限りなき知の探訪

45年間、『知の探訪』を続けてきた。いま座っている『人類四千年の特等席』からの見晴らしをつづる。

『ベンチャー魂の系譜(11)』

2010-01-16 13:45:13 | 日記
【ベンチャー魂の系譜 11.伝説をつくったベンチャー】

日本のベンチャーの創業者の中には、そのカリスマ性から『伝説をつくったベンチャー』ともいえる人たちがいる。

今回は、その中から次の3人の人を選んだ。『』内は関連図書。
1.タリーズコーヒー・松田公太 『すべては一杯のコーヒーから』(新潮社)
2.ライフネット生命保険・出口治明 『直球勝負の会社―戦後初の独立系の生命保険会社はこうして生まれた』(ダイヤモンド社)
3.ソフトバンク・孫正義 『孫正義・起業の若き獅子』(講談社)

この内のライフネット生命保険の出口治明社長には、前期の私のクラス 『国際人のグローバル・リテラシー』( Global Literacy for Cosmopolitans)で特別講義をしていただいた。
出口治明氏特別講義:『イスラムと西洋・キリスト教』

いつもそうであるば、クラス内の議論では、話されている内容は必ずしも完全に正しいとは限らない。話題もおおまかには決まってはいるものの、話の内容に応じて変わっていくので、その都度話の矛先が飛ぶことも多い。私は、現在のように、インターネットや氾濫する本で情報が容易に入手できる時代にあっては、大学での教育というのは、従来のような一方通行の講義はあまり必要とは考えていない。 Webやe-Learningではなく、大学のような集合教育で提供できるのは、教師と学生や学生同士の議論の場である。その利点を生かした授業がこのようなパネリストを指名したディスカッション形式だと考えている。そこでは、内容の正しさより、論理をその場で組み立て、展開して聴衆を納得させる、という能力が必要とされる。

従って、今回の議論においても各項目の内容が事実と多少食い違いがあるかもしれないが、とりあえずクラスで議論していた様子をほぼそのまま再現して、提示している。

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モデレーター:セネカ3世(SA)
パネラー:ダイキソ(DA)、ピッコロ((PI)

【パネラーがこの話題を選んだ理由】
(DA) 松田公太の事を知っていたので。
(PI) 今回のテーマになっている人たちは現在、まだ存命である。そういう身近な人が、伝説をつくったベンチャーを立ちあげることができたのかに興味があった。

【1】タリーズコーヒー・松田公太氏
(DA) 1968年、宮城県。90年に三和銀行に入社、6年後に退職。タリズコーヒーを作る。
(PI) 現在、タリーズ自身は伊藤園に買収されてしまったが、松田氏本人はタリーズ・インターナショナルを設立した。

(SA) なぜタリーズは伊藤園に買収されたのか?
(DA) 2002年にクーズ・グリーンティーを作ってそっちに重点を置きたかった。
(PI) 内部役員からバイアウトを仕掛けられた。
聴衆(C)利益を出さなくなったから。

(SA) 会社の買収は、大抵の場合、会社が利益を出さなくなり、借金ができた場合が多い。創業者はだれも自分の会社を簡単には手放したくないはず。ベンチャーは、起業は一時期の話であるが、継続することが難しい。利益がでない会社は、最終的には買収されたり、倒産に至るケースが多い。
現在松田氏はシンガポールでビジネスをしようとしている。この「人生何度でもやり直せる」という姿勢が重要。

(SA) どうして松田氏ビジネスをはじめようとしたか?
(DA) アメリカに住んだりしていたが、日本との食文化の違いを感じた。この食文化の壁をうちやぶろうとした。

(SA) なぜ起業という選択肢をとったか?
(DA) 自分のやりたい事をやりたかったから
(PI) もともと起業する気で日本に帰ってきた

(SA) 自分のやりたいことをするのはなにもベンチャーを起こさなくても、大企業でも自分のやりたいことが全然できないわけではない。彼は兄弟を若いときに亡くしていて、人生なんてこんなにも儚いものなんだと感じた。それで、自分の人生を悔いなく生きようと決心したのだと思う。

(SA) この人は上場してラッキーだと感じたか?
(PI) アメリカの食文化を日本に広めるという点では使命を果たしたと考えられる



【2】ライフネット生命・出口治明氏
(PI) 生まれは三重県。京都大学法学部卒。日本生命に入社、エリートコースを歩む。日本生命の中で、頭角を現す。バブル崩壊後、警備会社に出向(左遷)される。新しい保険の形を作りたいと、ベンチャーキャピタルから資金を募り、ライフネット生命保険を設立した。

(SA) 新しい形とは?
(PI) 保険料の5割は営業周りの「人件費」…これをやめるためにネットを利用した。

(SA) なぜこの会社は顧客として30代を狙っているのか?
(PI) 30代の所得が減少しているから。

(SA) 他にインターネットを利用した起業はあったのか?
(PI) アクサ生命がある。

(SA) 主な違いは?
(PI) アクサは既存の生命会社が親会社であり、そこの子会社。ライフネットは親会社があるわけではない。戦後初の独立系の生命保険会社。

(SA) このようなビジネスモデルを真似する人はでてこないのか?
(PI) はじまったばっかり(2006年創業)だからでてこないのではないか。

(SA) インターネットは1995年から広まっているのに、なぜ今までこのような形態の生命保険会社が出てこなかったのか?
(PI) 金融庁がOKを出さなかったから。

(SA) なぜOKを出さなかった?
(PI) 今までは、護送船団方式で、既存のものを確実に運営していた。そして、最近はその見直しが始まっていて、その流れでOKを出した。
(SA) 保険会社というのは株式会社ではなく、(保険)相互会社という形態をとる。株式会社というのは、マイナス益になれば倒産できる。しかし、生命保険は相互会社という形態で、倒産できないことになっている。自由競争の時代がはじまり、金融庁がこの縛りをなくす政策に転換した。その結果、生命保険の会社を株式会社の形態でも設立できるようになった。

(PI) 出口氏は、この発表を待って(潮時だとおもって)、生命保険会社を設立した
(DA) ネットを利用することで、他の保険と比較することができるようになった。今までは大抵、1社の保険しか考慮しなかったのを、発想を変えて複数の保険も考慮できるように考えた。

(SA) なぜ同じ種類の保険(例:生命保険)を2つの会社にかける必要があるのか?
(DA) 人生は10年ごとにかわる。複数社の保険に掛けることで、変化に応じてどの保険をとるか変えていくことができる。

(SA) そもそも生命保険なんて「死んだら金がもらえる」というのが基本であるから、種類なんてそう多くはないはず。ライフネットは他社の生命保険と何がちがうのか?

(SA) 出口氏の基本的な考えは、現在の若い世代、子供を持つ人達にとって生命保険があまり役にたっていないが、これではダメだ。この若い人達のための保険が必要だと考えて、ライフネットを始めた。しかし、日本人を対象にした生命保険の掛金は、基本的には平均余命の計算を確率論的に計算するだけだ。ライフネットは営業費を削減することで、掛け金を安くすることを考えた。普通、生命保険では2.5万円の営業費がかかっているが、ライフネットは0.5万円に抑えている。

(SA) 現在この会社はのびてるか?
(DA) 伸びている。

(SA) ライフネット生命のマイナスの点は?マイナスの点も正直に言わない人にはベンチャーキャピタルは投資はしない。
(PI) ブランドがないこと。世間的にはブランドがない会社というのは信用がない、と判断されてしまう。
(DA) ブランドがないこと。ネットは「見ない人は見ない」ので、加入者があまり増えない

(SA) 加入者が足りないとどういう問題が発生する?
(DA) 利益があがらない。
(PI) ライフネット生命は、普通の生命保険会社のように大々的なメディア広告をうつのではなく、口コミを利用して広めようとしている。

聴衆(A)もし第一生命がネットをはじめたらライフネットは圧迫されるのではないか?
聴衆(B)第一生命がこのようなネット商法を始めるのはここ数年ではムリだと思う。ライフネット生命としては、今のうちに顧客を集めないといけないはず。
聴衆(C)加入者が少なくなり、会社が倒産すると保険金が戻ってこなくなる。

(SA) 風評被害で保険を解約する人が増加する可能性がある。逆にいうと、金をいっぱい集めることで「潰れない」ということをアピールしないといけない。現在、価格競争では他社にはるかに勝っている。

【3】ソフトバンク・孫正義氏
(DA) 在日韓国人、佐賀県生まれ。アメリカに留学。
(SA) 在日韓国人の所得は平均的な日本人よりかなり多い。これは、彼らが自営業である割合が多いため。

(SA) 孫氏はなぜアメリカに行こうと思ったのか?
(DA) 一度アメリカにホームステイに行ったことがある。この時代はアメリカが最強の時代で、アメリカの強さに惹かれた。
(PI) 藤田田(日本マクドナルド社長)に面会を求め続け、遂に面会にこぎつける。彼から、「アメリカにいくならコンピュータを学べ」ということをいわれ、従う。

(SA) 藤田田氏の考え方は?
(PI) 数字がすべて。
(SA) まさにそう。藤田田氏、ユダヤ人の友人が多くいた。ユダヤ人はアメリカの人口の2%しかいないのに、社会の上層部の20%はユダヤ人である。特に学問分野や金融では強く、重要な人たちが多い。さて、アメリカに住むユダヤ人達はどこから移住してきたのか? (PI) イタリアとかからも来ていた。

(SA) 第2次世界大戦の時期に、ドイツからの移住が多い。ロシア・ポーランドからも迫害を逃れて移住してきた人は多い。

(SA) 話を戻して、アメリカに行く前に彼に影響を与えたものは?
(DA) ビル・ゲイツではない。
(PI) ツヅミセイシロウ。彼の同級生。

(SA) 人に好かれる人、というのがいる。藤田田氏は十分しか孫正義と合わないといったのに、結局は2時間も話しをした。これは、孫正義のやりたいことが明確であって、藤田田氏が助けてやりたいと思ったためだった。

(PI) 孫正義はバークレイ校(UCB)に行った。

(SA) 当時のバークレイはコンピュータ関係で全米一(世界一)だった。
(PI) 声が出る電子辞書をUCBの教師陣を巻き込みながら開発し、これをシャープに売り込んだ。

(SA) 誰が受け止めてくれた?
(PI) 電卓の主、佐々木正氏。
(DA) 彼により、孫正義氏は仮契約を受けた。

(SA) なぜ仮契約をできたのか?
(DA) 他の会社では門前払いを食らったと隠さずに言い、その素直さが気に入られた。

(SA) 佐々木氏はどのようにして彼を助けた?
(DA) ソフトバンクに出資した。

(SA) 孫正義は「自分は技術者であり、会社を大きくする方法がわからない」と言った。(孫氏は「豆腐屋」になると言っていた。そう、1ちょう、2ちょうと数えるあの豆腐屋に…)そして、200人ぐらいの規模になったときに、大森康彦氏を佐々木氏紹介された。このとき孫はどうしてたか?

(DA) 病気になってた。この空いた社長の役を大森氏が代行。
(PI) 大森氏は一般的な大企業と同じような安定志向をやろうとした。しかし、ベンチャー志向のある内部と軋轢があり、結局、解雇された。

(SA) 孫氏は大森氏について「リススクマネージメントの方法を導入してもらったことにより、ソフトバンクという会社が体をなした」と言っている。リスクマネージメントとは?

聴衆(B)悪くなった風評をなおそうとするシステムのこと。

(SA) 「社員の使い込みをやった」とかで一旦風評が悪くなると、その会社は数年間ダメになる。普通ベンチャー起業はこういうことへの対策システムをもたないため、危機に対処できない。大森氏はそのような事態への対策を社内にシステム化した。

(SA) 当時のソフトバンクは数十億円ぐらいしか売上のない中小企業。なぜ大森氏ほどの人材が入社したのか?
(DA) 孫正義氏の人望に惹かれて。
(PI) 孫正義氏が言った夢に惹かれたため。さらにこの熱意に惹かれたため。
(SA) もし、孫氏の熱意に大森氏が惹かれたのなら、逆になぜ他の人は皆ソフトバンクに入らなかったのか?

聴衆:答えなし。。。

(SA) 大森氏人に惚れ込みやすいタイプだ。しかし、結局は孫正義氏と大森氏は喧嘩別れとなってしまった。これは本質的に性格が合わなかったため。別れた後も、大森氏はソフトバンクの株をかなり持っていた。数年後に、10億円で孫氏に引き取らせている、書いている本もある。しかし、本というのは裏でどのような取引があったのかについては、必ずしも全ては書いていない。本に全てのことが書かれていると思ってはいけない。

(DA) 現在ソフトバンクでは、子会社化した会社の人間も入れているの。また従業員の80%は非日本人。

(SA) ところで、笹川良一という人がいるが、どういう人?
聴衆(A)日本財団を始めた人。日本を発展させるために様々な活動、資金援助をした。右翼。第二次世界大戦時、自家用飛行機を自分で操縦してわざわざイタリアまで行って、ムッソリーニに会っている。

(SA) 株で大儲けし、日本で社会事業を行った。戦後、A級戦犯容疑者として巣鴨に入った。これは、東条英機に「天皇に迷惑をかける発言をするな、お前はもう死ぬんだから」と諭すためだったと本人が述べている。三年後、釈放された。獄中で経験したことを巣鴨日記という本を書いて出版した。実際に読むと、ホラみたいなことばかり書いてあったが、よく調べてみると、本当にそんなことばかりやっている。

(SA) 人間は風評で感じる人柄と本当に会った時の人柄がちがうものだ。振り込め詐欺というのも、他人事としてみると、どうしてそんなバカな話を信じてしまうのか、と不思議に思うものだが、実際に詐欺の名人にかかると、つい話を信じてしまう。これは実際の話しぶりというのは、文字などでは伝わらないということを如実に証明している、と言える。人の伝記を読むことも大切だが、当人にあってその風貌やものの言い方、物腰などを実際に体験することも非常に重要である。
コメント (1)
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