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Fsの独り言・つぶやき

1951年生。2012年3月定年、仕事を退く。俳句、写真、美術館巡り、クラシック音楽等自由気儘に綴る。労組退職者会役員。

「シャセリオー展」感想(その2)

2017年03月12日 15時34分10秒 | 芸術作品鑑賞・博物館・講座・音楽会等


 シャセリオー(1819~1856)がシェークスピアの「オセロ」を題材とした版画の連作の中の作品。1844年(25歳)に作られている。描かれているのはオセロの妻で関係にはまったオセロに疑われて殺されるデズデモーナが描かれている。この一連の作品以降ロマン主義への傾斜がいっそう明確になったと図録の解説には記されている。



 そしてこのポーズはモローに影響を与え、モローの「牢獄のサロメ」(1873-76)のサロメのポーズに結実していると記されている。似ているといえば似ている。従来のサロメの像とは違っているように感じる。解説では「抒情的ともいうべき、メランコリックで内省的な」サロメ像である。俯いた視線の先には血の着いた刑具、後ろに微かに斬首を待つ洗礼者ヨハネが描かれている。
ヨハネとサロメの関係にまで想像されるというロマン主義的な物語に昇華されている。

   

 1848年(29歳)の「カバリュス嬢の肖像」と1850年(31歳)の「エミール・ドサージュの肖像」。肖像画のポーズなどは師アングルの影響が色濃く残っているというのが評であるらしい。
 わたしにはシャセリオーの肖像画は対象の人物にかなり思い入れや同調意識が強いように見受けられた。他の画家の肖像画とどう違うのか、と問われるとこたえる力量はないのだが、まずは眼に惹かれる。
 アングルとドラクロアという対照的な画家が描いた肖像画も展示されていたが、シャセリオーの肖像画の眼はこちらをじっと見据えているようでいながら、本の少し上目遣いである。黒目の下にわずかに白い部分が描かれている。そのためにこちらを見据えているようでいながら、わずかに視線が画家を見つめる本来の視線からズレガあるように見えないだろうか。このわずかなズレが女性像の場合はなにかもの言いたげな表情に見え、男からするとちょっとドキドキする艶めかしさを感じる。男の場合は描かれている人物が画家の心を読もうとしているように見える。不思議な対話、凝視しあう関係を暗示させられるようだ。
 「カバリュス嬢の肖像」では肌の色が青白い」などと不評だったそうだが、上記に記した通りとても魅力的な目の表情につよく惹かれた。「エミール・ドサージュの肖像」の人物は外交官であるらしく、謹厳で自他に厳しい性格を感じさせる目の表情が特徴的である。この作品では図録の解説には「冷たく神経質な雰囲気」と記されているが、私は逆に感じた。包容力と柔軟性を持ち、茶目っ気も感じる視線ではないだろうか。画家と対話を楽しんでいるようにも見える。人物を顔の表情や体型から類型的に見てしまうと間違うということを教えてくれているようだ。
 


1846-56年にかけて作られたらしい「コンスタンティーヌのユダヤ人女性」という題が付されている。完成作品ではないと思われる。この作品も黒目が少し上を向いている。視線は画家を見あげているが、顔自体は正面を見据えている。
 先の肖像画のように社会的に有名な「上流社会」の人物ではない。シャセリオーは1846年ごろにアルジェリアを訪れている。この頃フランスはアルジェリアを植民地化しており、画家はこの地で大きな影響を受けているようだ。
 早いタッチの筆使いに、新しい時代の印象派的なものに先行するのではないかと感じがした。果たしていかがなものであろうか。このアルジェリア旅行で色彩がいっそう明るく、そして空気感が透明になる。赤・青・黄といった現職に近い色が大胆に大きな割合を占めるようになる。

      

 1850年の「授乳するムーア人女性と老女」、1851年の「コンスタンティーヌのユダヤ人街の情景」に描かれた人物像の眼も同じように正面を見据えているのに、黒眼はわずかに上向きである。
 そして私の感覚ではこのヨーロッパとは違う地の人々を見るシャセリオーという画家の眼が、植民地の人々をさげすむ眼ではなく、またヨーロッパが見失った古代を連想させるものでもない。習俗が違っても、ヨーロッパの人々とは変わらぬものを見つけだしているように思える。植民地の人々を、見下したり、哀れんだり、というのではない、変らぬものを見つようとする視線である。この点に惹かれる。幻想的な過去や異国趣味という思い入れによるオリエントではなく、生きた人々への関心を強く感じる。



 1853年の「雌馬を見せるアラブの商人」では幻想的な、イメージとしてのオリエントではなく、今ここから始まる物語を感じる。

   


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