書道教本 毎月発行30年
下諏訪の書家 吉澤さん
「書道生活」を手に、書道への思いを語る吉澤さん(下諏訪町内のアトリエで) 「書道文化を未来へと継承し、情操教育に寄与を」と、下諏訪町矢木東の書家吉澤大淳(本名=清)さん(65)が30年近く月刊の教本「書道生活」を発行している。全国発送でやりくりも大変だが、書道の普及を望んだ亡き恩師の言葉を信条に続けてきた。
吉澤さんは同町に生まれ、高校卒業後、地元企業に勤めた。だが、「日本や東洋文化の背骨は漢字と書。その奥義を知りたい」と36歳で退職し、現代書壇の泰斗、成瀬映山のもとで中国の伝統書法を学んだ。
1978年に日展初入選を果たすと、94年の第11回読売書法展で読売新聞社賞を受賞。独創性を帯び始めた筆は「縦横無尽。生命の躍動を覚える」と評された。2002年、05年と日展特選に輝き、亡き映山後継の地歩を固めた。読売書法会常任理事も務める。
書以外にも、絵画制作や芸術評論を手がけ、町教育委員長などを歴任、諏訪を舞台に書風同様の活躍を見せた。
忙しくても「書道生活」発行は欠かさなかった。81年4月の創刊以来、最新の347号まで自分や映山の書、古典などの手本を掲載。大人から子供まで、自分や映山の弟子ら全国の会員に送り、返ってきた作品を選評した。
32ページの教本を毎月2000部刷り、1部500円の購読料と協賛金で運営する。最初は300部程度で赤字が続いたが、会員の上達や映山の「正しい書の普及と書を通じた心の教育を」との励ましが支えになった。
もうひとり恩人がいる。元読売新聞記者で1面コラム「編集手帳」初代担当者、書や中国文化に造詣が深かった高木健夫だ。高木は晩年八ヶ岳のふもとに居を構え、吉澤さんとも交遊があった。
「書道生活」創刊に際し、高木から「唐詩の旅」という題の随筆を1年分無償で贈られ、「文化人に随筆を寄稿してもらいなさい。魅力が増し、息の長い教本になる」と助言された。
まだ若く無名の書家だったが、高木の縁をたどると、誰もが「高木さんの紹介なら」と快諾した。哲学者の串田孫一、女流俳人の中村汀女、松本市出身の東大名誉教授金井圓(まどか)――。不定期ながら多彩な随筆が誌面を飾った。
昨年7月の340号で節目の100人に。諏訪市出身で彫刻家の立川義明さん(91)が諏訪大社の彫刻の特徴と印象を書いた。立川さんは「様々な文化、教養が詰まった教本。コラム執筆は光栄」と語る。
書道ブームとも言われるが、吉澤さんは「書は心を鍛え、豊かさを与える。書道文化は残さなければ。今後も『書道生活』を全国に届ける」と固く決めている。
(2010年1月30日 読売新聞)
下諏訪の書家 吉澤さん
「書道生活」を手に、書道への思いを語る吉澤さん(下諏訪町内のアトリエで) 「書道文化を未来へと継承し、情操教育に寄与を」と、下諏訪町矢木東の書家吉澤大淳(本名=清)さん(65)が30年近く月刊の教本「書道生活」を発行している。全国発送でやりくりも大変だが、書道の普及を望んだ亡き恩師の言葉を信条に続けてきた。
吉澤さんは同町に生まれ、高校卒業後、地元企業に勤めた。だが、「日本や東洋文化の背骨は漢字と書。その奥義を知りたい」と36歳で退職し、現代書壇の泰斗、成瀬映山のもとで中国の伝統書法を学んだ。
1978年に日展初入選を果たすと、94年の第11回読売書法展で読売新聞社賞を受賞。独創性を帯び始めた筆は「縦横無尽。生命の躍動を覚える」と評された。2002年、05年と日展特選に輝き、亡き映山後継の地歩を固めた。読売書法会常任理事も務める。
書以外にも、絵画制作や芸術評論を手がけ、町教育委員長などを歴任、諏訪を舞台に書風同様の活躍を見せた。
忙しくても「書道生活」発行は欠かさなかった。81年4月の創刊以来、最新の347号まで自分や映山の書、古典などの手本を掲載。大人から子供まで、自分や映山の弟子ら全国の会員に送り、返ってきた作品を選評した。
32ページの教本を毎月2000部刷り、1部500円の購読料と協賛金で運営する。最初は300部程度で赤字が続いたが、会員の上達や映山の「正しい書の普及と書を通じた心の教育を」との励ましが支えになった。
もうひとり恩人がいる。元読売新聞記者で1面コラム「編集手帳」初代担当者、書や中国文化に造詣が深かった高木健夫だ。高木は晩年八ヶ岳のふもとに居を構え、吉澤さんとも交遊があった。
「書道生活」創刊に際し、高木から「唐詩の旅」という題の随筆を1年分無償で贈られ、「文化人に随筆を寄稿してもらいなさい。魅力が増し、息の長い教本になる」と助言された。
まだ若く無名の書家だったが、高木の縁をたどると、誰もが「高木さんの紹介なら」と快諾した。哲学者の串田孫一、女流俳人の中村汀女、松本市出身の東大名誉教授金井圓(まどか)――。不定期ながら多彩な随筆が誌面を飾った。
昨年7月の340号で節目の100人に。諏訪市出身で彫刻家の立川義明さん(91)が諏訪大社の彫刻の特徴と印象を書いた。立川さんは「様々な文化、教養が詰まった教本。コラム執筆は光栄」と語る。
書道ブームとも言われるが、吉澤さんは「書は心を鍛え、豊かさを与える。書道文化は残さなければ。今後も『書道生活』を全国に届ける」と固く決めている。
(2010年1月30日 読売新聞)