ヒト遺伝子想定的生活様式実践法

2023年8月にテーマ・タイトルを変更(旧は外国語関連)
2015年4月にテーマ・タイトルを変更(旧は健康関連)

はじめに・・・

 外国語テーマも長く続かずなので、従来の健康ブログに戻してみようかと思いまして・・・ 備忘録的に残しておくと旧タイトルは「タイ語、漢字を使って覚えるの?」でした。(2023.8月記)

 従来の健康ブログ時に記事を書いていて、何故か、そろそろ外国語でも勉強した方がより良いかなーと思いつきまして、以来ちょこちょこと続けてきましたが、なんとなく、ある事を覚えると別の事を忘れてしまうモードに入ってしまったようで、知識量が停滞しつつあるような感じになりました。

 そこで、本ブログを外国語学習ブログに変更して、自分の備忘録的にまとめておこうかなと思いまして・・・。

 しかしながら、少し飽きたのか内容を増やしすぎたのか、書くのに手間がかかるようになり、時間がとれない時は、別ブログ「単語帳の素材?」にてライトな記事を書くことにしました。(この別ブログも徐々にライトでなくなり、記事を500本ほど書いたところで滞り中・・・)

 なお、健康ブログ時代の記事は、コチラの 入り口 からどうぞ。(2015.4月記)
 最近の健康系記事はカテゴリー「タイ語以外(健康2019)」からどうぞ。

脂肪酸の輸送・貯蔵方法(清水氏23/10/19記事関連)

2023年11月02日 | 生物医学ネタ絡み

 真核細胞生物のエネルギー源としての燃料の選択(fuel selection。主に糖か脂肪酸かの選択)の話を考えると、サブ細胞レベルでは分からないことがほとんどだが、細胞レベルでみれば分かっていることも多い。


 人類の生活様式は、戦前というか60年位前までは日々かなりの身体活動を前提としていたのだろう。この前提の下では、エネルギー源としては糖でも脂肪酸でもどちらでも良いようになっているのかもしれない。

 ヒトの母乳は、カロリー計算でみれば糖と脂質が半々ぐらいになっているとされている(糖45%、脂質48%。注1)。燃料の貯蔵ホルモン(インスリン)の働きをみれば、燃料の種類によらず似たような作用を示している(グリコーゲン合成と脂肪合成の両方の亢進。細胞膜上に呼び出された糖輸送体(Glut4)を介しての糖の取込みと、毛細血管壁の表面の酵素(LPL)を介しての脂肪酸の取込みの双方の亢進)。また、血管系に燃料が溜まり過ぎて長期継続すると体調不良リスクが高まり、病気と認識されている(注2)。

注1)ヒトの胎児の場合、脂肪酸から生成されるケトン体の利用が亢進しているようだが、そのケトン体は母体側(多分主に胎盤にて)で生成されて提供されたものだから、ここでは別の話と整理しておこう(このケトン体の利用亢進は、酸素消費の節約と、がん化防止のためではないかと推測される。酸素消費量については、脂肪酸を利用すると糖やケトン体より3割増しといわれている。がん細胞の成長には解糖系(ミトコンドリア外の細胞質で行われるエネルギー生成)の亢進が必要なようだが、ケトン体は解糖系と無関係にミトコンドリア内(クエン酸回路と電子伝達系)でエネルギー生成に利用できる。)。

注2)糖尿病と高中性脂肪血症という二つの病気は、現代医療的には、治療法が全く違うのでかけ離れたものという認識になっているようだ。しかし、もともと貯蔵ホルモン(膵臓)の分泌能が低い体質の人は前者(後者も随伴し易い)のリスクが高く、同分泌能がしっかりした体質の人は後者の段階にとどまり易いという程度の違いしかないのかもしれない。本ブログの健康法的に考えると、これらへの対策は似たようなものなので、「輸送中燃料過剰症候群」と同じ病態に整理できそうでもある。

 

 今回は、このような話をどこまで転がせられそうかというのを眺めるために、燃料(特に脂肪酸)の輸送・貯蔵方法について考えてみよう(糖と一緒にすると複雑になるので、糖の場合は別の機会に・・・)。

 

  まあ例によって、ブログ「ドクターシミズのひとりごと」の次の記事をなんとなく紐解いていく感じにしよう:

レムナントコレステロールと心血管疾患のリスク LDLコレステロールはどうしちゃった?  -2023年10月19日
https://promea2014.com/blog/?p=24106
>上の表はレムナントコレステロールとLDLコレステロールの値を4つのグループに分けたときの複合心血管疾患発生の可能性です。レムナントが多いほどLDLが低いほど複合心血管疾患発生率は高くなりました。しかも、性別とスタチン使用による差異はほとんど見られませんでした。スタチン意味なし。

 もう、LDLコレステロールを気にする必要はないようですね。

 レムナントはApoCⅢというアポリポタンパクによって増加します。(「ApoCⅢがレムナントコレステロールと関連している」参照)そして、ApoCIIIの発現はブドウ糖によってChREBP-1およびSREBP-1を活性化して増加し、インスリンによって減少します。しかし、インスリン分泌の減少またはインスリン抵抗性の増加により負の調整が働かなくなり、ApoCIIIは増加してしまいます。恐らくブドウ糖によるApoCIIIの発現増加は一時的であり、血糖値スパイクに続くインスリンの増加によって急速に逆転すると考えられますが、インスリン抵抗性または糖尿病では、高レベルのApoCIIIを示します。

 一方、果糖の摂取は、ブドウ糖の摂取と同様にChREBP-1およびSREBP-1を活性化しますが、ブドウ糖とは対照的に、インスリン分泌を刺激しません。そのため果糖摂取後のApoCIII発現は、インスリンによる負の調整が働かなくなり、ApoCIIIが大きく増加すると考えられます。(「ApoCⅢの調節と役割」「果糖はブドウ糖よりもApoCIIIを大幅に増加させる」参照)<

 

 レムナント・コレステロールの値が上がると、心血管疾患発生リスクも上がるらしい。同記事では、

・糖質の過剰の摂取は、心血管疾患発生リスクを上げる、

・糖質の過剰の摂取は、アポリポタンパク質ApoC-Ⅲを増やす結果、レムナントを増やす(糖質過剰 →インスリン作用低下 →ApoC-Ⅲ遺伝子発現増加 →レムナント増加、のような流れ)

ことが問題の本質とまとめている。前者については異論はない。後者については、生体分子の遺伝子発現学的にみれば、それでよいような気もするのだが、如何せん細かなこと(ApoC-Ⅲなど)をいろいろ覚えないといけない。より大きな構図で別の角度から捉えた方が応用が効いたりして少し見通しがよくなりそうなので、そんな感じで整理できないかを考えてみよう。

 

 先ずは「レムナント・コレステロールの値が上がる」の意味をおさらいしておこう。

 血管内で血液に溶けにくい脂(中性脂肪、コレステロール)の運送を担当しているもの(脂輸送船)が「リポタンパク(質)」であり、脂がたんぱく質と結びついた複合体である。
 この内に中性脂肪を運ぶ脂輸送船(リポタンパク質のうち、カイロミクロンと超低比重リポタンパク(VLDL)。前者は小腸から消化吸収した脂をもとに造られ、後者は脂の再利用組織である化学工場(肝臓)で造られる)があり、末梢組織へ積荷(中性脂肪)を輸送し卸して積荷がある程度減った抜け殻が「トレムナント様リポタンパク質」(単に「レムナン」とも呼ばれる)にあたる。レムナント自体はまだ脂をかなり含んでいるので、通常は化学工場に戻り速やかに解体されて新たな脂輸送船(VLDL、LDLなど)の材料として再利用される。

 レムナント・コレステロールは、血液中のレムナント内に含まれるコレステロールの量を測ったものであり、レムナント・コレステロールの値が上がる場合は、レムナントの数が増えた場合に相当することが多いようだ。


 末梢組織には、脂輸送船から積荷を取り卸す装置(酵素)であるリポタンパク質リパーゼ(LPL。中性脂肪を脂肪酸とグリセロールに分解し血液中に放出。エネルギー基質としては、脂肪酸がより重要で、グリセロールはこれら三つを束ねる結束バンドみたいなもので重要性は低い)があり、組織の毛細血管壁の表面に存在している。この装置の取卸し(分解)により周囲の遊離脂肪酸の濃度が高まる結果、組織内に吸収される脂肪酸の量が増えエネルギー生成のため燃焼されることになる(脂肪組織であれば貯蔵される)。
 LPLの活性はアポリポタンパク質(リポタンパク質を構成するタンパク質。ApoC-Ⅱ、ApoC-Ⅲなどいろいろある)によって制御され、脂輸送船上のApoC-ⅡがLPLを活性化し(不活型を活性型化)、ApoC-ⅢがLPLの活性を抑制するとされている。

 以上の流れが体内での普段のレムナントの動きになっているのだろう。そうすると、レムナントの動きを理解するには、中性脂肪の動き(輸送・貯蔵)が分かればよさそうということになろう。

 

 さて、冒頭記事の内容を別の角度から眺めるために中性脂肪の輸送・貯蔵に軸足を移して、例によって小問にバラしてみると、次のようになろうか:

Q1. 血液中の中性脂肪が増えるのは、なぜか。
Q2. 血液中の中性脂肪が増えるのは、どのような時か。
Q3. 血液中の中性脂肪は、どのように利用されるのか。

 

 上記の問いについて以下それぞれ説明していこう。先ず最初の問いは:

問Q1. 血液中の中性脂肪が増えるのは、なぜか。


答A1)手短に答えれば、同化時や顕著な異化時に必要であるから、ということになろう。別に言い換えれば、中性脂肪(脂肪酸)の貯蔵やその多めの取崩しを効率的に行いたいから、とも言えるだろう。具体的に顕著なものは

 

ア- 運動の際には中性脂肪をかなり取り崩すことがあり、予め準備しておいた方が身体活動的に有利になるため、

イ- 摂食の際に多量の脂を消化吸収するが、これを短時間で処理した方が身体活動的に有利になるため、

ウ- 重い怪我や病気をした際に(基礎代謝で対応できない)ある程度大きな組織の修復が必要となり、これを短時間で処理した方が身体活動的に有利になるため、

 

ということになろうか。イについて補足すれば、コアラのように1日20時間ほど寝ていられるのなら短時間で処理する必要性も薄いが、初期人類からの生活様式はつい1万年前までは"毎日昼間に狩猟採集をして食べる"だっただろうから、進化的に考えれば、短時間で処理できた方が身体活動上有利だったということになろう。(A1了

 

 「なぜ」の説明だけでは多分本稿で言いたいことを理解し難いだろうから、次の問いに移ろう: 

問Q2. 血液中の中性脂肪が増えるのは、どのような時か。

答A2)回答的には前問に同じとなるのだが(少なくとも運動準備・運動時、摂食時、損傷組織の修復時の三つ)、別の切り口から眺めてみて理解を深めておこう。

 中性脂肪の貯蔵方法については、進化的に考えると、次の3つに区分できるのではないだろうか:

#1- 細胞内での貯蔵(末梢の細胞内の脂肪滴)
#2- 輸送中在庫による貯蔵(血管系のリポタンパク質内の中性脂肪。注3)
#3- 共用組織での貯蔵(肝臓の脂肪滴、脂肪組織の脂肪細胞)

 

注3)それは貯蔵なのか、という疑問が湧いてきて違和感を感じるかもしれない。貯蔵量(普段の基礎代謝の水準から増加した部分)が多いとも思えないが、こう整理した方が後々分かり易くなるような気がしているところ。実際、その僅かな違いが病気を招くわけだし・・・

 

 進化的にみれば、貯蔵方法はこの順番で進展してきたと思われる。真核細胞生物の酵母(真菌類の一種。単細胞性のことが多い)の一部の種でも、脂肪の蓄積がみられるとされており、起源はかなり古いのであろう。哺乳類でも運動できずに変なものを食べさせられて寝てばかりいると脂肪筋になり易いのは、牛の霜降り肉(筋肉に脂肪滴が一杯ある状態。餌は牧草主体ではなくて飼料用穀物が多いらしい)をみれば明らかだろう。

 多細胞の真核細胞生物が生まれ体のサイズが大きくなってくると、体表に接していない細胞へ供給物を輸送するシステム(老廃物の回収も担当)が体内に必要となり、血管系が出てきたのであろう(そうすると必要になるので、心臓と腎臓もほぼ同時にできるのだろう。ホヤ(原索類)はこのような形質形態であり、腸の一部には多数の孔がある鰓の原形を持ち、脊椎動物の祖先ともみられている)。血管系に貯蔵できる絶対量は少ないものの、利用した方が生死を分けるギリギリの身体活動が必要なような場合に有利と思われる。

 その後、共用の貯蔵組織が現れて、貯蔵量が飛躍的に増大したものと思われる(ヒトの貯蔵可能量を桁数的にみればおよそ、脂肪組織なら5桁のグラムで脂肪を貯蔵可能だが、肝臓(脂肪肝の手前あたり)ではその百分の1で3桁のグラム、輸送中在庫は千分の1で2桁のグラムという感じだろう)。

 

 輸送中在庫による貯蔵は、回答の初めで触れたように少なくとも運動準備・運動時、摂食時、損傷組織の修復時に高まるのだろう。その方が身体活動をより容易に(細胞での燃料の調達の効率化による)、中性脂肪の貯蔵を効率的に、あるいは損傷組織の修復を効率的に行うことができるだろう。

 興奮性ホルモン(アドレナリンなどのカテコールアミン)、抗ストレス・ホルモン(コルチゾール)などは貯蔵燃料の取崩しホルモン(インスリン拮抗ホルモン)であり、血中の糖(グルコース)・遊離脂肪酸を上昇させるので、輸送中在庫を確保する(上昇させる)作用(在庫確保作用)があると言える。他方、燃料の貯蔵ホルモン(インスリン)には、細胞内への糖・遊離脂肪酸の取込みを促すので、輸送中在庫を解消する(低下させる)作用(在庫解消作用)があると言える。

 安静(基礎代謝)時においては、貯蔵ホルモンは常時ある程度分泌されている(基礎分泌がある)ため、貯蔵取崩しホルモンが分泌される際には、その作用に拮抗するため前者のホルモンの分泌が減らされ、あるいはホルモン感受性が低くされ(抵抗性が現れる)、その作用を低下させるようである。このようにみてくると、いわゆるインスリン抵抗性は「貯蔵抵抗性」と言い換えられるのが分かるだろう。

 

 脂肪組織があれば、貯蔵可能量も大きく、かつ、安全性も高いので、優先して利用されることとなる。しかし、燃料貯蔵モードにある場合は、その貯蔵量の限界に近づくことが起こり得、進化的に古い必ずしも安全性の高くない貯蔵方法が用いられることとなるのだろう。これがいわゆる異所性脂肪の蓄積であり、脂肪筋や脂肪肝などにあたる(肝臓は体内の共用化学工場であり普段はその重量の3-5%の脂肪を抱えているとみられるが、ある閾値(10%辺り?)を超えてくると毒性が無視できなくなると思われる)。(A2了

 

 以上の説明を前振りとして、これらをまとめるため最後の問いに移ろう(同じ問題を別の角度から解説しているだけなので回りくどいかもしれないが・・・):

 

問Q3. 血液中の中性脂肪は、どのように利用されるのか。

答A3)リポタンパク質で運送される中性脂肪の動きについては、その利用酵素(リポタンパク質リパーゼ、Lipoprotein Lipase、LPL。組織の毛細血管壁表面に存在。脂肪酸の細胞内への取込みにおいては脂肪酸は細胞膜を通過できるので、この酵素の働きは実質的には糖の取込みの際のGlut4と類似の作用となる)の働きを軸に理解した方が見通しが効きそうである(そうした方がアポリポタンパク質ApoC-IIIの役割も整理し易いように思われる)。

 中性脂肪の利用酵素(LPL)の制御についてみれば、普段はグルコースと供に脂肪酸により基礎代謝を賄うよう生体リズムに応じた制御を受けているとみられるが(これは「基礎代謝時」の場合にあたる)、制御法に顕著な変化がみられるのは少なくとも次の三つの場合があるだろう:

 

A. 運動準備・運動(危機対応)時:危険対応時用のストレス応答が稼働し出すため、前述の貯蔵取崩しホルモン(アドレナリン、コルチゾールなど)の分泌により血中の糖(グルコース)・遊離脂肪酸が上昇し、拮抗する貯蔵ホルモン(インスリン)の分泌は減ることになる(基礎分泌が半分程度になるという説もある)。リポタンパク質内の中性脂肪を温存するため全身的に利用(LPLの活性)が抑えられるものの(注4)、動き出す骨格筋では運動によりLPLの作用が強まり(注5)、中性脂肪を調達し易くなる。糖の上昇が解消するまで継続するのだろう。


注4)遺伝子発現的にみれば多分、糖の上昇と貯蔵ホルモンの作用の減少(基礎分泌の低下による)のためApoC-III遺伝子の発現が増加しLPLの活性を抑えることになるのだろう(危機時もあり得るので需要予測をしないことにして、とりあえず急を要さない部位でのリポタンパク質内の中性脂肪の分解を抑制し、輸送中在庫(循環量)が減らないようにする)。

注5)骨格筋では、このインスリン作用の減少は逆にLPLの活性化の方向へ働き、また、運動自体が酵素LPLの遺伝子の発現量を増やすとされている。

 

B. 食餌の摂食時:摂食時の糖の上昇により貯蔵ホルモン(インスリ)の追加分泌がある程度に至ると、脂肪組織ではリポタンパク質内の中性脂肪を利用(LPLの活性)を元に戻し更には高めて(注6)、取り崩し過ぎた脂肪の補充・貯蔵を行う。インスリン追加分泌が解消されるまで継続するのだろう。


注6)遺伝子発現的にみれば、貯蔵ホルモンの作用の増加(追加分泌による)によりApoC-III遺伝子の発現を減少させLPLの活性を高める(貯蔵ホルモン自体がLPLの活性を上昇させる方向のため、逆方向のApoC-IIIの作用を減らす必要があるのだろう)。
 なお、骨格筋では、この貯蔵ホルモンの作用の増加によりLPLの活性は抑制されるとされている(摂食時は運動関係より共用の貯蔵を優先ということだろう)。

 

 追加貯蔵の有無で状況が違うので、食性の区分で二つに分けて考えておこう:

 

B-a. 狩猟採集食の場合(追加なし。非貯蔵モード)

i- 共用組織(脂肪組織)での貯蔵(Q2の答えの方法#3)
 リポタンパク質内のApoC-IIが中性脂肪利用を活性化させ(血管壁の表面のLPLの活性化による)、貯蔵ホルモンの作用により蓄積が進む(吸収した糖・脂肪酸由来が多い)。
 蓄積は実質的には取り崩した分の補充であり、もともと貯蔵ホルモンの追加分泌も少ない上に(基礎分泌の2-3倍あたりだろうか。農耕食では大抵10倍以上となる)、総貯蔵量が増え過ぎないよう脂肪組織側で制御されているとみられ、脂肪組織があふれることはかなり起こりにくい(#1を使う機会はないし、#2が生じても処理に伴う一時的なもの)。貯蔵に伴う安全性は高い。

 

B-b. 農耕食の場合(追加あり。貯蔵モード)

 糖質食の越冬準備食仮説を前提とすると、農耕食の場合は「脂肪蓄積対応時」ということになり、脂肪酸の貯蔵方法をリポタンパク質内の中性脂肪利用酵素LPLを軸にまとめれば次のような段階に区分できるのではないか(脂肪酸の貯蔵方法進展パターン仮説):

i- 共用組織(脂肪組織)での貯蔵(Q2の答えの方法#3)

 リポタンパク質内のApoC-IIが中性脂肪利用を活性化させ(LPLの活性化による)、貯蔵ホルモンの作用により蓄積が進む(吸収した糖・脂肪酸由来が多い)。安全性は高いものの、脂肪の貯蔵モードであり貯蔵ホルモンの追加分泌も多いため、長期継続では溢れることがあり得る。


ii- 細胞内での貯蔵(#1)及び共用組織(肝臓)での貯蔵(#3)

 脂肪組織が溢れてきても、貯蔵ホルモンの作用により(LPLは活性化したまま)異所性脂肪として脂肪筋、脂肪肝などとして蓄積が進む。進行し過ぎると脂肪毒性回避のため貯蔵ホルモンの抵抗性(注7)が出始め、安全性は高くない。

注7)貯蔵抵抗性(インスリン抵抗性)を貯蔵障害起因型と(それ以外の)輸送中在庫確保型とに分類してみることにすると、この抵抗性は貯蔵障害起因型の抵抗性と分類できるだろう。

 

iii- 血管系の輸送中在庫として貯蔵(#2)
 貯蔵抵抗性が現れるとLPLの活性を抑制し(注8)、輸送中在庫は維持されたままになり解消されにくくなる。そういった状況が長期継続すると(注9)、次第に中途半端に積荷を積んだ脂輸送船(レムナント様のもの)が増えて滞留し、高中性脂肪血症が現れるのであろう。血管系への毒性があり死亡リスク(動脈硬化リスク)を高めることとなる(注10)。


注8)遺伝子発現的にみれば、貯蔵ホルモンの作用の低下(貯蔵抵抗性による)によりリポタンパク質内にApoC-IIIが増え貯蔵ホルモンの基礎分泌時でも同質内の中性脂肪利用を抑制するのだろう。

注9)落ち着き先のない中性脂肪が放浪している状態であり、日々これが1%の割合で増加すると仮定すると、70日間でその量は2倍に達することになる(1.01^70 = 2.01)。

注10)機序としては、高中性脂肪血症 →脂肪肝が既にある程度進行していることが多い →脂肪肝はリポタンパク質の異常を招き易くする(HDL-C減、小粒子LDLの形成増) →動脈硬化を促進、という流れ。


C. ある程度大きな損傷組織の修復時:ストレス応答が稼働し出して交感神経が緊張するため、貯蔵取崩しホルモンの分泌の増加により血中の糖(グルコース)・遊離脂肪酸が上昇する。リポタンパク質内の中性脂肪を温存するため全身的に利用(LPLの活性)を抑えることにより(注11)、損傷修復部位で活発に働く免疫系・修復系が中性脂肪を調達するのを容易にする。修復が終わるまで継続するのであろう。


注11)遺伝子発現的にみれば多分、糖の上昇と貯蔵ホルモンの作用の低下(炎症反応が引き起こす貯蔵抵抗性)のためApoC-III遺伝子の発現が増加しLPLの活性を抑えることになるのだろう。貯蔵抵抗性を前述注7の線で区分してみることにすると、この抵抗性は輸送中在庫確保型の抵抗性(炎症起因型)と分類できるだろう。(A3了

 

 以上の3つの回答を通じて(なかなか苦しい所も感じつつ)ここまで話を広げてみたが、当初の問題「 血液中の中性脂肪が増えるのは、なぜか」について、具体的なイメージが思い浮かぶようになるならば、説明した甲斐があったということになろうか。

 これまでの主要な点を箇条書きで列挙することにより、まとめに替えてみると、次のようになるだろう:

- 脂肪酸の輸送・貯蔵系における危険の本質は、異所性脂肪と、血液中の中性脂肪が高い状態(血管系の輸送中在庫が解消されないままの状態)の長期継続にあるのであろう。

- インスリン抵抗性(貯蔵抵抗性)には、細かくみれば幾つか種類があるのだろう(少なくとも貯蔵障害起因型、輸送中在庫確保型(炎症起因型)の二つ。これらの危険性の高さは、炎症も慢性化しうるのでこの順序のままであろう)。

- 血液中のレムナント数は、インスリン抵抗性(危険性が最も高そうな貯蔵障害起因型のもの)のより良い指標になっているようだ。

 

 最後に、冒頭で触れたように、これまでの人類の生活様式は、日々かなりの身体活動を前提としていた。現代の低身体活動の人にとって、体調がなんとなく優れないなら(空腹時中性脂肪で80mg/dl超は注意域だろう)、必要なことは、

   一に運動、二に運動、三に食性の見直し、四に定期的な断食、五に食性の大改革

ということになるような気がする(不幸にも既に不健康モードに入っている人は、三あたりからが望ましそうだろう。食性は、狩猟採集食に近い糖質制限食とかケトン食とかがベターであろう。なお、個人的な体感に基づくと、瘦せ気味みの人(自分もこの頃 BMI は17.0前後で多分該当)には断食はあまりお勧めできないところ)。