金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

「マオ 誰も知らなかった毛沢東」を読んで

2006年06月09日 | 国際・政治

ワイルド・スワンの著者ユン・チアンが書いた「マオ 誰も知らなかった毛沢東」を3週間がかりで漸く読み終えた。これは誠に重い本だ。内容は当然だが本自体も重い。上下各500頁を超えるハードカバーなので、布団の中で読む時は本当に腕が疲れてしまった。

マオ」は訳者土屋 京子氏が言うように「とにかくショッキングな本」である。私は学生時代毛沢東の詩集を読んだことがあり、毛沢東の中にある種の哲学者的高潔さを感じていたことがあった。しかしこの本はそのような毛沢東のイメージを根底から覆すものだった。

マオ」の中で毛沢東とは何か?を端的に語っている部分がある。それは下巻92頁だ。「毛沢東は子孫を残すことに興味がなかった。・・・・大多数の中国人、とくに中国の歴代皇帝とちがって、毛沢東は跡継ぎをもうけることに無関心であった。・・・この後(朝鮮戦争が終結した後)数十年にわたり、生きているうちに軍事超大国の支配者になりたいという毛沢東の一念が、中国人民の運命を左右する唯一最大の要因となった」 

ではその野望はどうなったのか?筆者は最晩年の毛沢東をこのように描く。「世界的野望が達成できなかったことを痛切に悔しがる一方で、毛沢東は、自分の無謀な欲望追及が中国人民に多大な人的・物的損害をもたらしたことにはいっさい無関心だった。・・・他人には憐憫のかけらも示さなかった毛沢東の最後の日々を埋めたのは、若い頃から相も変らぬ自己憐憫の感情だった

毛沢東はソ連から原爆や戦闘機等の武器を買うために、中国農民から食糧を取り上げそれを輸出したのである。このために数千万人の農民が餓死した。つまり軍事超大国になるという毛沢東の欲望のために、全日本人の半数以上の人民が餓死したのである。

著者は480名に登る人とインタービューを行って新しい事実を発掘していった。まことに労作である。この本は現代中国史のみならず、日本を含む東アジアの現代史を書き直す貴重な材料を提供する。何度も読み返したい本である。「どうして最後の最後まで毛沢東という暴君を誰も倒すことが出来なかったのか?」という疑問を持ちながら。それにしても拷問の記述などを見ると中国人の中には凄まじく残忍な人間がいるなぁという感想を持つ。殺人の数などを見ても余りに数が多くて、実感が湧かない位だ。とにかく凄まじい衝撃を受ける本である。

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日本株安の原因を求めて(1)

2006年06月09日 | 株式

6月に入っても日本株安が中々止まらない。経済紙も「景気が良いのにどうして株安なのか?」などと原因探しをしている。エコノミスト誌も「エマージング国の経済は株よりも良い姿だ」Emerging economies are in better shape than their stockmarketsという記事で新興市場国の株価問題に焦点をあてている。ポイントは次のとおりだ。

  • 2005年に外国勢はエマージング国の株式投資をネットベースで614億ドル増加させた。これとは別に直接投資が2,375億ドルある。昨年末にエマージング諸国の総ての証券取引所の時価は3年前の3倍の4.4兆ドルに達した。(3年前は1.7兆ドル)
  • しかしこの5月の第2週からMSCIのドルベースで見て、エマージング諸国の株価は16%下落している。トルコでは株価は約3分の1、ブラジルやインドでは5分の1下落している。今年の最初の4ヶ月で昨年全体よりも流入が多かった投資信託経由の資金は、5月24日の週に50億ドル引き上げられている。
  • イスタンブール証券取引所のドラマは過熱した経済を反映している。トルコはGDPの6.3%に相当する経常赤字を穴埋めするため海外資金を必要としている。物価は5月までの1年間で9.9%上昇し、トルコリラはドルに対して中央銀行が緊急会議を開いた6月6日までの1ヶ月間で16%下落した。その緊急会議で金利は1.75%引き上げられた。
  • しかしどこにおいても、株式市場の下落の前兆になる様なものを見つけることは困難である。エマージング市場におけるインフレは平均して5%以下と相対的に弱く、成長は強い。政府には支払能力があり、債権者達は低いリスクプレミアムで満足している。また投資需要について外資に依存している国は多くない。恐らくエマージング経済に対する不信よりも、過度に株式市場が市場そのものに不信感を抱いたのであろう。
  • 一見したところ株式は発展途上経済が海外で資金調達する時最も自然な方法である。株式を発行することで企業は返済義務のない資金を海外から調達することができる。返済義務がないので、株式にはローンや社債のようなデフォルトはないが、外国人投資家が自信をなくした場合株価が下落することになる。実際、もし驚きやすい外国勢が国内の買手を見つけることができなければ、資金は海外に持ち出されることなく「コレクション」(株価の下落調整)が起きうる。
  • エマージング経済は、対内直接投資やプライベートエクイティを通じて資金調達を行なっているが、一方株式投資を行なうポートフォリオ投資も増えている。ところがポートフォリオ投資を行なうものは、余りに多くの資金と余り僅かの現地に関する知識しか持っていない。
  • また多くのエマージング経済では、インサイダー取引から少数投資家を守る法的防御はほとんどない。しかし改善は進んでいる。7月28日にはメキシコで新しい証券取引法が効力を発する予定である。インドの株式市場は「スネーク・ピット」(大混乱状態)と表現されてきたが、近年証券取引委員会が積極的になってきたので、有害度合いは減ってきた。

以下記事はまだ少し続くのであるが、ポイントをまとめておくと「エマージング市場の実態経済はしっかりしているが、海外からの株式投資という逃げ足の速い資金が何らかの懸念を感じ株を売りに回った。しかし国内市場に十分な買い手がいないので株価が急落した」といったところだろう。エマージング市場の株式相場急落がトリガーになり、日本株も急落しているが、売り手に対し十分な買い手がいないというところは日本株市場も似たり寄ったりである。株式相場が安定するには、国内にしっかりした機関投資家を育てるしかないのだろう。そのためには個人の長期的な資産形成をサポートするしっかりした株式投資信託を育成する必要があるということだ。

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