八、それでも地球はまわる
98.ジョンさんの夢
しばらく静寂があり、鼓膜をつんざくような大きな音と高熱が雄二を襲う。雄二は気を失った。
「ここは、どこなのだろう」
まわりは岩や砂しか見えない。そうか、新型爆弾を使ったのだ。
テレビがあった。
「生命は消滅した。死の星となった」
と、音声だけを発した。
雄二は辛くって、どうしたらいいのかわからない。命のない死の星、地球は月のようになったのだ。雄二は、一人きりになってしまった。
鹿が跳びはねている。鹿の後を追った。
「あの星はなんだろう。あれは、あれは地球だ」
雄二は地球が青く見えて、幸福に思えた。
「ずいぶん、遠くまで来たものだ」
膝を組んで坐った。テレビでは新型爆弾が使われますと真剣に話していた。地球の各地で火の粉がまいあがり、月のようになってしまった。
「それでも、地球はまわっている」
テレビの画面に文字が現れた。
人類は滅んだ。死んだらどうなるのだろう。テレビに花田の顔が映る。それはきっとVTRだと思った。
「月に人類が行ける時代、迷信を信じてはいけない」
とテレビ画面の花田。
それなら、花田は石や砂なんかの物質になっただけなの……。
白黒テレビ画面に曽我のおばあさんの顔がアップで映っている。
「いや、極楽はある」
曽我のおばあさんが得意満面でいた。
テレビは異常な音をだした。雄二は岩に体を隠した。ドカーンとテレビは爆発した。雄二は本当に一人ぼっちになった気がした。
「雄二、雄二、大丈夫、大丈夫……」
ジョンさんは泣き崩れた雄二を背負った。
「天国、あります。人間の魂は物質のようにありません。そして、花のように枯れることもありません。さぁ、家に帰りましょう」
ジョンさんは優しく落ち着き払っていた。ふとんのように大きな背中のジョンさん。
雄二は目がさめた。雄二は布団の両端を強く握りしめていた。
「ひどく、うなされていたわよ」
母は心配顔で雄二を真剣に見ている。
妙な夢を見たものだ。いつものボロ・アパートでホッとした。
それから母は、額に手を置いて、
「熱下がって、よかったわね」
安心していた。
悪夢を見ていたようだ。
「お腹、すいた!」
「元気でてきた証拠やね」
母は微笑んだ。
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もくじ[メリー!地蔵盆]
ラストを丁寧にしています。
この作品を何度も書き直した理由には、
オウム事件などもあり、宗教のいい面を忘れてほしくないとも思って書きました。