これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

別れの言葉

2011年03月24日 20時09分11秒 | エッセイ
 明日、3月25日は修了式である。
 私の学校では、この日、職場を異動する教員の離任式も、同時に行うことになっている。体育館の壇上で、生徒に向けて数分間お別れの挨拶をするのだ。これまでに3回経験したが、いつも何を話すか悩む。

 一番鮮明におぼえているのが、教員になって2年目、職場結婚のため異動したときの言葉である。当時、新規採用者は、8年まで同じ学校にいていいことになっていた。でも、私はたったの2年だったから、担任を持つこともなく、責任のある仕事を任されることもなく、学校を去るわけだ。話すことなど何も思いつかなかった。
 だからといって、あまりに短いのも手抜きのようで気が引ける。「何か中身のあることを言わなきゃ」と前日まで考えた。
 やがて、離任式が始まり、私は他の先生と一緒に壇に上っていった。全部で10人ほどだろうか。長い人だと、20年以上も同じ学校にいられた時代だから、誰もが淋しそうな顔をしている。
 特に、担任半ばで異動する破目になった、数学の男性の先生は苦しそうだ。彼のクラスの女子生徒も、声を上げて大泣きしている。それでも、数学の先生は涙をこらえ、ふりしぼるような声で別れの言葉を口にした。
 そして、いよいよ順番が回ってきたのだが……。
 校長が私の名前と、在職期間、異動先の紹介をしたとたん、生徒の反応が変わった。先ほどまで、泣きべそをかいていた子も、「誰この人」といった表情でキョトンとしている。2年しかいなかったし、生徒に係わる仕事が少なかったこともあり、私は顔が売れていないらしい。教えていた生徒はともかく、それ以外の生徒にとっては、初めて見る人だったようで、「へー、こんな先生いたんだ、さようなら」という奇妙な表情を浮かべている。
 どうにも拍子抜けする展開となったが、準備してきた話をするしかない。「振り返ってみると、誰でも、自分が少しずつ成長していることに気づくと思います」から始まり、入学当時は中学4年生という印象の生徒が、学校生活を通して、徐々に高校生らしくなってきたことがうれしい、さらに自分を伸ばしてほしいと話した。24歳の当時としては、背伸びせず、等身大で語ることができた気がする。
 式が終わって職員室に戻ると、教頭から、「さっきの話は、なかなかよかったよ」と褒められた。予期せぬ言葉に、私は照れ笑いをした。

 教員は、一般的に話が長いと言われるが、その通りである。定年退職するおじいちゃん先生など、止める人がいないものだから、10分も15分も話し続けてしまうことがある。
 逆に、話すことがないとか、考えるのが面倒くさいという先生は、本当にひとこと、「みなさん、お元気で」で終わってしまう。足して2で割ることができないのが残念だ。
 それでも、来るだけまだマシかもしれない。
 今年の同僚からは、「壇上で挨拶するのがイヤだから、私は休暇を取ります」という信じがたい言葉を聞いた。
 中には、感極まって涙を流す先生もいるので、きっとそのタイプなのだろうと無理やり思うことにした。



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コメント (18)
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