
ブラームスにとって最後の室内楽曲となるのが、このクラリネットソナタ作品120の2曲である。この曲の後は2年後(死の前年)の1896年に「4つの厳粛な歌」と「11のコラール前奏曲」が作られている。そしてこの曲をヴィオラ用に編曲されたものが翌年の1895年に作られている。
現代ではクラリネット用、ヴィオラ用共に多く演奏されている。
またバイオリン用にブラームス自身の手で編曲されているが、こちらはバイオリンの低音部に集中してしまっていることとピアノのパートが大幅に変わっていてバイオリンソナタとして必ずしも成功したものになっていないので現代ではめったに演奏されない。
この作品は2曲のソナタになっているが、第1曲目は4楽章形式で、旋律がブラームスらしい情熱的な感じがするのに対して、第2曲目は3楽章形式で落ち着いた気分を味わうことのできる曲である。ともにブラームスらしい側面を表していると思う。そして2曲目の最後の第3楽章は変奏曲でブラームスの得意とした型式を味わうことができる。
第1曲目の第2楽章はクラリネットの美しい旋律が切れ目なく続く。聴きどころになっていると思う。第3楽章のクラリネットの旋律はこの楽器の低音の魅力を存分に味わうことができる。第4楽章は軽快なリズムに乗って快活な印象。クラリネットの細かな刻みは聞かせどころ。
第2曲目の第1楽章、第2楽章、第3楽章の冒頭に吹かれる主題は一度聴いたら忘れられない曲である。私は第2楽章の主題は、どこか大空に向かってろうろうと響く角笛のイメージを持って聞いている。第3楽章は静かで抒情的な主題が5つの変奏曲として変化していく妙味を味わうことができる。
私はこの2曲をブラームスの遺作として昔からジックリと聞いている。他の曲は現役の頃はどうしても仕事をしながら、あるいは資料を読みながら聞いてばかりであったが、この曲を聴くことに専念して聴いた。

