金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

日本よ、脳天気な国防意識を覚ませ(2)

2006年06月23日 | 国際・政治

昨日のウオール・ストリート・ジャーナル紙は米国のハドリー米大統領補佐官が「米国は長距離弾道ミサイル防御システムがあるが、実験・開発段階で能力は限定的だ」と述べたと報じた。また同補佐官はウイリアム・ペリー前国防長官がワシントンポスト紙に北朝鮮がミサイル発射準備を行なった段階で先制攻撃Pre-emptive strikeをかけるべきであるという意見を退けた。

北朝鮮のミサイル発射準備問題発生以降、少しアメリカのミサイル防衛体制などを調べてみたが、まず情報公開のオープンさに感心した。アメリカのミサイル防衛は「ミサイル防衛庁」Ballistic Missile Defence Agencyが担当している。同庁のホームページはhttp://www.mda.mil/mdalink/html/mdalink.htmlだが一般の読者に分かり易く防衛システムを解説している。予算についても明快だ。それによれば1985年からの予算推移が示されており、2006年の予算は78億ドルである。

最新のニュースもある。例えばハワイ沖で最終段階の弾道ミサイルの迎撃テストに成功したという話だ。実に詳しく国防の問題が国民に開示されている(もちろん軍事機密は厳重に守られているだろうが)

ところでハドリー補佐官が「米国の長距離ミサイル防御能力は限定的だ」といった背景を考えると中々面白い。とっさに思い出す言葉は孫子の「兵は詭道なり。故に能なるもこれに不能を示し、用なるもこれに不用を示す」という一節だ。つまり自軍にある作戦遂行能力があってもないかの如く見せるというものだ。もっとも実際のところ米国のミサイル防衛システムは完璧ではないがそれなりの防衛能力があるだろう。一番勘ぐったことを言えば、北朝鮮にミサイルテストを敢えて実施させるため「不能を示した」ということになる。

ミサイルが発射された場合、どのシナリオをとってもアメリカは有利になる。まず米国の弾道ミサイル防衛システムが迎撃できた場合だが、北朝鮮はミサイルを梃子にした「脅かし外交」を行なうことができなくなる。加えて北朝鮮のミサイルの評価は下落し、貴重な輸出財を失うことになる。

アメリカは領土に着弾する恐れがない場合、迎撃しないという選択肢がある。これはアメリカに取って、短期的にはやや不利な状況を招くかもしれない。しかしこの場合は経済面の制裁が高まるので、長い眼では北朝鮮が不利になるだろう。

可能性は極めて低いが、ミサイルが防衛網を抜けて米国領土に着弾することが考えられる。この場合アメリカは直ちに北朝鮮に対して報復攻撃に出て、軍事施設に壊滅的打撃を与えるだろう。この場合、北朝鮮の金政権は一気に崩壊するので、通常北朝鮮はこのシナリオを取らないだろうが。

今述べた様な意図がないにしろ、「防衛能力に限界がある」というトークはミサイル国防予算拡大につながるものだろう。あるいは表面上はペリー前国防長官の強行意見を退けたけれども、強行意見が出ることを期待していたのかもしれない。

いずれにせよ、国防問題というのは正しい情報を国民に伝え国民の意識を変えることから始めなければならないが、それと同時に(仮想)敵国との駆け引きが絡むものなのだ。この観点から日本の防衛庁や海上自衛隊のホームーページを見ると国防上知りたい情報が殆ど伝わってこないし、まして駆け引きのあやもない。日本は5兆円もの国防予算を使っているが、その防衛力としての有効性や限界を説明する国民に義務があるのではないだろうか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする