限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

『ベンチャー魂の系譜(13))-- 最終回(Part2)』

2010-01-23 09:54:44 | 日記
【ベンチャー魂の系譜 12.アメリカ活力の源泉、ベンチャー魂】

最終回が2回もあるというのは、言語的には矛盾しているが、そういう細かいことは無視して、ともかく前回と同じクラスの議論を別の学生がまとめものを掲載する。

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今回の授業のメインテーマ:アメリカのメンタリティ、バイタリティとは
 ・巨大なものに立ち向かう小さき勇者を応援する。
 ・自由、柔軟性を生み出す環境がある。
 ・慈善事業に携わり、自分の資金を社会に還元することが成功者の美徳。
(はじめはベンチャー、後にチャリティー、その名も”ベンチャリティ”)

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【本紹介】

いつも議論をはじめる前に、その回の議論に関する図書を紹介している。

・『カーネギー自伝』
自伝の中ではトップ2に入る。今まで儲けた資産を公共のために使いつくす。全米に1700あまりの図書館を寄付。このようなPhilanthropic(フィランソロピック)な活動姿勢を日本人も見習う必要がある。現在では、ビル・ゲイツがそれを実行している。

・『ビル・ゲイツ、北京に立つ』
中国人のビジネスの仕方ついて書かれている。

・ナポレオン・ヒル『思考は現実化する』
実際、40,50歳になると自分の思っていたことの8割が実現しているものである。所謂人生の敗残者といわれる人たちも、意識している/意識していない、に拘らず、深層心理的には、そのような思いをもっているので、結果的にそれしか選択肢がなくなってしまっている、ということになる。

ナポレオン・ヒルは、どうすれば成功するかについて述べている。「まず金ありき」。

二人の出会いは、カーネギー65歳、ヒル25歳の時。当時学生だったヒルはアルバイトでカーネギーにインタビューを依頼。三日ほどのインタビューの後、カーネギーは言った。「金持ちなりたいか?それならば、成功者を紹介してやるから、給料なしで成功哲学をまとめ上げよ。」こうして20年の歳月を経て、『ナポレオン・ヒル・プログラム』の原型が完成。

しかし、このプログラムの真意を歪めて、金儲け講座や講演会を開催し、世間のためというより自分のために金もうけしている輩がいる現状は非常に残念である。

・ヴィクトール・フランクル『Man's Search for Meaning(「生きる意味」を求めて)』
彼はユダヤ人であるがゆえに強制収容所で殺されかけたが、生き延びた。そのような劣悪な状況において、死ぬ人はどんな人か、生きる人はどんな人か、について書いてある。

・中村正直訳『西国立志編』
 サミュエル・スマイルズの『Self Help(自助論)』を訳したもの。福沢諭吉『学問のすすめ』と同じくらいのベストセラーに。(ちなみに中村正直は福沢諭吉と同じく明六社のメンバーである。)イギリスは日本と同じ小さな島国であるが、勤勉さゆえに繁栄しているということが述べられている。中村はイギリス留学当初英語がほとんど分からなかったが、その後英語をマスターし、非常にこなれた日本語で本書を訳している。

・『ウチの社長は外国人』 
日本で成功することは難しいができないこともない。成功するためのノウハウ本。

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モデレーター:セネカ3世(SA)
パネリスト:寅馬(農1)

【パネリストがこの話題を選んだ理由】

寅馬(農1) 
「ここ数年のipodに興味あり。前回プレゼン能力の必要性を実感したので今回の発表を自らへの試練とみなしている。カーネギーにも興味があったが、ビル・ゲイツ一本で調べた。」

授業で取り上げた人物:ビル・ゲイツ中心。(+カーネギー、スコット・マクネリ、スティーブ・ジョブズ、クレイグ・ベンター)



Q.ビル・ゲイツとは?
(寅馬) 1955年、シアトルの裕福な家に生まれる。父は弁護士、母は銀行家の娘で教員。

Q.シアトルの特徴は?場所は?
A.(寅馬)IT工業都市。場所はシリコンバレーの近くかな?
(SA)シリコンバレーはサンフランシスコの南にある。(ホワイトボードで図説明)

(寅馬)ニューメキシコ州の名門私立中学校に入学。当時(=1960年代後半)はほとんどパソコンが導入されていなかった。ビル・ゲイツが入学した学校は、ハイスクールとして初めてパソコンを導入、資金繰りが大変だったようだ。彼は夜学校に忍び込んで操作するくらいパソコンに熱中。

Q.学校に夜勝手で忍び込んでもいいの?
A.(寅馬)それほど熱中していたということではないか。実際、寝食を惜しんでいたほど。プログラミングは一朝一夕にできるものではないから。友達と一緒に夢中になっていた。

Q.(学生Y)そんな高価なものを生徒がずっと使えるのか?
A.(寅馬)いったん学校が買えば生徒は自由に使えたのかな。。。
A.(学生S)当時パソコンをするのに料金がかかり、支払い額がばかにならなかった。運よくパソコン関係の知り合いに目をかけてもらい、24時間、ただで使えるようになったとか。

Q.パソコンはもともと何のために使われていたのか?
A.(学生S)複雑な計算をするため。当時はこの教室ぐらいの大きさだったと思う。
(SA):それはパソコンと言うだろうか?
A.(学生K)真空管を使ったもので、暗号解読などに使っていた。
(SA)そう。もともとは第二次大戦中の真空管制御のもの。この部屋の倍ほどの大きさ。弾道軌跡を図るのにも使われた。計算機でできるような単なる計算ではない。パソコンは1964年、嶋正利という日本人が開発。

当時コンピュータは数億円ほどの高価なもの。計算能力の落ちるミニコンでも現在の価値で500万くらい(あるいは2000万円?)ほどの値段がしていた。でも現在のケータイの機能よりも劣っていた。1960年代、ワシントン大の学生がミニコンを使って行うプロジェクトに中学生であったビルゲイツにも参加を許した。中学生であったが、能力を認められて仕事をさせてもらった。このように、個人の自由(=やりたいことができる)をサポートできる環境があるのがアメリカ。(飛び級制度もその一つだと考えられる。)

Q.大学はどこへ?何を専攻した?
A.(寅馬)ハーバード大学で法律。

Q.それって、現在の彼の職業とは全く関係ないのでは?
A.(寅馬)父が法律家だったので説得され折れた。しかし夢捨てきれず、大学を中退する。その後、アナログ方式交通量分析プログラムの受注を受け、独自開発に全力投球。

(SA)アメリカの大学では学部は1ステップにすぎず、将来の進路、職業を決定づけるものではない。高校の時に文理を厳格に分けるのは日本だけ。アメリカでは、大学入学時に自分の専攻を決めていなくてもよい。例えば、MBA=経営学修士号。こういう類のものは日本では経済学部の上に位置づけられるが、アメリカではそのような縛りはなく理系出身者も多い。文学部出身者がプログラミング系の修士をとるケースも多い。

Q.マイクロソフトを創業した場所は?
A.(寅馬)ニューメキシコ州のアルバカーキ。

(SA):アルバカーキの場所は。。。(ホワイトボードで図説明)ところで、ソルトレークのユタ州を知ってる?砂漠ばかりで日中40度にもなる。しかし、アメリカ人はこのような砂漠の気候も好むひとが多い。現地のことをよく知るようになると、日本人の感覚だと住めないだろうと思うような場所でも結構人が住んでいることが分かる。

(寅馬)マイクロソフトは、ウィンドウズシリーズなどを開発し、世界中で大いに売れた。

(SA)その前には?
(寅馬)交通量分析プログラムやプログラミング言語開発など?

(SA)マイクロソフトの躍進のきっかけとして、CP/M互換の機能をもった MS-DOSを販売したことが挙げられる。(背景として、IBMがマイクロソフトのOSを自社のパソコンに搭載し、さらにその成功を見た会社が一挙にIBM互換性の安いパソコンを出荷した。それで MS-DOSのシェアが急拡大していったことが挙げられる。)マイクロソフトは、他社といつもいつも喧嘩しているわけではない。結果的に喧嘩していても、ツボをおさえて大同団結するのがアメリカの特徴。カーネギーの場合も同様。ある目標に向かって一緒になろうと議論して、解決案を見出すのはアメリカのいい点である。

(SA)他の人にもふれてみよう。

Q.スコット・マクネリとは?
A.サン・マイクロシステムズ社の創業者。

Q.スティーブ・ジョブズとは?
A.(学生O)アップル社の創業者。MacやiPodで有名。

(SA)スティーブ・ジョブズはもともと養子。1984年、私がカーネギーメロン大学を卒業するときに来賓として呼ばれていた。(アメリカでは大きなテントで卒業式を挙行する。)ジョブズはカリスマ性のある人。スタンフォード大のHPで彼の履歴を紹介したらアクセス過剰でパンクするほど。経営不振によりアップル社を追い出されたが、現在は返り咲きCEOとなっている。

(SA)小さい会社が大きい会社に対抗するのを応援するのがアメリカ。旧約聖書に、少年ダビデが巨人戦士ゴリアテと対決する場面がある。ダビデはゴリアテにどのように立ち向かった?

(学生F、Y)石を投げた。

(SA)そう、投石機で。このように巨大な敵に立ち向かうものを応援する気持ちがアメリカ人にはある。(実際、 『ジョブズはなぜ天才集団をつくれたか』、『ヒトゲノムを解析した男 ・クレイグ・ベンター自伝』にもダビデとゴリアテの話が引用されている。)

Q.ビル・ゲイツは今は何をしている?
A.(寅馬)今までは経営の雑務にも追われていたが、それでは自分のやりたいことができない!それで、当時の副社長と話し合って会社を経営部門と技術部門に分け、技術部門をビルゲイツが担う。

(SA)寄付事業も行っている。(ワクチン普及や教育水準の向上など。)こういうフィランソロピックな活動は日本ではあまりないのは残念だ。安田善次郎が東大の安田講堂を寄付したという例外はあるが。

Q.アメリカ人の「儲けたお金を社会に還元する」精神はどこに由来する?
A.(寅馬)歴史の違い?歴史が浅いからとか。。。

Q.(SA)でも、カーネギーの場合はスコットランドの移民である。そもそも歴史の浅い深いだけで決められる?
A.(学生K)宗教的要素が強いと思う。キリスト教についてはよくわからないが、イスラム教では富裕層が貧しい人に喜捨する習慣がある。キリストもそのような慈愛精神があるに違いない。
A.(学生Y)イギリスの植民地であったアメリカは、開拓によって今の地位を築き上げてきた。苦しい時代があったからこそ今の栄光があるという気持ちが国民の中にあるのではないか。

(SA):一番の要素はキリスト教であろう。友愛=フィランソロピック。鳩山首相が掲げる言葉だが、欧米には遠い昔から脈々と受け継がれている。今ではキリスト教が宗教色を失っているにもかかわらず、欧米人にはこの博愛精神が根付いており、実践されているのだ。

Q.クレイグ・ベンターとは?
(学生S)ヒトゲノム解析。

Q.(SA)どのように解析した?
A.(学生)タンパク質から一部を取り出した。自分の精子を解析したらしいが。。。
(SA)彼はよい意味で気違い(偏執狂)。アメリカには気違いのような天才が多い。セレラ1社がゲノム解析で国際特許をとれば利益がそこに集中するため、世界中の政府、および科学者、研究機関が反発。それで、 DNA解析に拍車がかかり、競争したおかげで、当初15年かかると思われていたのがわずか2年足らずで解析完了した。この意味で、クレイグ・ベンターは一人で世界を振り回した。その強引なやり方に毀誉褒貶の両面で激しいものの、クレイグ・ベンターのような異質な人間の存在が認められ、尊重されるのがアメリカのいい点だ。
コメント
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