南の国の会社社長の「遅ればせながら青春」

50を過ぎてからの青春時代があってもいい。香港から東京に移った南の国の会社社長が引き続き体験する青春の日々。

『てんとう虫のサンバ』に秘められた謎

2009-11-06 23:33:54 | Weblog
今週の水曜日の夜から東京に来ています。飛行機の中で、昔買った
舌津智之さんが書いた『どうにもとまらない歌謡曲』(晶文社)
という本を読んできました。70年代の歌謡曲に現れた男女観の
変遷を論じた名著です。

この中にチェリッシュの『てんとう虫のサンバ』(73年)に関す
る一節があります。この歌は、結婚披露宴の永遠の定番ソングなの
で、いまさら解説する必要もないのですが、じつはこの歌詞を深読
みしていくと、その背後にはさまざまなメッセージが見えてきます。

その歌詞をまずは、引用させていただきます。

あなたと私が 夢の国
森の小さな 教会で
結婚式を あげました
照れてるあなたに 虫達が
接吻(くちづけ)せよと はやしたて
そっとあなたは くれました
赤 青 黄色の 衣装をつけた
てんとう虫が しゃしゃり出て
サンバにあわせて 踊り出す
愛する二人に 鳥達も
赤いリボンの 花かごと
愛の接吻(くちづけ) くれました


これに関して、舌津智之さんは、次のように述べています。
この歌において、新婚の二人に「くちづけせよとはやしたて」る
虫たちは、(夫婦の愛の交歓を経て生まれる)新しい生命に
期待と圧力をかけている。「愛する二人」のために「鳥達」は
「赤いリボンの花かご」をくれるのだが、この「鳥達」が、
お祝いに赤ん坊のかごを用意するコウノトリであったとしても
不思議はない。(中略)となれば、「サンバ」に合わせて
「しゃしゃり出て」くる「てんとう虫」も、暗喩としての
「産婆」ないしは(いささかお節介に)新婚夫婦の子供を待ち
望む「家」社会の具現であるのかもしれない。歌の最後を締め
くくる「まあるいまあるいお月さま」の描写が、月の周期で
身ごもった妊婦のイメージをサブリミナルに補強してもいる。
仮にそうだとすれば、音楽的にはどこが「サンバ」なのかわから
ない、あの曲の不自然なコンセプトも、深層心理的な必然性を
帯びてくる。


結婚=出産という70年代の定番の「幸せ」がここに見事に押し
売りされています。さらにこの歌詞を深読みしていくと、この
「てんとう虫」、じつは「テン」=10、「とう」=10という
ことで「十月十日」を意味しているのではないかということさえ
勘ぐりたくなってしまいます。このてんとう虫というのは、
妊娠出産のシンボルだったという発見は、私のオリジナルの
発見です。と言ってもかなり駄洒落っぽいですが。

明るく楽しい結婚礼賛の歌のように見えて、じつは、かなり
お節介な歌だったのですね。こういう歌で洗脳されていた時代は
少子化問題などもまだ問題になっていなかったのでしょう。

1972年に、総務庁が行った世論調査によれば、20~34歳までの
女性の約8割が、結婚に対して前向きだったのだとか。また
女性の専業主婦率がピークに達したのは1975年だったのだそう
です。そいういう時代もあったんですね。