これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

子供の使い

2009年03月15日 21時04分59秒 | エッセイ
 先日、同僚からバレンタインデーのお返しをいただいた。今年はカレンダーの都合で、13日の金曜日にやり取りするところがほとんどだと思われる。
 帰宅するなり、早速娘のミキと夫にお披露目した。
「見て見て、これはメリーのチョコレート詰め合わせよ。可愛い缶だね~」
「あとで食べたーい」
 
 

「それから、こっちはゴディバのチョコとクッキーよ」
「あ、ダークチョコレートチップスって書いてある!」



 ゴディバのチョコレートが美味しいことは重々承知しているが、クッキーは食べたことがない。ためしに1個、ミキと半分こにして食べてみた。
「うわ、何これ!! 今まで食べた中で一番美味しいよ~!」 
 ミキが感動して叫び声を上げた。
 たしかに、普通のチョコチップクッキーとはひと味もふた味も違う、気品の漂う味わいだった。サクサクのココア生地と、濃厚でビターなチョコチップの出逢いとでも言えばよいのだろうか。甘すぎず、苦すぎず、香り豊かでまろやかな口当たりなのだ。

「…………」
 さっきから、夫は一言も発しない。多分、私とミキへのお返しをまだ用意していないのだろう。去年はちゃんと準備してあったが、一昨年は見事に忘れられていた。ミキがひどくガッカリしていたことを思い出し、夫に確認する意味も込めて、いただきものを並べたというわけだ。
 これで、明日のホワイトデーは大丈夫だろう。

 今年のホワイトデーは風雨が強く、荒れた天気となった。
 夫は、その日の朝から出かける用事があり、夕方に帰ってきた。
「ミキ、おやつにしよう」
 4時すぎ、娘に声をかけお茶をいれた。夫はテレビを見ていて動く気配がない。

 あれ、おかしいな。いつもなら、ここで「お返しだよ」と出すのに……。

 おやつが終わっても、夕飯がすんでも、夫は何も行動を起こさなかった。
 たまりかねて、ミキがお風呂に入ったとき、私は単刀直入に夫に尋ねた。
「ホワイトデーのお菓子、何も用意してないの?」
「……うん、だって今日オレ車だったから、買う暇なんてなかったし……」
 呆れた。今日出かけることは、何日も前からわかっていたのだから、事前に準備しておくべきだ。忘れていたとしても、スーパーやコンビニで何か間に合わせのものを調達すべきだろう。
「あのさ、ミキは自分のおこづかいでバレンタインのチョコを買ったんだよ。お返しくらいあげないと、かわいそうじゃない」
「うん。でも、何を買えばいいかな?」
 そのとき、私の目は、「得たり」とばかりに不気味な光を放ったかもしれない。
「ゴディバよ。ゴディバのダークチョコレートチップス!」
「ゴディバ? どこで買えばいいの?」
「池袋」
「デパ地下か。わかった」
 念のために付け加えておいた。
「ベルンのミルフィーユも、ミキの好物だよ。それでもいいんだけどね」
「じゃあ、明日は電車で神谷町まで行くから、帰りに買ってくるよ」

 夫は、実用的でない買い物をすることが多い。たとえば、「牛乳がないから買ってきて。タカナシの低音殺菌牛乳がいいな」などと頼んだとしよう。夫は堂々と手ぶらで戻ってきて、「低音殺菌牛乳がなかったから、買ってこなかった」と元気に言うのだ。ないと困るから、代わりのものを買うという機転が利かない。
 また、「今日の夕食、鍋ものがいいな。遅くなるから作っておいてよ」とお願いしたとしよう。夫は冷蔵庫を確認しようとせず、白菜や長ネギ、エノキダケなどの買い置きを無視して、新たに買ってきてしまうのだ。あるものを使うという発想がない。

 まあ、ちょっと心配だけどミキのためだもん。1日遅れのホワイトデー、大丈夫よねっ。

 15日は、夕方に夫が帰ってきた。
「どう? クッキー買えた?」
 しかし、夫は首を横に振って、渋い顔をするではないか!
「ゴディバを2軒回って、店員にも聞いてみたんだけど、今はダークチョコレートチップスを製造していないんだって。売ってなかったよ」
 突き飛ばされたような、強い衝撃があった。
 でも、ないのなら仕方ない。他にも美味しいものはあるのだし。私は気を取り直した。
「……で、代わりにミルフィーユを買ってきたんでしょうね?」
「いや、何も買ってこなかったよ」
 今度は、開いた口がふさがらなかった。

 なんて、使えない男……。

 製造物責任法、いわゆるPL法を適用し、義母に損害賠償を請求したいものだ。



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コメント (17)
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