『対岸のヴェネツィア (集英社文庫)』

ミラノからヴェネツィアに移住したといっても、ベネツィア本島の南にあって定期船でわたるジュデッカ島への移住で、本書のタイトルの「対岸の」というのはまさに、ヴェネツィアに居住したといっても、少し距離をおいた視点が本書の肝である。本書だけではないのだが、著者のエッセイで描かれることは決して著者の考えを押し付けることなく、「で?」と思わせる最後の一行がこれまた、著者のエッセイの魅力と言えるのではないだろうか。
たとえば、「女であること」の締めの一行は、「ヴェネツィアの女たちは、海の男たちの扱い方を心得ている。それは吹き荒れる風や潮の満ち引きに処し、退屈な凪をやり過ごして、日々うまく折り合いをつけて暮らすのに慣れているからだろう」である。この文は本島ではなくジュデッカ島に吹き荒れる季節風で洗濯物が乾くので風を読む女たちの話から始まって、島での暮らしの中での男とのやり取り(騙し合い)がいくつも取り上げられている。しかし、締めの一行はジュデッカではなくヴェネツィアの女たちとなっている。ジュデッカが縮図になっているですね!とまでは言い切らないで、読者に想いを巡らすような結末になっている。

