金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

なぜ米国人は国民皆保険法で割れるのだろう

2012年03月05日 | 健康・病気

米国の大統領選が視野の中に入ってきた。目下のところ国民の最大の関心事は、経済全般と雇用の問題で、健康保険に関する関心はそれ程高くはない。しかし健康保険法に関する意見は真っ二つに分かれている。

2月末のギャラップ調査を見ると「共和党から大統領が選ばれた場合、同法案の廃止を支持するかどうか?」という質問に対し、全国民の47%が廃案を支持し、44%が廃案に反対している。共和党の87%は廃案支持で、民主党の78%は廃案反対である。

次に米国人は国民皆保険法が完全に実施されたら(現在のところ極一部の法律が効力を発効した過ぎない)彼等の家族にどのような影響が予想されるか?という質問に対しては、24%の人が「良くなる」と答え38%の人が「悪くなる」と答え、34%の人は変わりはないと予想している。法案を支持する民主党員でも良くなると答えた人は40%で、43%の人は変わりなしと答え、12%の人は悪くなると答えている。

米国人の半分が、皆保険の導入に反対することの説明として「金持ちが保険に入れない人のために負担を増やすのを嫌がっている」というような説明があるが、米国人の半分が金持ちという訳ではないから、この説明は余り良い説明ではないだろう。

むしろ私は米国民は、今後の深刻な医師不足を予想していて、国民皆保険が国民の受療率を押し上げ、全体として医療サービスが低下することを懸念している部分が大きいと考えている。

「日本については皆保険の結果、誰でも安いコストで均一の医療サービスが受けられる」というのが一般の理解だが、最近の私の入院経験を踏まえると若干のコメントを加えたくなる。

まず私が入院した地元の前頭クラスの「総合病院」では、医師の数が決定的に不足している。担当医の先生は朝早くから、入院患者の世話と外来患者の検診に追いまくられ、お気の毒である。また外来患者はほぼ半日かけて、通院し受療する。この患者が耐えている時間を合計すると膨大なコストになると思うのだが・・・・(もっとも高齢者の人が多く、機会コストは小さいかもしれないが)。

このまま日本も高齢化が更に進むと、医療問題は深刻化するだろう。米国人の半分が何故国民皆保険に反対するのか?ということを一度考えるのも悪くはないかもしれないと思った次第だ。今回はほとんど自分の考察を加えていないが、その内もう少し考え方をまとめてみたいと思う。

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【書評】成熟社会の経済学~共感できる本です

2012年03月05日 | 本と雑誌

「成熟社会の経済学」~長期不況をどう克服するか~(小野 善康著 岩波新書)は、簡単に読めてかつ共感できる本である。経済学の本で簡単に読めるということは、数学的な説明が少なく、直感的な説明が多いということだ。理論的な裏付けが欲しい人は巻末に紹介されている専門書を読めば良い。

「共感できる部分が多い」ということは、巷に溢れる経済学者の分かったような分からないような説明ではなく、非常にクリアカットな説明ということだ。

小野教授の論点は明快で「日本のような成熟社会に必要な知恵は、発展途上社会に必要な知恵と違うが、日本の社会はその違いに気がついていない」というものだ。

需要に生産力が追いつかない発展途上社会では、いかに倹約して資金を捻出し投資に回すかということが重要だが、生産力が過剰で需要不足に直面した成熟社会では、自分の生活を物質的にも精神的にもいかに豊かで有意義なものにするかが重要である。

成熟社会では生産能力を増やしても失業が増えるだけなので、成熟社会では「自分の国の人々が喜ぶ物やサービスを考え見つけ出す能力、内需を作り出す能力が必要だ、と小野教授は述べる。

話は変わるが、昨日テレビを観ていたら長崎県のハウステンボスが、上海から長崎までのクルーズ船を仕立てて、中国人観光客を誘致するとともに、船の中で日本製の家電製品等を販売していた。これなど成熟社会において需要を生み出す一例だろう。また高齢化社会は「高齢者にはお金を配るのではなく、物やサービスを配るべきだ」という主張も共感できる。

小野教授は後書きの中で「そもそも無駄っていったい何でしょうか。お金を握りしめ、欲しい物も買わずに我慢し、その結果、仕事が減って若者も就職に困り、働き盛りの人たちも肩をたたきあい、働きたい人が働けないでいる。これこそが無駄ではないでしょうか?」と述べる。

この主張に私は全面的に共感する。「お金の呪縛から解放され、私たちが生活を楽しむことに知恵を絞ればいい」という主張のとおりでる。

だが、これは簡単そうに見えて簡単ではない。我々の体の中には長い人類の飢餓に対する経験から、飽食の時代にもエネルギーを貯えようとする因子があり肥満を招くように、長い発展途上社会の経験から、成熟社会になっても「生活を楽しむこと」に抵抗感があるからだ。

成熟社会の経済学が機能するには、人生観の転換が先行する必要があるだろう。

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