畏友という言葉がある。尊敬するべき友達という意味だ。私は人生で畏友を持つことができるかどうかが前向きな人生を送ることができるかどうかの分かれ道だと思っている。孔子は論語・学而第一の中で「己に如かざる者を友とすることなかれ」と説いた。対偶をとれば己に優るものを友達としなさい、ということである。しかし己に劣るものを友とすると人は優越感を持つことができるので、往々にしてそのような過ちを犯すことがあるのではないだろうか?
前置きが長くなったが、私にとって山登りの畏友というべき勝っちゃんと昨日今日(4月8日、9日)と八方尾根から唐松岳にスキー登山に行ってきた。勝っちゃんは畏友なのだけど大学山岳部の4,5年後輩なので勝っちゃんと気安く呼ぶことにする。自宅が吉祥寺と近く、かつカレー屋のオーナーで比較的自由な時間を作ることができるので、山スキーに誘った次第。というか今となっては勝っちゃん以外に私の山スキー友達はいなくなった、というのが実情だろう。山スキーは一人で行っても楽しいし、実際時々1人で行くこともある。だが白馬山麓まででかけるとなるとリスクヘッジの観点だけでなくコスト分担の面からも相棒が欲しくなる。経験・技術・装備の面で誘うことができる山スキーヤーは勝っちゃんを置いてはいない。
さて4月8日11時過ぎに八方尾根下ゴンドラ乗り場に勝っちゃん運転の車で到着したが、何と強風でゴンドラは運行停止。運行目処が立たず(結局この日は運行なし)ということで、予定のリフト山頂駅終点・八方池山荘には行くことができず、キャンセル。民宿探しで思い出したのが、今年2月の八方尾根スキー合宿で泊まった和田の森のニポポ。http://www.nipopo.net/Home.html
電話をかけたら「空いています」ということなのでこの日はニポポ泊り。ニポポはアイヌ語で「小さな木の子ども」という意味があるそうだが、中々素敵なペンションである。
さてあけて4月9日(火曜日)風はおさまりゴンドラは動いたが、予定の8時より20分遅れて運行開始。またその上のリフトもゲレンデ点検のため運行開始が相当遅れた。手持ち無沙汰なのでリフト待ちの時間を利用してパノラマゲレンデで一本足慣らしをした。
ようやくリフトが動き出し、9時30分八方池山荘入り口 登山開始 平日だけれど10名以上の登山者、山スキーヤーたちが八方尾根を登りはじめた。登り始めて約1時間、八方池上の稜線から見た八方尾根。正面に見えるのは丸山だ。
下の樺、上の樺と名前のつけられた急斜面を登っていく。歩くペースは夏山登山並のペースでそれ程遅くはないと思うのだが、途中でトップを譲った勝っちゃんは遥かに早いペースでスタスタと登っていく。彼は現役のマラソンランナーでかつ2週間後には富士五湖で100kmを走るという猛者だ。
12時10分丸山ケルン到着標高2438m。白馬三山が間近に見える絶好のビューポイントだ。
だが風が強くなってきた。東に目を向けると綺麗なレンズ雲が見えた。レンズ雲の真下は妙高山でその右が高妻山、妙高の左は火打山だ。レンズ雲は多くの場合の強風の予兆だ。
出発しようとして、スキーを担ぐためにザックのサイドに取り付けたスキーが風に煽られてフラフラした。勝っちゃんもよろめいている。これ以上登っても強風で危険と判断して丸山ケルンからスキー滑走を楽しむことにした。実のところ丸山ケルン付近で登頂を見送る人もいたが、強風の中を更に上に向かっている登山者もいた。勝っちゃんと私というカラコルム遠征経験者が、4月の風で登山を止める、というのも軟弱な感じはしないではないが、今日の私は体調不十分(昨夜腹部膨満感を覚え胃が落ち着かなかった)なので否やはなしである。
12時32分滑降開始。丸山ケルンからは写真の大斜面を滑っていった。豪快な斜面だけれど、先週末の雨で雪質は余り良くない。カリカリの斜面が交差するので、スキーの取り回しには気を使った。
八方尾根そのものは余り広くなくまた稜線部分は雪が出ているところが多いので、上から見て右側の沢(大黒沢)の源頭部をトラバース気味に滑った。ここは夏道も尾根の南側に付いており、夏道側が滑降ルートとなっている。
13時22分八方池山荘到着。スキーの機動力はすごい。2時間半かけて登った道を50分で降ってきた(結構スキーを外して担ぐところがあった)。なおこの時期の八方尾根はスキーを脱いで砂地や石ころのでた尾根を歩くこともあるので、スキーの機動力をフル活用することはできないところがあることにご注意ください。
13時38分ゴンドラ乗り場到着。この時期八方尾根スキー場の下部は雪が解けているので、下りはゴンドラ利用となる。八方池山荘からゴンドラ乗り場(兎平)までは一滑りのはずだが、コブコブの斜面の連続で疲れた体にはキツく休み休みの滑りとなった。
地図の青い線が登りルートで、赤い線が下りルートである。
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山スキーシーズンに八方尾根から唐松岳を登り、スキーの機動力を活かして一気に下るというのは長年の夢だったけれど、実際に行ってみると幾つかのことが明らかになった。
・4月上旬では八方尾根稜線上およびスキー場下部の雪が解けている可能性がある。
・春先は強風でゴンドラが動かなかったり、稜線上の行動に危険を感じる時がある
・4月10日前の気温は高く、薄手のアウター(雨具)や薄手のフリースの手袋1枚で充分
・今回我々はシールを使わず、ツボ足とアイゼンで登った。シール登山をするのであれば、八方尾根の場合、スキー用アイゼンは必要だ。
・スキー滑降についていうと、上部の山スキーより下部(第三クワドロリフト下)のコブコブゲレンデの方が疲れた。担いでいる荷物と蓄積した負担が重荷になった。コブの斜面では畏友の勝っちゃんも多少は苦戦していたようだ。
短かったけれど充実しそして疲れたスキー登山だった。時には強靭な体力の持ち主と一緒に山に登り、世の中にはすごい人がいるなぁと実感することは良いことである。自分より弱いものを集めて自己満足に陥るようでは、人は終わりなのである。それを夜郎自大と中国人は名付けた。