七、学園紛争と秘密基地
87.やじ馬
翌朝、父は熱心に新聞を見ている。父は白黒テレビのスイッチを入れた。まだ、学園紛争は続いているらしい。雄二は学校が終わったら見に行こうと思った。
雄二は学校で昨晩のことを話した。友達は興味深げに聞いている。
「怪我したら、どうすんねん」
「そんなもんするかい!」
怪我することを考えたら、そんな場所に行く気はしなくなる。
「ほんまか」
雄二は疑いの目で見られる。
「昨日なんて、照明弾を見たんやぞ」
友達をびっくりさせてやろうと思い雄二はそう話した。
「なんやそれ」
「花火といっしょなんやて」
なんて説明していいか、雄二はわからなかったのでそういった。
「なんや、たいしたことないな」
「そうか。先生には秘密やぞ」
驚かそうと思ったのに、つまらない結果になってしまったなあーと雄二は思った。
「わかっているって……。面白いのを見たら、また教えてや」
そういわれると、雄二は満足だった。
授業がはじまる。先生は教壇に立ち真剣な表情で語っている。
「京都大学で今、学園紛争をやっています。テレビや新聞で皆さんも知っていることでしょう。とても危険なので、京大に行ってはいけませんよ」
先生の注意は、かえって雄二の好奇心をそそった。
学校が終わると、池山がアパートで話しかけてきた。
「それにしても、今日はよくヘリコプターが飛んでいるな」
「そらそうやろ。京大でゲバルトやっとるからなあー」
「ゲバルトかいな。おもしろそうやな。安保反対! 安保反対!」
池山は雄二と腕を組んで走り出す。くるくると同じ所でまわっている。
この当時まだ、赤軍派は公的には登場していない。ヘルメットをかぶり、タオルで顔をかくし、角材を持つのが、青年たちの新しい像であり、流行でもあった。
「安保反対! 安保反対! 安保反対!……」
疲れて止まると、一息ついてから、池山は話し出す。
「どうや、見学しにいかへんか」
「うん、でも、先生が京大に行ったら危険やって言うってはったやろ」
「かまへん、かまへん。京大に行くのと違うって、京大の中に入らへんかったら、ええのんや」
「そうか、京大の中に入らなかったら、ええのんか。そうか」
無茶な理屈をつける。でも、行きたくて仕方なくなってきた。
「よっしゃ、見に行こう」
二人は吉田神社に向かう。声をそろえながら、
「安保反対! 安保反対!」
意味はよくわからないが、真似をして駆けていく。
「おお、いっぱい人おるな!」
「しっ! わしらみたいな子どもはおらへんで」
「おるで」
なかには、見たこともない子どもがいる。他の小学校の生徒だと思う。
「なあ、あれ、すごいバスやな」
黒いバスがある。
「おっ、軍隊の人がおりてくるでェ」
「軍隊と違うがな、あれは機動隊や。機動隊は警察や」
バスの中から、すごいヘルメットをかぶった背の高いがっしりした人たちが出てくる。
「それにしてもや、あの楯、格好ええな!」
「ジュラルミンとかいうんやで」
「そうかいな。なんか、戦争のときの兵隊の人形に感じが似とるわな」
「人形って、あのプラモデルやろ?」
「そうや、百円の」
「池山、ああいうの好きやもんな」
「まあね。それにしても、何も起こらないな。あのお巡りさん、パン食っているぜ」
「そら、お巡りさんだって、腹が減るに決まっているやろ」
緊張感はあるのだが、期待してきた様子とは大分ちがう。
「美味そうやな」
池山は学園紛争よりあんぱんを真剣な表情で見ていた。
閑話休題 京都ならではという学生運動もありました。 それは『秋の大文字』をしたのでした。 神聖な行事を何ってことするんだと、 怒った人もいたそうです。 その記事はまるごと京都ポータルサイトで ◆大文字特別コラムに書かれてあります。 |
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もくじ[メリー!地蔵盆]
何か効果はあったのでしょうか?
もうすぐBEST10 入りですね。
この調子で頑張って下さい。
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さっき見たら、
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雨漏り書斎(甘党キング)さまの
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