球とリンパ球があり,リンパ球のなかには,液性免疫に関与するBリンパ球,細胞性免疫に関与するTリンパ球があります。通常は好中球がおおよそ6~7割を占め,リンパ球は2~3割です。

 ステロイド投与によりリンパ球の絶対数が低下します。特にCD4陽性のTリンパ球が減少することが問題となります。その結果、Tリンパ球由来のサイトカイン産生が低下します。例えばIL-1,IL-2,IL-3,IL-6,IL-8など,さらに腫瘍壊死因子(TNF)やインターフェロン-γなども低下します。
 また,これらにより,Bリンパ球の産生低下も来しますので,免疫グロブリンなど抗体の産生が低下します。

 実際にはステロイド投与により,末梢血中の白血球数、特に好中球数が著しく増加します。この作用機序として,好中球が骨髄貯蔵プールから末梢血へ動員されることが要因といわれています。一見するとこれは感染防御に働くように思われます。好中球が感染の炎症部位において働いていれば,問題はないのですが,炎症部位への好中球の遊走能はむしろ抑制されることが指摘されていますので,感染症の遷延化を招くことになります。また単球やマクロファージの機能も抑制されます。

 採血結果を見た時に免疫力の指標として,好中球が増加しているから免疫力が保たれていると思われがちですが,油断してはいけません。白血球分画においてリンパ球の占める割合が減少していることに注意すべきです。

 この内容を簡単に表にまとめると、

表1 白血球に対するコルチゾールの作用
 白血球の種類        コルチゾールの作用
  リンパ球            絶対数の減少(特にCD4陽性のTリンパ球)
  顆粒球             好中球の数の増加、好中球の遊走能の抑制
  単球・マクロファージ     機能の抑制
出典)上記記事。


 また、以前の記事(ココ)で使った表を再掲しておくと、

表2 白血球の役割、種類とその進化(4つの階層)
    役   割      免疫系の区分       白血球の種類
 4 外来の小さい異物を処理  獲得免疫(液性)  進化したリンパ球(胸腺由来T細胞、B細胞) 
 3 自己の異常な細胞を処理  獲得免疫(細胞性) 古いリンパ球(NK細胞、胸腺外分化T細胞) 
 2 外来の細菌を処理      自然免疫      顆粒球(このうち好中球が9割以上) 
 1 基礎的な防衛・司令塔    自然免疫      単球/マクロファージ(単細胞時代の名残り)
出典)安保 徹「免疫革命」(主に第5章)。


 リンパ球については、コルチゾールの作用によりリンパ球数が減少するとされ、液性免疫と細胞性免疫の両方の機能が低下することとなる。細胞性免疫の機能が低下するということは、この記事では触れられていないが、易発がん性も意味することとなる。

 単球・マクロファージについては、その機能が抑制されるとされるが、マクロファージは司令塔の役割を持っており、指令される方のリンパ球数が減るので、ある意味、整合性がとれていると言えるだろう。

 顆粒球については、その大部分を占める好中球は機能の抑制を受けるものの、代わりにその数が増加するとされている(なお、この記事では触れられていないが、好酸球及び好塩基球については、ともにその数が減少するとされている)。好中球全体として機能がどうなるかは定量的に議論しないとわからないが、横ばいか、あるいは増強と推測できるのではないだろうか。

 なぜなら、縄文人が実際に闘争・逃避反応を実行に移す状況では、擦り傷や切り傷が絶えないはずで(逃避にしても、舗装道路上を移動するはずもなく、獣道のようなところを走るわけだろうし)、そうすると傷口から侵入する外来の細菌への防御は、低下させたくないという事情があるからだ。


 ついでに、冒頭リンク先の記事には感染症の内容を説明したくだりがあるので、同記事からその部分を引用しておくと、
 
ステロイド投与中にみられる感染症
 ステロイド投与中に発症または重症化する感染症として代表的なものは,呼吸器感染症と尿路感染症です。代表的な細菌は黄色ブドウ球菌や大腸菌,緑膿菌などが挙げられます。

 細菌以外で注意しなければならない病原微生物は,ニューモシスチス・イロベチです。これは以前はニューモシスチス・カリニといわれ原虫に分類されていましたが、近年は名前が変わり、分類も真菌の一種とされています。カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカスなどの真菌や,サイトメガロウイルスやヘルペスウイルスなども重要です。ウイルスに関しては,潜伏感染していたものが免疫力低下により再活性化して感染症を引き起こすと言われています。 

 ステロイドによる易感染宿主における肺炎は特に重要で,ニューモシスチスやウイルス,真菌による日和見感染由来の肺炎は急速に重症化しやすいことから, 早期発見・早期治療が望まれます。たとえば,患者がかぜをひいたと思って,近隣のクリニックを受診した場合,実はステロイドを服用中である事を把握できなかったことで,予後不良の転帰をとることがあります。初診患者などで感染症が考えられる場合は,問診において既往歴、ステロイド服用の有無,用量,服用期間などを聞くことが重要です。

 また,プライマリケアで遭遇することが多い帯状疱疹にも注意しなければいけません。ステロイド投与によるウイルスの再活性化を常に念頭に置き、水泡が悪化する前に治療を開始すべきです。

 この内容を簡単にまとめておくと、

(A) 代表的な感染症は、呼吸器感染症、尿路感染症。
(B) 代表的な細菌は、黄色ブドウ球菌大腸菌緑膿菌など。
(C) 代表的な真菌は、ニューモシスチス・イロベチカンジダアスペルギルスクリプトコッカスなど。
(D) 代表的なウイルスは、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルスなど。

 (A)の「呼吸器感染症」については、普通の風邪、インフルエンザあるいは結核などが関連し、ここで解説されている肺炎のほか、喉の痛み、咳、気管支炎、喘息なども出やすくなるのであろう。また、「尿路感染症」については、病原菌との接触のし易さを考えれば、やはり膀胱炎であろうか。

 (B)の3つの細菌、(C)の4つの真菌については関連しそうなwikiのリンクを貼っておいたので、興味があればどうぞ。後者については、いわゆる日和見感染の原因として多くみられるものである。

 (D)については、挙げられているのは要はヒトヘルペス・ウイルスのことだけど、この点については、書き始めると長くなるので、次回へ。


(つづく)


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