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伊東良徳の超乱読読書日記

はてなブログに引っ越しました→https://shomin-law.hatenablog.com/

現場マネジャーのためのパワハラいじめ対策ガイド

2011-04-22 23:41:33 | 実用書・ビジネス書
 パワハラ・いじめについての概念や基礎知識と会社側からの防止・対応策について紹介した本。
 弁護士の目から見ると、第1章の基礎知識、第3章の事後対応、第4章の防止策は抽象的な一般論でごく入門編的なものなのに対して、第2章の事例が内容的にも分量的にも圧倒的で、これと巻末付録のコンパクトにまとめた裁判例リストが便利です。
 弁護士が書く本にありがちではありますが、その第2章の具体的な事例は、ほぼ全部現実の裁判例の事案のようです。だからこそリアリティがあるのですが、同時に読者にとってそれがよくあると感じられるか、自分が知りたいと思えるケースかという点ではどうかなという気がします。
 そして、弁護士の目から見ると、パワハラ・いじめについて裁判になった場合にどうなるかについては実際のところ予測が難しい、どちらにも転びうるいわばグレイゾーンがかなり幅広くあるように思えるのですが、そういう部分についてこの本は基本的に「パワハラに該当しうる」つまり裁判所によって違法と判断され損害賠償責任が認められ得るという方向で書いています。それは、この本のタイトルにあるように、この本がもっぱら使用者側の弁護士が使用者側に安全に(裁判で負けるリスクを取らせないように)アドバイスすることを目的としているからです。こういう部分について、弁護士会での研修や会議での発言を聞いていても、使用者側の弁護士は使用者側が負ける危険があるということを重視し、労働者側の弁護士は労働者側が勝てるとは限らないことを重視しがちです。要するにどちら側も「実はわからない」と言っているのですが、それが使用者側の弁護士の口から出るとき(使用者側にアドバイスするとき)は損害賠償が認められ得るという表現になるのです。こういう本を読んで、自分のケースでも損害賠償が認められるものと判断した労働者が相談に来て、労働者側の弁護士が困ったり、難しいと思うと答えて相談者が怒ったりということがままあり、労働者側の弁護士としてはなんだかなぁと思ったりします。
 ところで、この本でパワハラを受ける自分自身もやや問題を抱える社員は、すべて田中さんと山田さんですけど、西村あさひ法律事務所では、田中さんと山田さんが恨まれてるんでしょうか。


石井輝久編著 日経BP社 2011年3月21日発行
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太陽系大紀行

2011-04-22 23:06:55 | 自然科学・工学系
 太陽系の惑星・衛星・小惑星・彗星探査の歴史と探査の結果わかった惑星や衛星についての知見を紹介した本。
 惑星探査をめぐる、各国の政治と技術をめぐる紹介が、時代を追って書かれていて、おじさんには過去の記憶ともフィットして懐かしく読めました。華々しい有人飛行一番乗り競争とマスコミの報道の陰で、当時は地味にしか扱われなかった無人探査機によるサンプル採取と帰還が、実は惑星探査にとっては遥かに画期的な成果だったという下りは感慨深く思えます。
 同じく木星の衛星のイオは活発な火山活動が続き、エウロパは氷の世界とか、木星の衛星はいまや63個、土星の衛星は64個とか、土星の極地方では激しい嵐が吹き荒れ地球の100万倍も強い(って何を基準に測るんだろ)雷が走る(173ページ)とか、子どもの頃に得た知識とは様変わりした話にも興味を惹かれました。


野本陽代 岩波新書 2010年10月20日発行
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マキリ

2011-04-22 22:36:54 | 小説
 故郷を離れ裏家業に生きる四〇男騎寅が、襲ってきた通り魔を夢中で返り討ちにしたが、その日から自分の肉体が腐敗し続けるように自分には見えることの恐怖と殺人事件の捜査から逃げようと故郷に舞い戻り、鍛冶屋を継いだ父の妻となっていた元カノの竜子と再会し、逢瀬を重ねながら、消息不明の父や裏の氷室に隠されていると言われる即身仏をめぐる事件に巻き込まれていくという小説。
 家族とのしがらみから思いを持ちながら別れた男女の別れとその後の重ねた齢と再会の微妙な愛情と切なさと苦渋と諦念が一番の読みどころとなっています。別れの思い出と再会をめぐる思いの複雑さは、竜子の側で重く渦巻くように描かれ、騎寅の側では、元カノが父の妻となっていたという事情への葛藤はあるものの、そのような展開にしてはあまりにも単純な感じ。男って単純、なのかなぁ。作者が女性で竜子の側の視点で書いているからかも知れませんが。
 騎寅が自分の体が腐敗していくように見えるという設定、即身仏、イザナギ・イザナミの神話といった道具立てがおどろおどろしい雰囲気を作っていますが、そっちは竜子の強さ・図太さのイメージを引き立てる役割としてはわかるけど、という程度に読んでおくところかなと感じました。


安達千夏 講談社 2010年10月18日発行
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