世の中には「関心のある人にはとても関心のある話だが、関心のない人には全く興味がわかない」というトピックがある。このブログのタイトル「相続税評価における鑑定評価の使い方」などというトピックはその最たるものだろう。
関心のある人は限られている。先祖代々の大きな土地を相続して相続税の支払いに頭を悩ませている人かそのような土地を相続しそうになっている人、あるいは税理士さんなどでそのような相談客を抱えている人だけである。大きな土地に縁のない一般の人には全く興味がわかない話である。
大きな土地の相続に縁のない私にも興味のわかない話なのだが、昨夜偶々私が専務理事を務めている相続学会のセミナーでこの話題がでた。講師は㈱東京アプレイザルの芳賀社長。不動産鑑定士である芳賀さんの話は声が大きく歯切れが良くて分りやすかった。
話のポイントは次のとおりだ。
・相続税の申告時の、土地評価額は路線価を基準とすることを原則としている。
・ただし路線価をベースに算定した価格が適正な時価を大幅に上回る場合は、不動産鑑定評価による価格でもかまわない。
一例をあげると間口が2m以下(車1台通れない広さ)の土地の場合、道路位置指定が取れないから建物を建てることができない(古い建物を建てなおすことができない)ので「時価は通常の土地に較べて大幅に低い」。路線価評価方式で評価額を計算すると1億円で、不動産鑑定評価で計算すると5千万円というケースもある。税額にすると数千万円の差がでる可能性がある。
これは一例であり、別荘地やリゾートマンション、面積が大きい土地(500㎡以上)なども路線価と鑑定評価額の間に大きな乖離がある場合が多いという話だった。
この話は関係のある人には即効性のありそうな話だが多くの人には関心もなければ効果もない話だろう。
それではここまでブログを読んで頂いた方(いらっしゃればだが)に恐縮なので、より一般的な話をして締めくくりたい。
昨日芳賀さんが配られたレジメの中に次のようなことが書いてあった。「今まで士業(弁護士、税理士など)の人は圧倒的な情報量と知識の差を利用した格差で仕事をしてきた。しかし情報劣位者(この場合は一般人)は、極端な場合、最適戦略として取引そのものに手を出さないという行動をとることが考えられる。士業の人も専門分野について日頃から丁寧に解説・説明する必要がある。」
☆ ☆ ☆
少し観点は違うは私も士業の人は専門性にあぐらをかいている時代は終わったと思っている。
弁護士さんや税理士さん、司法書士さんなど士業の人のビジネスチャンスはある面では減っている、と思う。一例をあげると昔は不動産抵当権の抹消登記(たとえば住宅ローン完済による銀行抵当権の抹消登記)などは司法書士に依頼していた。ところが今ではホームページに抹消申請のひな形があり、法務局にいくと相談窓口で細かいところまで指導してくれるので、誰でも自分で手続きすることが可能になった。このように比較的単純な事務処理は、どんどんコモディティになっていくのである(大昔は自動車免許の申請も行政書士が代行していたことがあったようだ)
だから士業の人は事務手続面のサービス提供だけでは顧客を獲得することができなくなってきた(確定申告もネットで行うと簡単になった)。何が必要か、というと「付加価値」である。例えば「税」という税理士の専門分野と「不動産鑑定」という鑑定士の専門分野を両睨みすることでクライアントに「過大な納税を防ぐ」という付加価値を提供することができる専門家が生き残ることができるという時代になったということだ。別の言い方をすると「専門家も一つの専門程度では飯が食えない時代になった」ということである。