@ビジネス社会でもよくある「上司に恵まれない」人事。部下として上司に恵まれないことは往往にして苦労も多いが、悲惨である。この小説は戦国時代に突入し始める関東管領を夢見た長尾景春の生き様である。「恵まれない当主」、それも自分より年下。徐々に左遷され、最後には領土から追い出される。「私怨」を持った武士の行動はいつも「敗退」、だが敗退から学び再び立ち上がる勇気と行動は凄まじい。それは「生き地獄」から這い上がり、正に当主への「私怨」を残し唯一の目標であったことである。人は目標・目的が明確であればある程、側から見てその人の生き方、生き様が素晴らしく見えるのはどうしてだろうか。この長尾景春は失敗(敗退)を糧に多くを次に活かせる技を持った武将で、人を魅了するものを多く持っていたと思う。人間的魅力はやはりその人の好奇心とその行動につながるのだろうか。(徒花に実は生らぬ)
『叛鬼』伊東潤
- 誰よりも早く下剋上を成し遂げた男、長尾景春。腹悪しき主君・上杉顕定に叛旗を翻し、戦乱の幕は切って落とされた。対するは、かつて兄と慕った巨人・太田道灌。さらには、駿河で勃興する新世代の雄・北条早雲も動き出す。叛乱に次ぐ叛乱は、新たな時代の創造者たちを呼び覚ましていく。――関東戦国時代はここより始まる。
- 「長尾景春」関東管領・山内上杉家の家宰、白井長尾家当主
- 「上杉顕定」越後上杉家から迎えられ関東管領に就任。山内上杉家当主。景春を目の敵にする
- 「長尾忠景」景春の叔父で惣社長尾家当主。
- 「太田道灌」扇谷上杉家家宰。文武両道に長けた勇将で、かつて共に学んだ景春から兄と慕われるが、景春の叛乱鎮圧に乗りだす。
- 「伊勢宗瑞」謎の僧、早雲庵宗瑞。窮地に落ちた景春を助け、のちに北条家の始祖となる。
- 景春の父景信を継いで誰もが次の関東管領は景春だと思ったが、上杉顕定が関東管領に任命されると二人の仲が複雑化、いつの間にか敵対視するようになる。父の弟修理亮忠景が顕定と結託し景春を行き場のない立場に追い込む。今まだ敵であった公方陣営に景春は身を寄せるようになり、先祖代々の土地と領民を手放し敵対視することになる。それは顕定の景春に対しての憎悪であった。景春にとって「私怨」を残した。景春はその後過去の仲間、叔父等と何度となく戦いを繰り返すがどれも敗退し、生き延びた。だが遂に兄として慕っていた太田道灌とも戦いをすることになる。下克上(これからは国主や民の禄と寿を守ることができる者が指導者となり皆の納得する政治を行う)を克服する行動に出る。道灌との戦いは常に敗退し、多くの犠牲を伴った。その時出会ったのが伊勢宗瑞で京都に出ることで幕府から公方様の関東の都鄙和睦を言い渡され一躍公方の立役者となる。だが、顕定は不満を持ち戦いを挑み、同盟国である勢いある道灌を殺害、その殺害した邪魔者定正を殺害すると言う仲間内の下克上へと展開、さらに景春との戦いではその先手が景春の長男影英であった。景春は、「我らは何のために戦いに明け暮れしておるのだ。そうまでして我ら武家は何を得たいと言うのだ」。「元領土の上州、道灌を殺した武州も許せない」と嘆くが、景明は父を殺さず今度こそ関東の騒乱は止むと思い公方様に着く。長男は父を助け顕定との戦いに挑み、味方が顕定を討伐、69歳になった初めての大勝利をもたらした。享年72歳で亡くなった景春は「これだけ負けた武将は他にはいない、敗戦から学び、幾度も再起し遂に最後の勝利を手にした」のである。
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