磯野鱧男Blog [平和・読書日記・創作・etc.]

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象さんのアップリケ

2005年09月09日 | 短編など
象さんのアップリケ



坊やはベッドに入りました。
でも、なかなか寝つけませんでした。

ベッドから出ました。
「ママ、何かお話をしてよ」

ママは編み物をしていました。
「お話……」
そういうと、編む手をとめました。

「うん、お話をきいたらねるからさ」
 ぼうやは頭をかきながらいいました。

「じゃーね」
 と、ママは絵本をとりだしました。

 坊やはベッドにはいりました。
「ママ。一度、読んでもらった本はダメだよ。もう、おもしろくないから……」

「そう」
 といい、ママは別の本をさがしました。

「ジャックと豆の木は?」
 ママはぼうやを真剣なまなざしで見つめました。

「読んでもらったよ」
「じゃー、一寸法師は?」
「読んでもらったよ。ママ、忘れたの」

ママは本棚の本をさがしました。

「そうね。じゃー、新しい本はないわ」
「ないの」
坊やはがっかりしました。

「どうしようかしらね。がまんしてくれる」
「ママのお話をきかせてよ」

「ママのお話……」
 ママは考えました。

坊やのパジャマのポケットについているアップリケを見ました。

「むかしね、アップリケの大好きな王様がいたのよ」
 思いつきのお話をママは考えたのです。

「アップリケ」
 坊やは胸を指さしました。

「そう、そのアップリケの大好きな王様がいたのよ。そして、ある日ね、となりの国の王子様の坊やがね」

 坊やはつぶっていた目をあけて、
「僕くらいの」
 と、たずねました。

「そうよ、まだ小さいのよ。その王子様がね、アップリケをしていたの。そのアップリケを見てね、王様はアップリケほしいなあー、あんなのいいなあーと召使いのばあやさんにねだりました」

「王様が」
「そうよ、アップリケの大好きな王様だもの。そして、王様はね、ばあやさんにね、パジャマにね、象さんのアップリケをつけてもらうように頼んだのよ」

「象、じゃ、僕のといっしょだね」
「そうよ」
「だったら、素敵だね。ぼくだって、象さんのアップリケ大好きだもん」

「ところがね、そのアップリケの象さんはねも、風船を持っていなかったの。でね、王様は、風船がないよーってね、わんわん泣いたのよ」

「わんわん」
 坊やは掛け布団をパンパン叩いて大喜びしました。

「じゃー、もう遅いから、これでおしまいよ。だから、おやすみなさい」

ママは時計の音をききながら、編み物をつづけています。
もうすっかり眠ったのよね……。
ほっとしました。

坊やは眠っていますが、笑顔でいました。

「象のアップリケに風船がなかったのは、大変なことなんだよ」

「あれ、だあ~れ」
 坊やは驚きました。

「うっほほぉーん、王様だ、えへん!」
 王様は咳払いしました。
「あっ、アップリケの大好きな王様」
 坊やは目を大きく見開きました。

「そうだよ」
 アップリケの大好きな王様は象に乗ってあらわれました。

「象のアップリケに風船があるということは、大変重要なことなんだよ」
 王様は人さし指をたてて横にふった。

「どうして?」
「ほら、私の胸をみなさい」
 王様は空色のパジャマを着ていました。そこに風船を持った象の形をしたのが白くありました。

「坊や、自分の胸のアップリケを見てごらん」
 坊や胸のアップリケを見ると、胸のアップリケはぐんぐん大きくなりました。

子象が長い鼻で、赤い風船を持ってあらわれました。
「それが君のパジャマのアップリケの象くんだよ」

坊やのパジャマの胸の部分には風船をもった象の形が白くありました。

王様の象はりっぱな大人の象でしたが、坊やの象は小さな子象でした。

「風船があるのと無いのとでは大違いの、こんこんちきなのだよ」
 王様はご自慢のヒゲをさすって、風船を持ちました。
 王様はぐんぐんと、空にうかんでいきました。

「おーい、坊やも、私のように風船を象さんからもらいなさい」
 王様は空高くいいました。

「はーい」
 坊やは大きな声で返事してから、象から風船をもらいました。

「うーわー」
 坊やは王様のように、空にぐんぐん浮いていきました。
 王様の風船は黄金色。坊やの風船は深紅でした。

「坊や、象が風船を持っているのと、持っていないのとでは大違いだろう」

「はい」
 王様はとても満足そうな顔をしていました。

下を見ると象は豆つぶのように見えました。
家もまるで玩具のように見えました。

「王様、僕、もうおりたいよ」
「簡単です。さあー、私を見ていなさい。象さん、頼んだよ」
 豆つぶくらいの象は鼻を空にむかって上げました。
 鼻で吸って、王様を地上に降ろしているのです。

「坊や。坊やの象さんに頼むんだよ」
「はい。象くん、下におろしてよ」
 子象も鼻を天にむけました。

だんだん家も大きくなりました。
象もだんだん大きく見えました。

地上におりると、王様は坊やを子象の背中にのせてくれました。

「どうだ、坊や。象のアップリケに風船があるのと無いのとでは大違いだろう」
「ええ、王様」

「じゃあーねー」
 王様は手をふりながら、象と去っていきました。

王様が見えなくなると、また坊やは眠くなってねむりました。






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