金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

インド、貧困脱出の条件

2006年06月05日 | 国際・政治

アクセス記録などを見ていると、定期的に私のブログを読んでくれている人がいることが分かる。これは嬉しいことだが、同時に何か書かないといけないというプレッシャーも感じることがある。週末に山等に行くと話題になるのだが、ここ3週間の週末はゴルフに行っていた。下手なゴルフの話を書いても面白くもないから金融の話をしてみよう。

今ホットトピックは、村上ファンドの村上 世彰氏が証券取引法違反の容疑で逮捕されるという話題だ。しかし、株式市場に与える影響は限定的だと思うので、この話はとりあえず横においておこう。現在日本の株式市場はさえないが、その原因の一つが5月中旬のインド株式市場の急落である。インドをどう見るか?という問題は、一個人投資家として、またアジアの一員として関心の高いところであるが、たまたま直近のエコノミスト誌がインドの貧困脱出の条件をまとめているので、ポイントを見てみる。インドに投資するにしろ、しないにしろチェックしておきたいポイントだ。

  • インド最大の人材派遣会社ティームリース社の社長によれば「2006年にインドは10年に一度どころか百年に一度でもない生涯最大のチャンスをインドは享受している」と言う。
  • 長年インドは社会主義の計画経済の最悪の部分と民間の競争の最も低い生産性の混合に苦しんできた。しかしインドのITパワーハウス・インフォシスのNilekani社長は「インドは有望で潜在性のある国と思われてきたが、それが実現されたことはなかった。」「しかし今や長年の懐疑主義は変わりつつある。小さな国が向きを変え始めたのだ。」

ここでちょっと雑談。英語の原文に関するものだが、The worm has turnedという一文だ。これを「小さな国が向きを変え始めたのだ」と訳したが、これは英語の格言を下敷きにしている。「一寸の虫にも五分の魂」という格言は英語ではEven a worm will turnという。この場合のturnは敵対するという意味で使われている。一方エコノミスト誌の原文のturnは「敵対する」というよりも「向きを変える」という方が妥当だろう。しかし一種の掛詞になっている様だ。このあたりがエコノミスト誌の難解なところであり、また面白いところである。

いや脇道にそれた。エコノミスト誌のポイントに戻る。

  • ビジネスの面でインドは15年前の中国であ。国際的な大企業はインド戦略なしでは成り立たない。インドではITやサービス業が有名であるが、工業部門でも幾つかの企業は世界的になっている。このうきうきしたムードは、株式市場に反映されていた~5月の株式大幅下落までは。4月までの3年間ではインドは総てのエマージング市場指数を45%アウトパフォームしてきた。このパフォーマンスは一部はインド企業の成功に起因するが、大きな理由は投資家が利益に較べて株を買い進んだことにある。目覚しい相場の上昇は、グローバルな市場のムードの変化に対してインド市場を傷つき易くしている。

つまりインドという小さな市場に大量の資金が流入し、株価が異常に高くなっていたということだ。株だけでなく、経済も過熱している様だ。

  • 航空便はフルに予約され、ホテルの宿泊料は破壊的に高騰している。米国国務省の出張手当は、バンガロールでは一泊299ドルに達している。
  • 国際的にもインドは上機嫌である。米国のブッシュ大統領は、米国の主要な外交政策の目標であるインドとの関係改善を行ないつつある。ブッシュ大統領は3月に米国がインドの核開発プログラムを支援するという議論の多い取引に同意した。
  • 現在のインドの株式や不動産市場が過熱しているし、ビジネス面の楽観主義も大分部はまだ正しいといえないが、次の10年間で国内市場とインドが世界経済に占める割合は急速に成長するだろう。

問題はどれ程の速度でインドが成長するかということだ。ここで少し前に自分のブログ記事「中国とインド」を読み返してみた。その時は2003年のデータを使ったが、エコノミスト誌に載っている2005年のデータと見比べると僅か2年の間にも大きな変化が出ている。経済成長率は03年の5.8%から7.7%に上昇し、外貨準備高も1,023億ドルから1,536億ドルに拡大している。

  • より高い経済成長率が極めて重要だ。しかしインドは次の5年間で労働力市場に参入する7千万人の若年層のために仕事を見つけることができるか?1日1ドル以下で生活する2億6千万人以下の人々を貧困から抜け出させることができるか?ビジネス上の成功を地方に住む7割の人と共有することができるか?といった疑問が出る。
  • この調査はインドのビジネスは政府の支援がある限りにおいて成長のために大きな役割を演じると主張する。過去15年の成功は易しい部分だった。今後インドが発展するために必要なことは次の4つである。「一層の自由化」インドの市場を一層競争的にし、政府の役割を減少させることである。「インフラの改善」成長競争の最大のボトルネックになっているのがひどい状態のインフラである。「労働法の改正」労働法が労働集約的工業の大きな障害になっている。最後が「教育」である。
  • 外貨準備危機が発生した1991年と違い変化を促進するような危機は存在しない。従って既得権益を乗り越えるハードルが高いので改革を行なうことがより困難になっている。しかし改革が行なわれなければ、衣料品、食品等の作り、働き場所を創設する工場を作り出すことはできないだろう。

私は幾つかの理由から親インド派だが、理由の一つはインドが仏教の発生の地だからだ。私自身は日本で生まれた特定の宗派に帰依していないが、真の意味では仏教徒である。これまた余談になるが、釈尊が教えた仏教とは一種の哲学であり、自分で考えることが出発点である。それは釈尊入滅前に弟子が釈尊に「今後どうすれば良いか?」と訊ねた時の答に表れている。

それは自灯明法灯明という言葉であった。つまり自ら考え自らの灯りで行く道を照らせそしてそれで分からないことがあれば法=真理の灯りで行く道を照らせというのである。つまり仏教徒とは、自らの人生の行く手を自分で考えて歩む人間のことなのである。

今のインドは仏教国ではないが、自ら考えるというか論理性はたっぷり残っている。それがIT産業の土壌になっているのだ。そして中国とは違い民主主義が根付いている。国民の合意を形成しないと、制度改革は難しい。従って成長速度は共産党独裁の中国とは異なるのだ。その辺りをよく理解しないとインドへの投資の時間軸を間違う可能性が高い。外国に投資するということは簡単だが、リターンをあげることは簡単ではないのだ。それは全人的な判断力を要する作業なのである。

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