散歩絵 : spazierbilder

記憶箱の中身

ヘスぺリス達の林檎

2005-07-11 04:32:50 | 自然観察
ヘラクレスはある時懲罰として12の難題を受け、その中の一つは”ヘスペリス達の黄金の林檎”を盗みエウリティウスに届ける罰だった。
この林檎の木はゼウスとヘラの婚姻の祝いにガイアが送ったもので、歌好きなニンフ”ヘスペリス”たちによって見張られ、百頭の龍ラドンによって守られていたにもかかわらず、ヘラクレスは金の林檎を手に入れる。それ以降のエピソードは2つのバージョンがあるのでここでは割愛する。

ニンフ達とモンスターに守られた金色の林檎の図は中々魅力的だ。
林檎と言う果物は色々な話に出てくるので面白い小道具だ。

ところで金の林檎。

去年の夏オランダ国境近くに住む知人の家に夏の夕暮れを楽しむために出かけた。
彼らの庭には数本の果樹が植えられている。その中の一本には黄色と言うよりクリーム色に近い輝くような林檎がたわわに実っていて、思わず私はヘスペリスたちの林檎を連想した。
皮はとても薄く実も柔らかく、日持ちがしないので、収穫してもすぐに使わない限り傷んでしまうと言う事だった。落ちている実を拾い上げて指に力を込めると指が果肉に食い込んで崩れてしまうが、食べてみると思いのほかさわやかな薄い甘みの美味しい林檎だった。
夏の夕暮れ時の魔法も加味されていたのかもしれない。
木の下に立つとよい香がする。
見上げているとふと妙なものが目に止まった。
それに気がついた知人がやってきて”ねっ、面白いよね、これ。これは蜂の巣なのよ。”という。

林檎の実にまずまあるい穴を開けて少しずつ果肉を掘り出して中をすっかり空にする。
彼らが果肉も食料としながら掘り進んだのかどうかは知らないが、上手く皮だけを残して彼らの作った蜜蝋で強化している。
良く見るとまだ一家お住まいの家もぶる下がっていて覗くとブンブン騒がしい。
蜂の”巣”と言うより”家”といった方が相応しい。
私はこんな”蜂の家”を始めて見たので驚きもし、感心もした。他の林檎の木では見た事が無いので、このクリーム色に輝く林檎は特に具合の良い素材であるのに違いない。
他の林檎の果肉は固そうだからこんな家を掘るのは大変な作業になるだろう。
紫檀を掘るかバルサを掘るかの差がありそうだ。
かなりの勢いで掘りまくるのだろうか、腐ったりせずに紙風船のようにからからで蜜蝋の匂いがするだけだ。
私はその小さい妖精のランプのような風船をガラス壜の中に入れてもらい大事に持ち帰った。
一年経った今でもまだ甘酸っぱい匂いと蜜蝋に匂いが残っている。
今年も多分蜂の家が木にブンブンと実っている事だろうから、そのうちに又見物に行って見たいと思っている。