
「クライマーズ・ハイ」 横山秀夫著 (文春文庫) 定価:629円
【この本を読んだ理由】
横山秀夫のファンの一人として、映画にまでなったこの作品(映画は観ていないが)をいつか読みたいと思っていた。
【読後感】
横山秀夫の警察ものは何冊か読んだが、これは新聞社の記者が主人公で、20数年前のあの大事故“日航ジャンボ機が御巣鷹山に墜落した大惨事”での地方新聞社の記者の奮闘と葛藤を扱ったものである。
後で知ったのだが、著者はこの当時、地元群馬の上毛新聞社の記者であったと紹介されていたので、その時の気持ちを主人公に託したのだろう。
事故の模様を、おそらく最も深く知り、受け止めたジャーナリストとして、著者はこの作品に渾身を込めたのだと思う。
それが伝わってくる感銘深き一冊であった。
作者は、「クライマーズ・ハイ」なる状態つまり、事故当時の主人公である記者心理とその時の緊迫感を事故から17年後に主人公が挑戦したあの谷川岳・衝立(ついたて)岩の登攀(とうはん)で表現しようとしたのだろう・・・・。
残念ながら、“谷川岳・衝立岩の登攀”の経験のない私のような読者には、そのインパクトはいまいち伝わらなかった。
医王山の鳶岩を登ったことくらいでは、とても無理なはなしである。
もう一つ、携帯電話が普及している現代に比べて、この小説の時代は、まだポケットベルが全盛であった。
緊急時における連絡手段として、このポケ・ベルに非常にまだるっこさを感じたのも実感であり、文明の進歩の速さに改めて驚かされた。