ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

2023年8月にテーマ・タイトルを変更(旧は外国語関連)
2015年4月にテーマ・タイトルを変更(旧は健康関連)

はじめに・・・

 外国語テーマも長く続かずなので、従来の健康ブログに戻してみようかと思いまして・・・ 備忘録的に残しておくと旧タイトルは「タイ語、漢字を使って覚えるの?」でした。(2023.8月記)

 従来の健康ブログ時に記事を書いていて、何故か、そろそろ外国語でも勉強した方がより良いかなーと思いつきまして、以来ちょこちょこと続けてきましたが、なんとなく、ある事を覚えると別の事を忘れてしまうモードに入ってしまったようで、知識量が停滞しつつあるような感じになりました。

 そこで、本ブログを外国語学習ブログに変更して、自分の備忘録的にまとめておこうかなと思いまして・・・。

 しかしながら、少し飽きたのか内容を増やしすぎたのか、書くのに手間がかかるようになり、時間がとれない時は、別ブログ「単語帳の素材?」にてライトな記事を書くことにしました。(この別ブログも徐々にライトでなくなり、記事を500本ほど書いたところで滞り中・・・)

 なお、健康ブログ時代の記事は、コチラの 入り口 からどうぞ。(2015.4月記)
 最近の健康系記事はカテゴリー「タイ語以外(健康2019)」からどうぞ。

色素性痒疹と乾癬・炎症性腸疾患

2024年07月23日 | 思いつき

〔更新履歴:2024-7-24一部修正、7-30追記〕

 

 久しぶりなので、猛暑お見舞い申し仕上げます、と言いたいところだが・・・

 現在は約260万年前に始まった氷河時代であり、氷期と間氷期を繰り返している。現代は間氷期だが、先の間氷期(およそ130k年前から116k年前)については、かなりの精度で科学的観測ができていて(前々の間氷期は雑音との区別がより難し)、個人的に信じている説だと、平均気温が摂氏で3-4度、海水面が今より4-5メートル高かかったらしいので、最近の気候は起こり得る出来事の範囲内とも言える。

 

 このブログの記事は、境界の生態系(皮膚、粘膜)の話で途切れてしまっていたところ(その続きとして皮膚の生態系に特化した話を続ける予定だったものの)、その続きを別の話題にて・・・

 

 我が国における糖質制限食の導師様(江部氏)によると、糖質制限を導入した際の低カロリーはいろいろと良くないらしい。ブログ「ドクター江部の糖尿病徒然日記」の記事から二つ:

 

糖質制限食実践中の好ましくない症状は、ほとんどがカロリー不足です。 -2022年11月04日 (金) 
https://koujiebe.blog.fc2.com/blog-entry-6124.html
>こんにちは。

糖尿病
メタボリックシンドローム・・・内臓脂肪蓄積が元凶
肥満
肥満に伴う高血圧
アトピー性皮膚炎
花粉症
尋常性乾癬
逆流性食道炎
尋常性痤瘡(ニキビ)
片頭痛
機能性低血糖
歯周病
潰瘍性大腸炎
認知症

など様々な生活習慣病の予防・改善に糖質制限食が有効です。勿論、個人差はあります。
 生活習慣病の本質は『糖質頻回過剰摂取+インスリン頻回過剰分泌』病です。すなわち、「生活習慣病=糖質過剰病」といっても過言ではありません。糖質制限食が『糖化・酸化ストレス』を防ぎ、内臓脂肪蓄積・生活習慣病・老化・認知症を予防します。<

>糖質制限食開始時に、おそらく長年の習慣で脂質まで制限してしまう方々がおられます。この場合「糖質制限+脂質制限」となりますので、食べるものは、白身魚やササミなどヘルシーとされるたんぱく質と葉野菜や海藻・茸の類いが主となります。
 こうなると、本人は気がつかないまま、摂取エネルギーはかなり少なくなり、厚生労働省のいう「推定エネルギー必要量」を大幅に下回り、様々な症状と検査データの変化が生じます。・・・<
><結論>
糖質制限食開始後にみられる好ましくない症状(全身倦怠、筋力低下、無気力・・・)のほとんどが、摂取エネルギー不足からきています
 甲状腺機能低下症といきなり飛躍したりせずに、普通に摂取エネルギー不足を考慮してみてくださいね。<

 

『色素性痒疹』 について -2024年07月15日 (月) 
https://koujiebe.blog.fc2.com/blog-entry-6606.html
>こんにちは。
今まで、色素性痒疹については、何度か質問を頂き、検討してきました。
結論を言いますと
ほぼ全ての色素性痒疹は、低カロリー食が原因である。」
ということになります。<

 

 このような記事には少し思う所あり、後者の記事にコメントとして次の見解を打ち込んでおいたところ(同ブログのソース基準は厳しめなので、素人の体験談ベースの内容にに留めておいた。糖質制限の導師様には敵が多くここぞとばかり足を引っ張る人が数多いて、特異的な体質の少数を切り捨てるような言説になっているのは仕方のない面もあるところ):

 

色素性痒疹の本質に係る別説

 数年前に緩い糖質制限を導入しまして、その際に個人的に最も困ったのが皮膚症状でした。ネット上の一例報告やうわさを元に一時的なサプリ摂取で克服した経験があります(カロリー的にはサプリ摂取前後で概ね変化なし)。
 このため、この皮膚症状を「色素性痒疹」と見立てつつ、次の問を建てて回答を探していたところです:

Q 糖質制限の導入の際の色素性痒疹については、治したり防止するのにナイアシンの服用(500mg/day程度かそれ以上)が有効という説が数年前巷で広まっていた。仮にこれが正しいとして、何故いいのだろうか?

 今回の記事をきっかけに再度検討してみたところ、答えが作れそうなシナリオを思いつきました(色素性痒疹のインスリン一過性作用不足起因説)。インスリを補充すれば著効するとされており、このシナリオとも矛盾しないようにも思えます:

色素性痒疹を合併した糖尿病性ケトーシスの3例 -2000年

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo1958/43/5/43_5_387/_article/-char/ja/

 与太話はこの辺で失礼します・・・

注1)上記のQの回答を脚注1に追記。

 

 ちなみに上記コメント内で言及した報告は、国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) の科学文献サイトのものだが、そのさわりは:

>抄録
 色素性痒疹は著しい瘋痒を伴う紅色丘疹が発作性に多発し, 後に粗大網目状の色素沈着を残す皮膚疾患である. その発症にケトーシスの関与も示唆され, 糖尿病領域でも注目されている. われわれは, 過去6年間に糖尿病に合併した色素性痒疹を3例経験したので, 文献的考察を含め報告する. ・・・<

 

 その後、自説(色素性痒疹のインスリン一過性作用不足起因説)を本ブログの進化的な考え方と整合的になるよう転がしてみたところ、以下のようにまとめることができたので、紹介しておこう(個人的には、糖質制限食の導入によって花粉症やアトピー性皮膚炎が軽快するのは、異物除去能力の本来能力の回復で説明できそうだと感じていた。しかし、尋常性乾癬や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease、IBD)にはそれだけでは射程が届ないと常々感じていたのだが・・・):

 

・食性の変更(狩猟採集食⇔農耕食)により血清インスリン濃度が変化しIGF(Insulin-like Growth Factor。インスリン様成長因子)も変化するとされている(農耕食で高値へ。例えば、約2倍との報告は注2参照)。
・農耕食は比較としてがんを招き易く細胞増殖を促すようであり、宿主の細胞の新陳代謝を軸として維持されている境界の生態系(皮膚、粘膜において宿主と常在の微生物・ウィルスとが共創するもの)に対し増殖過多・過少を通じて影響を及ぼし、肌環境又は腸内環境を乱し得る。

・このような生態系異常(dysbiosis)を契機とした免疫力の低下により上手く対処できないときは(注3)、具体的には農耕食において皮膚(表皮)の増殖過多による「乾癬」が、腸粘膜(粘膜上皮)の増殖過多による「炎症性腸疾患」が生じると思料される(インスリン水準変動による境界生態系異常症候群仮説)。
・他方、農耕食⇒狩猟採集食という変更においては(インスリン・IGF低値へ変化)、増殖過少による生態系異常があり得、皮膚(表皮)の増殖過少による「色素性痒疹」が生じると思料される(インスリン一過性作用不足仮説。なお、腸粘膜の増殖過少によるものは多分炎症性腸疾患に取り込まれているものと思料)。

・ヒトの本来の食性はインスリン・IGF低値であり、食性の変更によりこれらが高値から低値に誘導されたとしても、いずれ全身においてインスリン・IGF低値に対応した設定に調節可能と考えるのが自然だろう(乾癬も炎症性腸疾患も難治とされており、高値への対応能力には個人差があるのだろう)。

 

注2)ブログ「ドクターシミズのひとりごと」の記事から:

糖質制限でケトーシスになっている人が糖質制限を止めたらどうなる? その1 -2023年11月8日
https://promea2014.com/blog/?p=24243
>IGF-1も同様に、149.30μg /Lから273.40µg/Lに増加しました。<
引用者注)同記事の図表の上から4番目あたり参照。糖質食で約2倍になるらしい。

注3)ここでは免疫力は、侵入防御能力と異物除去能力との兼ね合いで決まるものと考えている(詳しくは2024-2-1付けブログ記事参照)。故に「免疫力の低下」は侵入防御系(バリア機能)自体の劣化、及びそれによる異物除去系の負担増により起こるものを意味する。

 

 この仮説(インスリン水準変動による境界生態系異常症候群仮説)が正しいとすると、潰瘍性大腸炎のほか、クローン病(炎症性腸疾患の一種)にも糖質制限食が有効なはずだが、

個人の体質に応じて、粘膜上皮細胞の増殖過多・増殖過少にならない範囲で糖質量をゆっくりと減らしていく必要がある

というのがかなり難しいのかもしれない。

 

 適当にまとめると、

乾癬や炎症性腸疾患は、糖質食により免疫力の低下(バリア機能及び異物除去機能の両方の能力低下)により起きる疾患であろう

ということになろうか。

 

脚注1)本文中のQの回答について(Qを再掲しつつ):

Q 糖質制限の導入の際の色素性痒疹については、治したり防止するのにナイアシンの服用(500mg/day程度かそれ以上)が有効という説が数年前巷で広まっていた。仮にこれが正しいとして、何故いいのだろうか?

A)先ず、色素性痒疹については、次のような病態と考えられる(インスリン一過性作用不足起因説):

・ヒトは、狩猟採集食の時代にはもともと血清低インスリン・低IGF(インスリン様成長因子)であろう。糖質食に変化すると、これらが高めに誘導される結果、皮膚の新陳代謝系においてそれらの感受性が自ずと抑制・低下するものとみられる(この抑制が慢性的に上手くいかない場合もあり得るだろう)。
・糖質食から糖質制限食に戻した際には、燃料供給系(ぶどう糖・脂肪酸の供給系)の調整は〔2-3週前後で〕済むようだが、皮膚の新陳代謝系の調整には個人差のため〔12週前後ほど〕かかる場合があるとみられる(二つの期間は体感からの山勘推定。この場合には、血清インスリン・IGFが低め誘導される中、感受性が抑制されたままの期間が生じ作用不足が起き皮膚が脆弱となるため色素性痒疹に至るのだろう)。

 次に、ナイアシンの服用(高容量)については、肝臓のミトコンドリア内にNAD+(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド。摂取ナイアシンから代謝産生される補酵素で、電子伝達体の一種)を過剰に供給することがあり得、その際にはNAD+とNADH2+(還元型ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)とによる酸化還元制御に支障を来たすことから、肝機能を障害しインスリン抵抗性を発揮させることがあるとみられる(脚注2、3参照)。
 従って、ナイアシンの服用によりインスリン分泌水準が高めに誘導される結果、一時的なインスリン作用不足が解消し皮膚の新陳代謝系が健全化するため、色素性痒疹に有効になるものとみられる。

 

脚注2)肝機能障害・インスリン抵抗性の存在については、ブログ「ドクターシミズのひとりごと」の記事から二つ:

ナイアシンは安全か? その2 -2019年7月11日
https://promea2014.com/blog/?p=8719
>ナイアシンのこのような肝臓に対する肝毒性と、脂質代謝に与える効果、そして「その1」で書いたインスリン抵抗性の増加、などを総合的に考えれば、ナイアシンは肝臓に対する大きな作用があり、その一部の効果はコレステロールや中性脂肪を低下させますが、その他の効果では肝臓のインスリン抵抗性を招き、何らかのシグナルが出て筋肉のインスリン抵抗性も起きるのではないでしょうか?そして一部の人にはナイアシンの肝毒性が起きるほどに強く肝臓に効果を与えるのです。そして、ナイアシンの肝毒性が検査値にどのような変化を与えるかは非常に多彩です。通常の肝機能(ASTやALT)の上昇が少ないからと言っても安心できませんし、そのまま経過をみて進行してしまっては非常に危険です。少しでも異常値が出たら中止の方が良いと思います。
 いずれにしても、定期的に肝機能の検査、凝固能の検査等ができないのであれば、ナイアシンは慎重に少量で使用すべきです。少しでも異常があれば検査等が必要です。2~3gを飲み始めて数週間という期間で肝臓に大きな問題を起こす場合もあるのですから。<

ナイアシンは安全か? その1 -2019年7月8日
https://promea2014.com/blog/?p=8762
>先日、糖質制限の情報が非常に豊富な「もう失敗しない!正しい糖質制限ダイエット」というブログでナイアシンについて取り上げられていました。非常に興味深く拝見させていただきました。(それにしてもすごい情報量です!)そこではナイアシンの大量摂取で血糖値が上昇したことが書かれていました。
 ナイアシンについては様々な健康に有益な効果をもたらすと考えられ、サプリとしても人気でしょう。しかし、確かに添付文書上では副作用として耐糖能低下が書かれており、耐糖能異常の人には慎重投与となっています。
 これまではあまりナイアシンについて興味がなかったのですが、糖質制限を勧めている以上、血糖値が上がる仕組みを知りたくなりました。と言っても実際には完全に解明されてはいないと思います。
 その記事の中では「ナイアシンは脂質代謝を亢進させてコレステロールを下げる効果があるので、グリセロールを原料に糖新生が亢進する可能性があるのと、人によっては糖新生自体を亢進させる」とどなたかにアドバイスされたことが書かれています。
 前半の部分は糖新生の原料が増加すると糖新生が亢進するのであれば、糖質制限をしている人は脂質代謝が亢進しているので、多くの人が高血糖になってしまう可能性があります。しかし、糖新生はコストがかかる反応なので、必要に応じて必要なだけ行われると思うので、ちょっと違うのでは?と思います。しかし、後半の糖新生自体を亢進させるというのは、人間の正常な代謝を越えて糖新生を起こす何かメカニズムがあるということだと思うので、これはもしかしたら「あり」なのかもしれません。<
>上の表は脂質やカテコラミンの反応です。ニコチン酸によりどのグループも確かにコレステロール値や中性脂肪値は低下しています。カテコラミンはエピネフリンは変化していませんが、ノルエピネフリンは増加しています。ノルエピネフリンはいわゆるインスリン拮抗ホルモンで、糖新生を起こします。確かに糖新生を亢進させるメカニズムが存在しそうです。糖尿病の人では暁現象が起きやすくなる可能性があるでしょう。
 いずれにしても、ナイアシン(ニコチン酸)によりインスリン感受性は低下、つまりインスリン抵抗性が高まり、それに対して耐糖能が正常である人はインスリン量を増加させて対応しているようです。しかし、インスリン分泌能が低下していれば、そのような反応が十分ではなく、血糖値の上昇が起きるようです
 血糖値が見た目に変化がなくても、最も気になることはインスリン分泌が大きく増加していることです。高インスリン血症は非常に有害だと考えられます。ただし上の図のグラフを見てもわかるように、人によってはインスリン感受性が増加している人もいます。何が違うかは不明です。多くの人は感受性が低下していると思われますが。
 つまり、糖質制限をする人にとって(糖質制限をしていない人にも)大量のナイアシンを使用することは良くない可能性が高いことになります。特にすでに糖尿病を発症している人、食後高血糖を示す人などには恐らく有害です。β細胞にとって良くないと思われます。ただし、いつも言っていますが、この研究は糖質過剰摂取をしている人で行われています。糖質制限との組み合わせでは不明です。<


脚注3)ナイアシンによる肝機能障害の機序については、国立情報研究所(NII)サイト内の「東京医科大学 学術リポジトリ」の報告から:

健康補助食品の過剰摂取を契機として肝機能障害及び好中球増多症を呈した一例 -2022年
https://tmu.repo.nii.ac.jp/records/13252
>考 察
 ニコチン酸やニコチンアミドなどのナイアシンは速やかに肝臓に取り込まれ代謝される。大量投与により肝逸脱酵素の上昇やプロトロンビン時間の延長、高尿酸血症などの症状を呈する1)。特に、サプリメントなどのナイアシン徐放性製剤では肝毒性のリスクが最も高いとされる2)。肝毒性が生じる機序は正確にはわかっていないが、近年の報告ではナイアシン代謝に伴い産生されるニコチンアミドモノヌクレオチド(Nicotinamide mononucleotide : NMN)や還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド〔フォスフェート〕(Nicotinamide adenine dinucleotide phosphate : NADPH)により肝細胞ミトコンドリア内の酸化還元不均衡が生じ、結果として肝機能障害をきたすと推測されている3)。・・・<

 この見解をベースにして考えてみると、具体的には次のような感じかもしれない:

- 肝ミトコンドリア内における酸化還元制御の不均衡は、TCA回路(トリカルボン酸回路)の中間体(オキサロ酢酸とリンゴ酸)の平衡関係を乱すため糖新生や脂肪酸β酸化の亢進を引き起こし、肝機能を障害し得る。この際には、肝臓での遊離脂肪酸不足が起こり、中性脂肪合成が阻害され血清中性脂肪も低下するのだろう。
- これらの亢進はインスリン作用と拮抗するが、カテコ-ルアミン(ノルエピネフリン)分泌が増えてインスリン抵抗性が生じて解消されることが多いようであり、結果、インスリン高値(場合によっては血糖高値)に誘導されることになる。
- 末梢(筋肉)では、低下した血清中性脂肪に対応するため、リポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性を上昇させるようインスリン抵抗性が生じるのだろう。

コメント

高抗体価の意義(田頭氏24/3/21記事関連)

2024年03月23日 | 思いつき

〔更新履歴:2024-3-31一部修正追加〕

 

 ワクチン理論は余り興味が湧かないので個人的にほとんど勉強していないけど、内科医の田頭氏の「たがしゅうブログ」の次の記事に啓発されたので、少し抗体価について考えてみたところ備忘録として・・・:

 

ワクチン打って抗体がつかない人で見過ごされている価値 -2024/03/21 
https://tagashuu.jp/blog-entry-2152.html

>この度のはしか報道の中でも、「抗体の有無を確認して、なければMRワクチンを打ちましょう」などという主張がよくなされています。
 「MRワクチンは有効」という前提に立っているので、このワクチンを打てば長く「抗体」を作り続けることができるということになると思います。それでも、中には「抗体」が時間とともに低下してしまっている人がいるので、少なくなったらワクチンを打ちましょうという論理が成立します。
 ただここで考えたいのは、そもそも「特定の抗原に対する抗体が年余に渡って上昇し続けていることははたして身体にとって本当に良いことなのか」ということです。
 人体のエネルギーは有限です。ここに異論のある人はいないと思います。抗体を産生させるにも、あるいはその状態を維持するのにも、何らかのエネルギーを費やし続ける必要があると思います。
 しかしこの度のコロナワクチン接種でも明らかになってきたように、抗体が高いことが必ずしも感染予防に寄与しているとは言い切れない状況です。あるいは、コロナワクチン接種後にはIgG4という不完全な性質の抗体が生まれるということもわかってきています
 これは私の考えですが、抗体産生システムをあまりにも過剰に刺激し過ぎると、一定の割合で不完全な抗体が生み出されてしまうのではないかと思うのです。
 そうすると本来異物を攻撃するはずの抗体が間違って自分の組織を攻撃してしまったりすると、そう考えるとIgG4関連疾患と呼ばれる病気が自己免疫疾患様に振る舞うことも説明がつくし、ステロイドが有効であることもしっくりきます。<

>これは「ワクチンは有効」という前提に立てば、「なかなか抗体がつかない厄介な体質」という理解になってしまうかもしれませんが、実は「少々の異物接触では抗体産生システムを乱されない安定的な恒常性維持能力」を意味しているのかもしれません
 かくいう私もB型肝炎ウイルス予防ワクチンを医療従事者の責務として打っていた若手医師の時代に、何度ワクチンを打っても大して抗体がつかないという経験を持っていました。その当時は自分の体質を厄介だなと感じてしまっていましたが、今にして思えば異物に負けずに身体が頑張ってくれていたのかもしれません。<


引用者注)MRワクチン:麻しん風しん2種混合ワクチン。MRは "measles and rubella" の略。

 

 上記引用の記事の内容(注1)に則して考えてみると:

 

注1)これに関連し、たまたま読んでいた、進化生物学者の長谷川 政美氏の著作「ウイルスとは何か」(2023年)において、麻疹ウイルスに関し次の記述を見つけたので紹介しておこう:

「その結果、麻疹ウイルスが牛疫ウイルスから分かれたのがおよそ2500年前(紀元前528年:95%信頼区間は紀元前1174年前~紀元後165年)・・・ということが分かってきた。
 およそ1万年前にウシ、ヤギ、ヒツジなどが家畜化されたが、これらの動物の感染症である牛疫ウイルスや小反芻獣疫ウイルスは、家畜化の後で出現したものと思われる。一方、ヒトに感染する麻疹ウイルスは人口25万~40万以上の規模の都市かないと、感染が持続しないといわれている。
 麻疹は一度罹ると一生のあいだ免疫が持続するといわれているので、これくらいの規模の都市がないと持続的に感染が保たれないのである。このような規模の都市が生まれるのが紀元前500年ごろであり、そこで牛疫ウイルスがヒトに感染するようになって、麻疹ウイルスに進化したものと考えられるのだ。
 麻疹の免疫は一生持続するので、『二度なし病』といわれていたが、最近は2回かかる例が出てきた。麻疹の免疫もやはり時間とともに減衰する。従来は常にある間隔をおいて麻疹の流行があったので、無症状で感染して免疫の抗体価を上げるということを繰り返していたのだ。ところが、ワクチンの普及でこのサイクルが途絶えてしまったために、2回罹るようになったのだという。」(同書112-113頁)

 

  進化的にみれば、麻疹は狩猟採集時代にはなかった病ということなのだろう。想像を巡らせると次のような感じだろうか:

-野生の牛が家畜された結果、個体群密度が高い状態の生活様式に変化し病原性ウイルスが発生した、

-時には牛も病気になり、その世話を人々がすることになり、牛とヒトとの接触が緊密なり、ヒトを宿主とできるようにウイルスが変異してきた、

-ヒトの集落が小さいうちは流行も起きないのだろうが、集落が都市化して個体群密度が高まると、流行するようになった。

 たまたま欧州の古代都市(トリピーッリャ、紀元前4000年頃。ウクライナの遺跡)の再現イメージ図を掲載した記事を見つけたので紹介しておこう。ニュースサイト「Gigazine」の記事から:

古代ヨーロッパで牛は食肉目的ではなく「糞」のために飼育されていた -2024年03月29日
https://gigazine.net/news/20240329-cattle-trypillia/
(記事中の3番目の図表が古代都市の再現イメージ図)

 ウシの家畜化された後の生活様式、ヒトの家畜飼育後及び集落の大都市化後の生活様式は、それぞれの従来の生活様式と異なりその歴史が浅いことから、高い個体群密度、牛との頻繁な接触などに対し遺伝子的に対応ができていないということかもしれない。ヒト側の都合では都市化や牛の飼育を止めるわけにもいかないだろうから、麻疹ウイルスの類を根絶はできなくて、共存していく道しかないのかもしれない。

 

引用記事から>「特定の抗原に対する抗体が年余に渡って上昇し続けていることははたして身体にとって本当に良いことなのか」

 製薬企業は、いろいろな仮説(天然の薬効成分の発見・精製は粗方終わり、創薬に手を出しているが故に本来複雑系のものを簡略化した何らかの枠組みが必要なため)が庶民にとって最終的に有益かどうかにかかわらず、利己的に仮説(この場合は「高抗体価万歳教」)の布教に努めているように見受けられる。また、企業内部の専門家も、庶民のためにと利他的行動を追求していると部門ごとお取り潰しの可能性もあり、利己的へと流されてしまうのかもしれない(創薬でしょうもない薬ができても「ボツです」とは言えずに、投資を回収する道筋を付けないといけない暗黙の圧力が内部であるのかもしれない。摩訶不思議でありながら販売開始された脳内のアミロイドβを分解する薬も、このような感じの産物なのかもしれない。注2)。

 

注2)かつて、とあるスポーツの採点競技を観戦していて思ったのが「潰しの効かない専門家ほど嘘をつき易い」ということなのだが、今は世界的に経済成長の原動力に乏しい状況なので、営利的な事業のいろいろな分野に広がっている雰囲気とも言えよう。

 専門家というのも一種のオタクな訳で、皆が人格高潔というわけでもないだろう。そのオタクとしての力を発揮し楽しい人生を送るためには、専門家の職務にしがみついていないといけない(人格高潔なら「武士は食わねど高楊枝」的な振舞いができるかもしれないが・・・)。真に優秀なレベルであればどこでも拾ってくれるだろうが、普通のレベルであれば、専門家集団内に序列をもたらす権威・考え方に挑戦するというのは難しいだろうし、権威筋や資金提供者の顔色を窺い迎合するという必要性が高まるのかもしれない。


 生物的には強毒の病が流行っても集団内の誰かが生き残る戦略のため、個々人の免疫系には多様性が確保されており、同じ異物の対処の仕方でも個人差が大きいだろう(例えば、抗体価は個人差も大きく同じ状況下でも100倍以上あるともされている)。各種アレルギーや花粉症をみても、抗体が多いことが必ず体に良いとは思えない。次の新聞社の記事は、安易に抗体価を上げることの危険性を示しているのだろう(デング熱は、熱帯ではいわば土着の風邪で子供の頃に感染することが多く、複数回感染すると稀に出血熱に移行して重症化する人がいるようで、エボラウイルス病にも似ている印象):

62人死亡? 比デング熱ワクチン導入の“失敗” -2018年7月22日
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20180713/med/00m/010/021000c

 

 抗体も人体にとっては異物の一種であり(異物の構成タンパク質に特異的に反応する部分があり、自己とは異なるため)、二度・三度と人為的に量を増やそうとすると弊害があり得、必要に応じて自然にできる方が望ましいのだろう(例えば、免疫グロブリンIgG4は、山勘だと、必要以上に抗体が多すぎる場合に実際の免疫応答の現場でブレーキをかける役割と思われるところ。免疫系の多様性の故に、抗体価は上がれど現場での細胞性免疫は低下してしまう体質の人がいそうである)。

 


冒頭引用記事から>何度ワクチンを打っても大して抗体がつかないという経験を持っていました

 抗体価引上げ販売モデルにも闇があるのかもしれない。製薬業界による高LDLコレステロール対策や高血圧対策の薬販売モデルには、結構な闇が存在すると理解しているところ、低い抗体価(未感染なら当然)を何とかしようという取組みにも似たような構図が潜んでいる可能性があるだろう。

 この販売モデルの前提は

   「抗体価が高い方が感染への抵抗力が高い」

という理解なのであろう。この仮説に基づいて各種の抗体価を上昇させる薬(抗体価上昇薬。いわゆるワクチンがその典型例。昔からの名前を出さない方が適正な考察ができそうなのでリネーミング)が製造されているのであろうが、本当にこの前提が正しいのかどうかも考える必要があろう。

 副次的な前提(副前提)としては

   「抗体価上昇薬を使えば、抗体価が上がる」

というのもありそうだ。薬を使っても抗体価が上がらない体質の人は、稀な特異的な体質と整理としてるようだが、本当なのだろうか。

 

 先ずは、副前提への疑問を述べておこう。ウイルスに対する免疫応答には、自然免疫系のものもあり、その段階で余裕をもって処理されてしまえば、自ずと抗体はできにくいだろう。この方面の最近の知見(ウイルスに侵入された細胞内での自然免疫応答の模様)を知れば、獲得免疫が始動しそうもない人がいそうなことは容易に想像がつきそうなものである:

 

RNAウイルスの増殖を抑え込む、2段階目の防御戦略を発見 ~DNAウイルスへの反応経路を利用~ -2021.10.15
https://www.iis.u-tokyo.ac.jp/ja/news/3637/
>〇発表のポイント:
◆細胞は、DNAウイルスとRNAウイルスそれぞれに対して別々のセンサーと反応経路を介して、自然免疫を誘導すると考えられてきた。
◆マイナス一本鎖RNAウイルスである麻疹ウイルスが感染した細胞内では、RNAウイルスに対するセンサーに加えてDNAウイルスに対するセンサーも活性化し、重層的に自然免疫が誘導されることを、今回初めて発見した。
・・・<

 

 次に、前提への疑問についでに言えば、(既述の抗体の数量問題のほか)薬剤が産生する抗体の質にも問題がありそうである。自然感染後の方がよい抗体が身に付くとも言われており、人為的に盛った抗体価の強さと実際の感染への抵抗力との間に相関があるのか疑問が残るところ。
 本当に、人為的な抗体の質は良いのだろうか。抗体価が高い人がいっぱいいても感染の広がりを止められていない現状がある。そうすると、人為的に盛った抗体価に本当に意味があるのか、ということも考える必要があろう(注3)。従来一般人には知られていなかったが近年広がってきた抗体原罪の話は、まさに抗体の質の問題に関係しているのだろう。ビジネス・モデルの根幹に係わる話なので、なかなか情報は表に出てこないのかもしれない。

 

注3)抗体価上昇薬の場合、自然感染できる抗体価に対し平均するとその約20分の1の水準にしかできないものでも有効されている場合がみられる。人為的に盛った抗体価については、もしかすると体質によっては、感染への抵抗力を高めるためには絶対量として少なすぎるという点が問題になっているのかもしれない。この点は、抗体価を評価するための閾値が(免疫系の多様性を確保するために)様々ある体質の個々人全てに対して妥当なのか、ということと関連していそうである。

 


 以上のように考えを巡らせると、高い抗体価でよくないこともあり、低い抗体価でも問題ないこともある、という事情が浮かび上がるのだが、果たして現実は・・・?(注4)

 

注4)注1で触れたように、人為的に抗体価を上げると従来「二度なし病」と整理されていた感染症が「二度あり病」に変化するという現実があるようだ。従来は、当初感染した後、15-20年以下の周期で流行するようなら無症候感染による追加免疫効果(抗体価のブースト効果)でほとんどの場合に二度なしが実現していたのだろう。抗体価上昇薬が広く普及すると二度なし病が二度あり病に変化するのであれば、30-40年スパンで観察して、庶民にとって長期スパンでみても感染リスクが減ることを検証していく必要があろう。
 個人的なコスト・ベネフィト的には、二度なし病であってくれた方が楽でいいので、今後において抗体価上昇薬の利用に対するハードルが上がったかなと思うところ。

 

 最後に、なんとなく抗体価上昇薬を分類すれば、従来型のワクチン(21世紀以前に開発されたものに限る)、遺伝子操作を伴うワクチンもどきの類(所詮もどきであり「ワクワクチーン」とか「ワクチンチーン」とでも呼ぶべきか)、その他の抗体価上昇薬の三つに分類できるだろうか。個人的には、前者は打ってもいいけど(トラブルの程度が実証されているので)、中者や後者は、よほどのことがない限り打つことの是非の検討すら始めないだろうという感じ(とある感染症が交通事故死リスクを上回らないと、そもそもワクチン理論(現状では仮説の一種と評価)を勉強する気が起きないところ)。

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細胞の解糖系依存度仮説(清水氏24/3/18記事関連)

2024年03月20日 | 思いつき

〔更新履歴:2024-3-25及び27一部修正追加〕

 

 個人的に謎が二つあって、暇な時にいろいろ考えていたところ:

Q1 ヒトの腸内で何故乳酸菌は通過菌なのか?
Q2 ヒトには細胞分裂抑制メカニズム(がん抑制遺伝子など)があるが、促進メカニズムはないのか?(特に解糖系が関与するもの)

 

 前者は、腸内細菌に関する本(ジャスティン・ソネンバーグ著「腸科学 -健康な人生を支える細菌の育て方-」(2016年))を読んでいて出てきたものである。乳酸菌は、定着できないので常在共生体にはなれないらしい(注1)。というか、体に害のものあるらしく、体内に侵入させてはいけないということで乳酸菌がやってくると腸管のバリア機能が強化されるらしい。結果として、乳酸菌は留まれず常に排泄され強化された腸管バリアが残るので、体に良いものと一般的に認識されているらしい(一種のホルミシス効果であった模様)。

 後者は、乳酸の話には直接関係しないけど、安保 徹氏の言説の一つに「がん細胞の先祖返り仮説」というのがある(詳しくは、その著書「免疫力で理想の生き方・死に方が実現する」(2013年)を参照)。簡単に説明すると、細胞(真核細胞)は解糖系生命体とミトコンドリア生命体(酸化的リン酸化生命体)との共生生態系から発展したものであり、低体温・低酸素・高血糖の環境に長く置かれると先祖返りしてがん細胞(解糖系が亢進し細胞分裂つし続ける解糖系生命体様のもの)になるというものである。この言説が正しいとすると、ミトコンドリアと解糖系が関与した細胞分裂促進メカニズムがあるはずなので、消極的に探していたところ(注2)。

 

注1)ここの内容は原本を要確認。腸内の常在共生体のうちラクトバチルス属(Lactobacillus 。「ラクトバシラス」とも呼ぶ)の細菌も「乳酸菌」と呼べるらしいので、この部分の趣旨がはっきりしなくなるところ(すまぬ・・・orz)。手元にない原本を再度確認する予定ということで・・・。とりあえずここでは「食事として新規に摂取する乳酸菌」という趣旨にしておこう。

注2)乳酸と解糖系との関係についておさらいしておこう。解糖系については、福岡大学のサイトの記事から:


解糖
http://www.sc.fukuoka-u.ac.jp/~bc1/Biochem/glyclysis.htm
解糖(glycolysis)はほとんど全ての生物に共通に存在する糖の代謝経路で,反応は細胞質で行われる。解糖は Embden-Meyerhof 経路とも呼ばれ,本来、D-グルコースの嫌気的分解による乳酸やエタノール生成までの過程(発酵という)を意味したが、好気的条件下でもピルビン酸までは全く同じ経路をたどる事が分かった。・・・<

>嫌気的解糖と好気的解糖
 嫌気的条件では、乳酸やエタノールの生成が最終段階となり,1分子のグルコースから2分子のATPがつくられる。
    Glucose + 2 ADP + 2 Pi + 2 NAD+ → 2 Pyruvate + 2 ATP + 2 NADH2+ + 2 H2O
筋肉など大部分の組織はグリコーゲンを貯蔵しているので,解糖はグリコーゲンから始まる。・・・
 一方,好気的条件では乳酸生成の速度が著しく低下する。これは、(a) ピルビン酸→ 乳酸の経路から,(b) ピルビン酸 → アセチル-CoA → TCA回路 → 呼吸鎖の経路に切り替わるためである(パスツール効果)。(b)の経路を利用した場合,グルコース 1分子から最大38分子ものATPが得られる(グルコースの完全酸化を参照)。<


引用注)Pyruvate:ピルビン酸、NAD+:ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(電子伝達体の一種で、〔酸化型〕NAD+ ⇔ NADH2+(還元型NAD+)の間で反応の際の電子伝達を媒介する。NADH2+はより高いエネルギー順位で、通常はミトコンドリア内に輸送されて電子伝達系でATP産生に利用され元のNAD+に戻る)。


 進化的にみれば、解糖系の基本は乳酸(又はアルコール)の生成となっている。ヒトの場合は、酸欠だと生死にかかわるので普段は好気的であるため乳酸の生成まで行かずにピルビン酸に留まり、そこから別の代謝系(主にミトコンドリア系)に入ることが多い。筋肉において、ピルビン酸が乳酸まで変換される理由については、日本蛋白質構造データバンク(PDBJ)のサイトの記事から:


乳酸脱水素酵素
https://numon.pdbj.org/mom/102?l=ja
>通常のペースで運動をする時、私たちの細胞は酸素を豊富に取り込んで糖を素早く効率的に分解する。ところが、全力疾走など激しい運動をすると、酸素が十分に行き渡らなくなる。そういう時、私たちの細胞はエネルギー源として解糖系を使う。解糖系の過程の中で、グルコース(ぶどう糖)から得られた水素はNAD+へと渡されて、NADHができる。通常の酸素呼吸の場合、水素はその後酸素に受け渡されて水になる。一方酸素が使えない時は、NADHが溜まってNAD+が足らなくなり、ATPを作るために解糖系を使い続けることはできなくなる。そこで乳酸脱水素酵素の出番である。この酵素はピルビン酸とNADHをくっつけて、乳酸(lactic acid)とNAD+を作り出す。この働きによってNAD+をリサイクルし、再び解糖系で再利用することで、全力疾走に必要な追加エネルギーを素早く作り出すことができるようになる。ただ、乳酸が溜まり数分もすると止まって身体を回復させないといけなくなる。この場合一息つけば、乳酸はピルビン酸に戻され、通常の有酸素的なエネルギー生産過程に入って行くことができる。<


引用注)この記事では前の記事の「NADH2+」を「NADH」と表記している。

 

 で、清水氏のブログ「ドクターシミズのひとりごと」の次の記事を読むと、これらの疑問が2/3以上解けたような気がするところ:

糖質摂取により血糖値よりも乳酸が先に増加する -2024年3月18日
https://promea2014.com/blog/?p=25547

>いまだに乳酸は疲労物質だと思っている方もいるかもしれません。乳酸は疲労物質でも老廃物でもありません。エネルギー源です。例えば、乳酸の代謝を筋肉で見ると、速筋線維はミトコンドリアが少なく、グリコーゲンが比較的多く、解糖系が進むと乳酸ができやすいのですが、遅筋線維および心筋はミトコンドリアが多いので、乳酸をたくさん使うことができます。速筋線維でできた乳酸が遅筋線維や心筋で使われ、このようなメカニズムを細胞間乳酸シャトルともいいます
 また、脳では、神経細胞は血流からのブドウ糖ではなく、隣接するアストロサイト(星状細胞)から乳酸を受け取って、その乳酸を主なエネルギー源としているという乳酸シャトル仮説が唱えられています。アストロサイトから神経細胞への乳酸シャトル仮説は、アストロサイトがブドウ糖を代謝して乳酸を生成し、その後細胞外に放出されて神経細胞に取り込まれ、神経細胞ではその乳酸はピルビン酸に変換され、TCA回路に入り、神経活動の亢進を維持するために必要なエネルギーを生成すると考えられています。
 もしかしたら、ブドウ糖そのものを解糖系で代謝して、その後TCA回路に入るのではなく、一旦乳酸に変えて、それをピルビン酸に戻して、TCA回路でATPを作ることをわざわざしている可能性があります。<

>上の図はaがOGTT後30分での、摂取したブドウ糖の行方です。bは120分間での行方です。黄色が血中の乳酸、青が肝臓のグリコーゲンおよびブドウ糖、赤が血中のブドウ糖、緑は糖新生です。75gのブドウ糖は30分間(腸の乳酸シャトル相)で、血中乳酸として9g、肝臓を迂回した血糖として3g、糖新生を介した乳酸由来の血糖として2g、肝臓のグリコーゲンおよび肝臓に保持されるブドウ糖として61gでした。血糖で全体で5gなので、1g/L=100mg/dLですね。
 その後120分での全身性乳酸シャトル相を含めた全体として、75gのブドウ糖負荷は、29gは血中乳酸として、24gは肝臓からのブドウ糖放出からのブドウ糖で、8gは糖新生からのブドウ糖で、14gは肝臓のグリコーゲン貯蔵庫として残っているか、不明です。しかし、いずれにしてもブドウ糖を経口摂取すると非常に多くの割合が血中の乳酸に変わっています。解糖系が非常に亢進しているのがわかります。
 乳酸シャトルは2相性であり、経口摂取してすぐの腸の解糖と、その後のブドウ糖が解糖系で全身で処理される全身相があると考えられます。
 そして、経口摂取から5分以内で乳酸と共にインスリンが上昇しているのは、インスリンが腸の解糖に関わっていることだと思われます。さらに、乳酸はもしかしたらもっと体内で重要な役割があり、シグナル伝達物質でもある可能性があります
 また肝臓のグリコーゲン合成は、ブドウ糖の摂取後2分ですでに起こるそうです。(ここ参照)経口摂取されたブドウ糖は、食後の初期段階では肝臓での取り込み率はかなり高く、肝臓のブドウ糖の代謝または貯蔵能力を超えた場合にブドウ糖が直接循環に移行すると考えられます。進化の過程では、糖質はほとんど無かったために、できる限り早く肝臓に貯蔵しようと進化したのかもしれません。
 いずれにしても、乳酸生成は普通に起きていることで、疲労物質でも老廃物でもありません。腸で一度乳酸に変えてから血中に入ることで体へのダメージを減らそうとしているのか、他の何か重要な目的があるのか、よくわかりません。また、全身性の乳酸シャトルにしても、血糖をそのまま取り込むよりも乳酸として取り込む方が何らかの利点があるのかもしれません。それとも少しでも早く血糖値を下げたいがためのメカニズムでしょうか?<

 

 上述の二つの謎については多分興味のない人が多いだろうから、それらの答えは別の機会にすることにしよう。ここでは、そこでの考え方を応用して

   Q3 何故乳酸シャトルがあるのか?

という問を考えてみると、次のような感じだろうか(思いつきレベルであるものの「細胞の解糖系依存度仮説」とでも呼んでおこう。本当はもう少し多角的に検討しないといけないのだが、Q1-3の疑問が解消したような気がするのでメモしておこうかと思い・・・):

 

Q3 何故乳酸シャトル(乳酸の不使用・排泄と取込み・利用)があるのか?

A3)乳酸シャトルが生じるのは、次のような背景があるからであろう(手短にするため箇条書きにて):

・ヒト細胞からの乳酸の排泄は、解糖系の高依存度(ATP迅速供給と細胞分裂が可能。注3)の裏返しなのだろう(乳酸の輸送は膜上のモノカルボン酸輸送体(MCT)により制御される模様)。
・解糖系に関し、筋肉速筋(構造的に細胞分裂は不可)は高依存度(高水準の供給迅速性が必要なため)を、脳神経細胞(海馬では分裂し増殖あり)は低依存度(アストロサイトの解糖系で肩代わり。神経細胞にはミトコンドリア数も多い。注4)を選好するのだろう。

 

注3)解糖系のATP供給速度は、ミトコンドリア系(酸化的リン酸化系)のものより約100倍速いと言われている(細胞内のATP供給系にはもう一つ「クレアチンリン酸系(ATP-CP系)」というのがあり供給速度が最も早い模様)。
 また、寿命の短い細胞は、細胞分裂し易くなっており細胞内のミトコンドリア数が少ない(解糖系の依存度を高め易い)一方、寿命の長い細胞(特に筋肉・神経細胞などの分裂しない細胞)ではミトコンドリア数が多くなっている(解糖系の依存度を高めにくい)という特徴がある。

注4)がん細胞をみてもわかるように、細胞分裂と解糖系は相性が良い(両者の機能は真核細胞の宿主たる古細菌システムを転用したもので、もともと寄生菌(ミトコンドリア)の関与が最小限)。ヒトだと細胞分裂抑制遺伝子(がん抑制遺伝子)があるけど、例えばその一つであるp53遺伝子をみると、解糖系の抑制作用を持った仕組みとなっている。

 どうも細胞分裂の際はエネルギー供給として解糖系が必須な模様で、低依存度であれば誤って増殖もしないのだろう。血管内皮細胞(endothelial cells, ECs)の場合について:

Role of PFKFB3-driven glycolysis in vessel sprouting -2013
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23911327/
>Here, we show that ECs relied on glycolysis rather than on oxidative phosphorylation for ATP production and that loss of the glycolytic activator PFKFB3 in ECs impaired vessel formation. ... <


・そうすると分裂しようとする体細胞は、高依存度と推定される(特に、寿命の短い腸管粘膜上皮細胞。同細胞はミトコンドリア数も少ない。注5)。寿命の短い組織は別として、排泄される乳酸は付近の組織で利用することが多いのだろう。なので、体細胞では普段は乳酸取込み・利用モードにあり(細胞分裂する細胞の周辺の細胞は乳酸を取り込む結果、解糖系が低下し分裂し難くなる)、分裂が迫るとモードが変化すると推定される。

注5)小腸の粘膜上皮細胞のエネルギー源は、普通の細胞と異なっていて、アミノ酸の割合が最も高く、ぶどう糖の割合は低い(うろ覚えだと、グルタミン・グルタミン酸が4割、ぶどう糖は1-2割程度など。グルタミン・グルタミン酸はαケトグルタール酸になりミトコンドリア系で(TCA回路に入り)ATP生成に利用される)。なので、食餌の際に解糖系を高効率で回そうとして乳酸が出てくるのかもしれない。他方、エネルギー源(代謝燃料)であるアミノ酸(グルタミン・グルタミン酸のほかアスパラギン酸も)も全部は酸化分解されずに一部(2割ほど)は乳酸に変性するようであり、これが血液中に出てきている可能性もあるかもしれない。サイト「脂質と血栓の医学」の記事から:

グルタミンとグルタミン酸
***http://hobab.fc2web.com/sub4-Glu_Gln.htm

>5.小腸のグルタミンとグルタミン酸
 小腸では、グルタミンや、グルタミン酸は、代謝燃料(metabolic fuels)として、重要な役割を果たしている
 食事中(食餌中)のグルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸は、小腸で吸収され、小腸粘膜で、代謝されるが、殆んど、(門脈)血中に入ること(腸以外の組織で利用されること)はない。・・・

 小腸で、腸管内(食餌由来)のグルタミンの炭素は、56%が二酸化炭素に、16%が乳酸に、4%がアラニンに、2.4%がグルコースに代謝されるグルタミン酸の炭素は、64%が二酸化炭素に、16%が乳酸に、3.3%がアラニンに、代謝される。アスパラギン酸の炭素は、51%が二酸化炭素に、20%が乳酸に、8%がアラニンに、10%がグルコースに代謝される

 小腸で産生される二酸化炭素は、38%が、動脈血中から取り込まれたグルタミンに由来し、39%が、腸管内(食餌由来)のグルタミンとグルタミン酸とアスパラギン酸に由来し、6%が、腸管内(食餌由来)のグルコースに由来する。このように、小腸粘膜では、グルコースよりも、アミノ酸の方が、代謝燃料になる。<(A3了

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貯蔵性高コレステロール仮説

2024年01月28日 | 思いつき

〔更新履歴:2024-2-13追記, 1-30一部修正〕

 

 時候の御挨拶
 久しく休養していたところだが、たまには・・・

 

 本記事はカテゴリー「思いつき」の最初のものになるので、その趣旨をメモしておこう。新カテゴリーの趣旨は、内容が十分詰まっていなくて荒が見え隠れするけど、先に進みようもないので今後のために備忘録として置いておこうという感じのものである。

 

 現状緩やかな糖質制限みたいなことをやっている状況だけど、何年か前の同食導入時に血液検査の結果上で気になったのは、尿酸と肝機能の数値。
 その後の工夫の結果、いずれも対処法が分かったので、現状は対処をはせずに放置気味のところ(思いついた理屈に沿って対処してみたら数値が改善されたので、そのような理屈からすると、そもそも気になった検査数値は低リスク事象の可能性が大きいと推測されるため)。
 一応、体型的に痩せ型の部類だが(糖質制限時には痩せ過ぎ気味になりデブェット法が必要なタイプ)、なぜかコレステロール値はそれほど変動しなかった。 

 他方、糖質制限をするとLDL-C(低密度リポタンパク質コレステロール、low density lipoprotein-cholesterol)がかなり上昇する人にとっては、結構切実な問題なのかもしれない。書くのに手間がかなりかかってそうなブログ「ドクターシミズのひとりごと」の次の記事を読んでそのように感じたところ:

 

除脂肪体重ハイパーレスポンダーの糖質制限によるLDLコレステロール上昇と冠動脈疾患リスクの関連 -2023年12月11日
https://promea2014.com/blog/?p=24664
>以前の記事「糖質制限でLDLコレステロールが大きく上昇する人の特徴」で書いた、LDLコレステロール200mg/dL以上、HDLコレステロール80mg/dL以上、および中性脂肪70mg/dL以下である「除脂肪体重ハイパーレスポンダー」(LMHR:Lean Mass Hyper-responder)表現型についての研究が行われています。

今回はその途中経過です。非常に興味深いです。この動画は、12月7~9日にロサンゼルスで行われた「the World Congress on Insulin Resistance, Diabetes and Cardiovascular Disease conference 」での発表です。この発表は恐らく論文化され、「Metabolism」という雑誌に掲載されるでしょう。<

 

注1) "Lean body mass" を「徐脂肪体重」と訳すのは慣用的なのだろうが、"lean mass" は "低脂肪の、あるいは引き締まった、質量・塊" の趣旨のようだから、「低脂肪体、低体脂肪」の方が適当ではないか? そうすると "Lean Mass Hyper-responder" は「(糖質制限食におけるLDL-Cの)低体脂肪高応答者」という感じという気がするところ。

 

 ということで、この問題を少し真面目に考えてみていたところ。なかなか結論も出ないので何となくのまとめとして、次の三つの資料をベースにして考えた思いつきをメモしておこうかと・・・(上記記事で引用された動画の人は、高コレステロールの原因として "lipid enegy model" (脂質エネルギー・モデル)を採用しているようだけど、個人的にはしっくり来ないので、別概念を):

 
- a. 国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST)の科学文献サイトから:
長期絶食時の脂質代謝 -1985年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jat1973/14/5/14_5_1155/_pdf (pdfファイル)
>V. 結 語
長期絶食時の脂質代謝を検討し, 以下の結果を得た.
1) 血清遊離脂酸, 血清コレステロール値は,絶食により増加した.
2) リポ蛋白分画では, LDLコレステロール,LDLトリグリセライドが上昇し, VLDLトリグリセライドは減少した. LDL増加の原因は, もっぱらLDL2(d:1.019~1.063)によるものとわかった.
3) 甲状腺ホルモンでは, T3の減少を認め, 生体の適応現象のあらわれと考えられた.
4) 以上により, LDLの上昇は, LDLレセプター減少による異化障害の結果である可能性が示唆された。<

 

- b. 米政府系の医療文献サイト「PubMed」から:
Causes and Consequences of Hypertriglyceridemia -2020 May
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32477261/ 

 

- c. ブログ「ドクターシミズのひとりごと」 から:
糖質制限とBMIと飽和脂肪酸摂取量とLDLコレステロール -2024年1月24日
https://promea2014.com/blog/?p=25023
>上の図〔省略〕は平均ベースラインBMIとLDLコレステロール変化の関係です。Aは対象となるすべての試験を含む低炭水化物食で、Bは参加者がスタチン治療を受けた試験を除く低炭水化物食、Cは328人の個人データで、Dは312人の個人データの高炭水化物食のものです。糖質制限のAおよびBでは、BMIが25未満の場合、LDLコレステロールは大きく増加し、平均BMI25~35では変化なし、35以上では減少しました。個人データではBMIが30弱くらいよりも低いとLDLコレステロールが大きく増加しています。高炭水化物食は変化なしです
 上の図〔省略〕は個人データを使用して、A:低炭水化物食、B:高炭水化物食でのLDLコレステロール変化を示しています。縦軸LDLコレステロール変化、横軸ベースラインBMI、Z軸飽和脂肪酸です。
 LDLコレステロール変化に対してBMIが飽和脂肪よりも大きな影響を及ぼしました。飽和脂肪酸の摂取量が7%から21%に増加するとLDLコレステロールは糖質制限では14mg/dL増加、高炭水化物食では9mg/dLの増加でした。しかし糖質制限のLDLコレステロール変化はBMI35からBMI20になると38mg/dL増加します。<

 


 さて、狩猟採集食の際に、痩せ型の人では低い中性脂肪でありながら高コレステロールとなることがあるが、何故か? 結論から先に書いておくと、次の仮説が成立しそう:

 

貯蔵性高コレステロール仮説
 狩猟採集食の際に痩せ型の人に多く見られる、低い中性脂肪で起こる高コレステロールは、低体脂肪の故に起こり得る健全な代謝の例でであり、特段のリスクを有しないと考えられる(解説文を手短にするため、下記の模式図を参照)

      図:とある体質の人の中性脂肪(TG)とLDL-Cとの関係模式図
 血清中性脂肪が全身の脂質代謝を制御し、体脂肪を規定しBMIへ影響するとの考え方を前提としたもの。なお、A(若しくはβ)、B、C及びαの各点の配置は例であり、体質によって位置関係が決まると考えられる。LDL-C は low density lipoprotein-cholesterol、sdLDLは small dense low density lipoprotein。

 

 初期人類から進化学的にみれば、狩猟採集食(低糖質のもの)が標準だった時代が長かったと思われ、遺伝子的に考えてもその際に代謝が最も低くなるようなっているものと推測される(具体的には、甲状腺ホルモンの遊離T3量やインスリン分泌量が低水準となる)。代謝が低い故に、体内でのコレステロール生成も高まらない状態にあるのだろう(脂質の燃料利用を優先し、原材料利用を抑える感じともみられる)。
 狩猟採集食をしている限り、血糖値の変動は少なく、血管系などの酸化的損傷も低く抑えることができるので、代謝を高める必要性も少ない。
 低体脂肪の人の場合には、普通体脂肪の人に比べ脂質の備蓄が少なく脂質を温存する必要性が高いので、甲状腺ホルモン(遊離T3)の水準が極力絞られるのであろう(絞らないと筋肉を溶かしてしまうおそれが高まる。遊離T3が減少すると、肝臓ではコレステロール生成能とLDL受容体の数がそれぞれ減少する)。他方、高体脂肪の人は、脂肪は有り余っている上に脂肪組織主導での慢性炎症もあり、ある程度以下に代謝を落とすことはできないのであろう。
 ヒトのリポタンパク質たるLDLの遺伝子表現型には、phenotype A(大型でふわふわLDLが多いタイプ)と phenotype B (小型で稠密なLDLが多いタイプ)があるらしい(注2)。いずれのタイプにせよ、狩猟採集食の場合には、農耕食に比してsdLDLの割合は低いであろう。狩猟採集食では血管系などの酸化的損傷も少ないことと併せて考えれば、コレステロール(三大栄養素の代謝物から肝臓で合成可能だが、安定物質であり動物細胞では異化(消化・分解)できないもの)を肝臓に逆転送させて機能チェックしたり排泄する頻度を低下させても問題が生じないのであろう。

 

注2)冒頭紹介のブログにおいて、この点に関する少し古い次の記事があるけど、phenotype(遺伝表現型。なので人の属性)をリポタンパク質LDLの属性と勘違いしている部分があるように見受けられ、少し残念なところ:

   糖質制限とLDLコレステロール上昇 -2017年2月16日
   https://promea2014.com/blog/?p=1101

 

 以上のことからすると、狩猟採集食では脂質の割合も高いので、(絶食したまま2-3日程度普段よりかなり激しい身体活動をすることを射程に入れて)食餌中のコレステロール(組織修復用の原材料)を血液中の輸送中在庫として保管しつつ保管量を増やしておくことは、理にかなった適応と思われる。 

 


 仮に上記の仮説が成り立ちそうということであれば、更にはこれを発展させた次の仮説も考えられる:

 

コレステロールの貯蔵器仮説
 狩猟採集食時には血液中の輸送中在庫が(特に低体脂肪の人で)、糖質食時には血管の粥腫(アテローム)がコレステロールの貯蔵器になっていると考えられる(注3、注4)。

 

注3)血管系(血清中、内皮下組織)を貯蔵器にしていたのではという説。前半は、貯蔵性高コレステロール仮説と同趣旨。後半については、進化的にみれば、温帯に住む人類(熱帯・寒帯に住む人達は別扱いの前提)にとっては狩猟採集食が9-10か月間、秋には糖質食(越冬準備食)を2-3か月間ということが多かったのではないか。そうすると、例え粥腫ができても毎年春先には解消していたものと考え得る。

注4)「粥腫」の定義がはっきりしていないようなので更に補足しておくと、脂肪線条(fatty streak)が形成されたがプラーク形成には至らない段階は、可逆的な貯蔵器として機能し得ると思われる。そのように考えると、中性脂肪の増加に伴いsdLDLが増加することは何かに合目的な振舞いのはずだが、それはsdLDLの役割を次のように理解すればよいのかもしれない:

sdLDLの役割は、血管内膜下に侵入し易くなるよう小型に変化して

a- 血管の修復材料としてのコレステロールの供給
b- 脂溶性の毒素を中和(一種の免疫作用)
c- 抗酸化剤としてのコレステロールの供給
d- できた酸化LDLを免疫応答制御因子として免疫細胞が活用

 多少補足してみると、aとcについては、中性脂肪が増加するのは糖質食ということだろうから、血糖変動が増大し酸化ストレスが高まり、その結果酸化損傷も増加するという状況に対処するためのものとみることもできる。bについては、LDLは脂溶性のものを(輸送のため)内部に取り込む性質があるようで、物質を周囲から隔離する機能があるとみることもできる。
dについては、血管系においては腫脹して血栓化するのを回避するため一般組織と異なる炎症パターンになっているとも考え得る。酸化LDLには免疫応答抑制機能があるようで(注5の資料参照)、増え過ぎると単球/マクロファージが貪食・貯蔵して免疫応答の水準を調整していると考えることもできる(酸化LDLを貪食して泡沫化細胞になっても、HDLにコレステロールを引き抜かれて量が減ると、血管外に遊走しリンパ節に戻るものもあるとされている)。

注5)Lipoproteins attenuate TLR2 and TLR4 activation by bacteria and bacterial ligands with differences in affinity and kinetics  -2016
   https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27793087/

 

 これらの仮説に関し、更に論考を進める必要がありそうだが、今回はこの辺で・・・

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