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『フライ、ダディ、フライ』(金城一紀)

2009-05-14 21:57:06 | 読書日記
 男が平凡な日々の中でも守りたいものがある。それは恋人かもしれないし家族かもしれない。必死で守りきらなければならない時もある。

 今までの殻を破って、一歩踏み出すことができるか。それが若者に教えを請うようなカッコ悪いことでも。

 その勇気が人間(男)を大きく羽ばたかせる原動力となる。

 主人公が自分の不甲斐なさのせいで味わう惨めさ。そこから抜けだすための泥臭い努力。なぜかその主人公を手助けしようとする不思議な不良少年たち。

 「この歳になるまで、強いとか弱いとかそんなことどうでもよく生きてきたけれど、君たちに出会って、私は変ったよ。もう、自分の弱さから目をそむけることはできない、絶対に」 
 「勝つのは簡単だよ。問題は勝ちの向こう側にあるものだ」
 「真の勝者は鷹となって大空に羽ばたき、限りない自由へと近づく」
 「私はまだ鷹には程遠いけれど、いま、飛べそうな気がしているんだ。」

 ある意味、多くの中年男性が憧れるような夢物語。現実はこんなに上手くいかないかもしれない。だけど、カッコつけて、屁理屈つけて、惨めなままでいるより、ボロボロになってでも、一歩踏み出す勇気が、新しい世界・今まで経験したことのない世界へのドアになるのでしょう。

 個人的に好きな場面は、主人公の行動が実は奥さんにバレていて、奥さんがそれを主人公に言う場面です。
 『22年間も一緒に暮らしてきて、私が気付かないとでも思ってたんですか?』 「夕子は今度ははっきりした呆れ顔で、近くにあったしゃもじを投げた。今度はよけなかった。おでこにぶつかり、パカン、という間抜けな音がダイニングに響いた。『なんでよけないの?そんなんで大丈夫なの』夕子は腹立たしげにそう言って、泣き笑いのような表情を浮かべた後、エプロンを乱暴に脱ぎ捨て、キッチンをでていった」
 
 何か奥さんの愛情の深さと、夫婦の絆の強さがうまく表現されている文章だと思います。

 軽やかな文体で一気に読ませますが、読後にじんわりと胸に響く作品です。  


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