★落ち杏(あんず)踏みつぶすべくいらだてり 杉田久女
踏みつぶすのは別に杏の実でなくとも、梅でも枇杷でも李でもいいのかもしれない。しかし少し赤みのかかった大ぶりの杏ならば、桜の実などの小さい実よりはもっと生々しい印象を与える。かといって林檎や桃ならば大きすぎる。
小さい実ではなく、杏の実の大きさからかなり苛立っているのであろう。そのいらだちは誰に向かっているのか、誰が原因なのかには触れていない。
苛立ちは杏という自然を見たからと言っておさまってはいない。地面によそよそしくおさまっている杏が作者には内面のいらだちと等価なものしてと釣り合っている。その杏をこれから踏みつぶそうとしている。
作者の存在を踏みつぶされるような敵意を相手に感じて、怒りが沸き上がっているというような激しいものではない、と私は受け取った。逆にやさしく扱われて、逆に自尊心を傷つけられたような場合なのかもしれない、と思うこともできる。そんな自分への苛立ち、そんなことに思い至った。人の心の襞をくすぐられたのかもしれない。そんな風に考えた方が、杏の容や味覚に沿うような気がしてきた。
ひょっとしたら愛の一瞬なのかもしれない。
踏みつぶすのは別に杏の実でなくとも、梅でも枇杷でも李でもいいのかもしれない。しかし少し赤みのかかった大ぶりの杏ならば、桜の実などの小さい実よりはもっと生々しい印象を与える。かといって林檎や桃ならば大きすぎる。
小さい実ではなく、杏の実の大きさからかなり苛立っているのであろう。そのいらだちは誰に向かっているのか、誰が原因なのかには触れていない。
苛立ちは杏という自然を見たからと言っておさまってはいない。地面によそよそしくおさまっている杏が作者には内面のいらだちと等価なものしてと釣り合っている。その杏をこれから踏みつぶそうとしている。
作者の存在を踏みつぶされるような敵意を相手に感じて、怒りが沸き上がっているというような激しいものではない、と私は受け取った。逆にやさしく扱われて、逆に自尊心を傷つけられたような場合なのかもしれない、と思うこともできる。そんな自分への苛立ち、そんなことに思い至った。人の心の襞をくすぐられたのかもしれない。そんな風に考えた方が、杏の容や味覚に沿うような気がしてきた。
ひょっとしたら愛の一瞬なのかもしれない。