「聖母の美術全史 信仰を育んだイメージ」(宮下規久朗、ちくま新書)を読み終わった。本日読んだのは、第7章「近現代の聖母 衰退から変奏へ」と「おわりに」、「あとがき」。
「かつて美術の主流であった宗教美術は、教会や寺院と不可分の関係にあり、宗教空間の中で息づくものであった。‥本来の場所の光や雰囲気の中ではじめてその真価を発揮する。‥19世紀に美術館や展覧会といった精度が出来、‥美術作品は教会や宮殿といった建築や場所の制約を受けない、自立した存在であると目されるようになる。宗教美術は、神話や風俗を描いたものと同等に格下げされたのである。」(第7章「近現代の聖母」、1.「十九世紀美術の聖母」)
「聖母子や「慈愛」の擬人像が近代社会で世俗したものが母子像だと見ることが出来る。聖母子への嗜好がキリスト教や教会の制約から逃れてより普遍的な母性を表現したものに発展したとみてもよいだろう。」(同、2.「世紀末から二十世紀の聖母」)
「聖母は紀元後の人類のほとんどの文化史に影を落とし、美術の主要な要素を形作ってきた。母子という、人間社会に見られる最大の愛情を結晶させ、彫琢したのが聖母像だったからである。この世に苦悩や悲嘆のあるかぎり、聖母のイメージは今後も人々の心情と造形の中から消え去ることはないであろう。」(おわりに)