(前回)
X-1.英語百科事典
良質の情報の入手には百科事典を欠かすことはできない。西洋語では、各国から充実した百科事典が発刊されている。一度、カルフォルニア大学のバークレー校の図書館のレファレンス室を見学したことがあったが、各言語の大冊な百科事典を見て、改めて人々の国語に対する熱意を感じた。例えば、母国語人口が少ないオランダ語にも非常に立派な百科事典があったことは、以前のブログにも書いた通りだ。
沂風詠録:(第322回目)『良質の情報源を手にいれるには?(その 27)』
残念ながら、オランダ語はあまり読めないので、私にとってこの豪華なオランダ語の百科事典は「猫に小判」でしかない。それで、本稿では、私の読める言語、英語、ドイツ語、フランス語、古典中国語(漢文)に限って話を進めたい。
百科事典は encyclopedia と呼ぶが、この言葉は元来ギリシャ語の
ἐγκύκλια παιδεία
に由来する。文字通りには、εγκυκλια(輪状の) παιδεια(教育)、つまり「物理的にサークル状に座って教育する」あるいは「抽象的な意味で、過不足のない知識を与える」を表す単語で、古典ギリシャ・ローマ時代では子供むけの一般教養を意味した。
Brewer's "Dictionary of Phrase and Fable"(1970年版) に西洋語の百科事典の歴史をざっくりと紹介している。それによると、ローマ時代のプリニウスの Naturalis historia がこの種のものでは最初であるが、近代の百科事典の魁となったのは 18世紀初頭に John Harris が出版した Lexicon Technicum であるとのことだ。しかし、すぐに Chambers の Cyclopaedia が代表的な百科事典になったという。その後、18世紀の後期に出現したのが、今回取り上げる "Encyclopedia Britannica"(大英百科事典、以下 Britannica )である。
X-1-1 "Encyclopedia Britannica" (Part 1)
Britannica の初版は3巻ものであった。幸運なことに2005年にこのリプリントが出版された(ISBN: 978-0852290668)。私は上で述べたバークレーの本屋でこれを見つけた。だが買って帰るには大きすぎたので、帰国後、Amazonで購入した。当時は 1万円程度であったが、現在は残念なことに絶版になっていて、中古では数万円もする。
この初版(リプリント)のものも含め私は、 Britannica の5つのバージョン、1、9、11、 14、15 を所有している。この中、14th は私が中学生のころ(1960年代後半)にブームとなった。ブリタニカのセールスマンが各地で高価な Britannica を数多く販売し、そのため借金が返せない人も出て、大きな社会問題ともなった。御多分に洩れずセールスマンが我が家にもやってきたが、値段といい、内容といい、とても手のでる商品ではなかったため購入しなかったが、クリーム色の装丁は鮮やかに私の眼に焼き付いた。
当時、このような高価な百科事典はとても個人所有できるはずがないと考えていたので、関心を持たなかった。ところが、 2002年ごろ、たまたま神保町を歩いていると古本屋の店先にクリーム色のBritannicaを見つけた。「あっ、あれだ!」と瞬時に分かった。近寄ってよく見ると、値段がわずか、 6,500円であった。その破格値に腰を抜かしたが、 1も2もなく買った。「何故、安いか?」と確認すると、30巻の内に1巻だけ20ページほどにわたってページが皺よっている個所があると、示してくれた。チェックすると、正確に印刷はされているものの、製本時にわずかに余計な圧力がかかって皺が寄っただけと分かった。私にはまったく問題とは思えなかった。送料は3000円ぐらいであったので、合計でもわずか1万円ほどで買えたことになる。30年数前の中学生時代の価格が100万円とすると、わずか1%、つまり 99%オフ、で買えたことになることに驚いた。この経緯は次のブログに書いた。
想溢筆翔:(第18回目)『99%オフのバーゲンセール』
さて、アメリカに留学したおかげで英語にはほとんど不自由しなくなった私にとって、この14th版を読んでいても特段分かり難い個所はない。しかし、中学生にはとても理解できなかっただろうな、とも思った。そのうち、使えば使うほど、Britannicaの良さが分かってきた。その意味ではブリタニカのセールスマンが自信をもって勧めたことに多少の理解するものの、英語が理解できない人にとっては非常に高価な無用の長物であることは否定できない。
さて、この14th版をきっかけとして、Britannica の他の版にも興味をもつようになった。日本の古本屋というサイトで検索すると15th版も安く売っていた。最新版が欲しいと思っていたので、購入したもののあまり使っていない。というのは、15th版の項目の分類は従来の大項目でなかったからだ。15thは、数多くの小項目のMicropedia部分と、Macropediaという、いってみれば単行本の寄せ集めたような部分から成り立っていた。 Macropediaでは説明があまりにも細かすぎて欲しい情報がどこにあるか分からない。逆に、Micropedia では説明が簡略すぎて、頼りない。まさに諺にいう「帯に短し、襷に長し」の状態だった。
私には、14thのようなBritannicaの伝統的大項目分類が好きだ。過不足ない説明を得ることができるからだ。
WikipediaのEncyclopedia Britannica の説明によると、最新版(Global)版では Macropedia と Micropedia を廃止して、従来(14thまで)の大項目に戻したとのことだ。Britannica の編集者の見識に敬意を表したい。
(続く。。。)
X-1.英語百科事典
良質の情報の入手には百科事典を欠かすことはできない。西洋語では、各国から充実した百科事典が発刊されている。一度、カルフォルニア大学のバークレー校の図書館のレファレンス室を見学したことがあったが、各言語の大冊な百科事典を見て、改めて人々の国語に対する熱意を感じた。例えば、母国語人口が少ないオランダ語にも非常に立派な百科事典があったことは、以前のブログにも書いた通りだ。
沂風詠録:(第322回目)『良質の情報源を手にいれるには?(その 27)』
残念ながら、オランダ語はあまり読めないので、私にとってこの豪華なオランダ語の百科事典は「猫に小判」でしかない。それで、本稿では、私の読める言語、英語、ドイツ語、フランス語、古典中国語(漢文)に限って話を進めたい。
百科事典は encyclopedia と呼ぶが、この言葉は元来ギリシャ語の
ἐγκύκλια παιδεία
に由来する。文字通りには、εγκυκλια(輪状の) παιδεια(教育)、つまり「物理的にサークル状に座って教育する」あるいは「抽象的な意味で、過不足のない知識を与える」を表す単語で、古典ギリシャ・ローマ時代では子供むけの一般教養を意味した。
Brewer's "Dictionary of Phrase and Fable"(1970年版) に西洋語の百科事典の歴史をざっくりと紹介している。それによると、ローマ時代のプリニウスの Naturalis historia がこの種のものでは最初であるが、近代の百科事典の魁となったのは 18世紀初頭に John Harris が出版した Lexicon Technicum であるとのことだ。しかし、すぐに Chambers の Cyclopaedia が代表的な百科事典になったという。その後、18世紀の後期に出現したのが、今回取り上げる "Encyclopedia Britannica"(大英百科事典、以下 Britannica )である。
X-1-1 "Encyclopedia Britannica" (Part 1)
Britannica の初版は3巻ものであった。幸運なことに2005年にこのリプリントが出版された(ISBN: 978-0852290668)。私は上で述べたバークレーの本屋でこれを見つけた。だが買って帰るには大きすぎたので、帰国後、Amazonで購入した。当時は 1万円程度であったが、現在は残念なことに絶版になっていて、中古では数万円もする。
この初版(リプリント)のものも含め私は、 Britannica の5つのバージョン、1、9、11、 14、15 を所有している。この中、14th は私が中学生のころ(1960年代後半)にブームとなった。ブリタニカのセールスマンが各地で高価な Britannica を数多く販売し、そのため借金が返せない人も出て、大きな社会問題ともなった。御多分に洩れずセールスマンが我が家にもやってきたが、値段といい、内容といい、とても手のでる商品ではなかったため購入しなかったが、クリーム色の装丁は鮮やかに私の眼に焼き付いた。
当時、このような高価な百科事典はとても個人所有できるはずがないと考えていたので、関心を持たなかった。ところが、 2002年ごろ、たまたま神保町を歩いていると古本屋の店先にクリーム色のBritannicaを見つけた。「あっ、あれだ!」と瞬時に分かった。近寄ってよく見ると、値段がわずか、 6,500円であった。その破格値に腰を抜かしたが、 1も2もなく買った。「何故、安いか?」と確認すると、30巻の内に1巻だけ20ページほどにわたってページが皺よっている個所があると、示してくれた。チェックすると、正確に印刷はされているものの、製本時にわずかに余計な圧力がかかって皺が寄っただけと分かった。私にはまったく問題とは思えなかった。送料は3000円ぐらいであったので、合計でもわずか1万円ほどで買えたことになる。30年数前の中学生時代の価格が100万円とすると、わずか1%、つまり 99%オフ、で買えたことになることに驚いた。この経緯は次のブログに書いた。
想溢筆翔:(第18回目)『99%オフのバーゲンセール』
さて、アメリカに留学したおかげで英語にはほとんど不自由しなくなった私にとって、この14th版を読んでいても特段分かり難い個所はない。しかし、中学生にはとても理解できなかっただろうな、とも思った。そのうち、使えば使うほど、Britannicaの良さが分かってきた。その意味ではブリタニカのセールスマンが自信をもって勧めたことに多少の理解するものの、英語が理解できない人にとっては非常に高価な無用の長物であることは否定できない。
さて、この14th版をきっかけとして、Britannica の他の版にも興味をもつようになった。日本の古本屋というサイトで検索すると15th版も安く売っていた。最新版が欲しいと思っていたので、購入したもののあまり使っていない。というのは、15th版の項目の分類は従来の大項目でなかったからだ。15thは、数多くの小項目のMicropedia部分と、Macropediaという、いってみれば単行本の寄せ集めたような部分から成り立っていた。 Macropediaでは説明があまりにも細かすぎて欲しい情報がどこにあるか分からない。逆に、Micropedia では説明が簡略すぎて、頼りない。まさに諺にいう「帯に短し、襷に長し」の状態だった。
私には、14thのようなBritannicaの伝統的大項目分類が好きだ。過不足ない説明を得ることができるからだ。
WikipediaのEncyclopedia Britannica の説明によると、最新版(Global)版では Macropedia と Micropedia を廃止して、従来(14thまで)の大項目に戻したとのことだ。Britannica の編集者の見識に敬意を表したい。
(続く。。。)