四、お地蔵さんがコンコンさん
36.箱寿司をつくる
曽我のおばあさんがお皿にエビと厚焼き卵を入れて、もどってきた。
「これも、箱寿司にすると、美味しいでえ~。あら、和子さん。ちらし寿司なんて作ってはるのですね」
「ええ、この子、鯖寿司好きやないって言うものですから」
「ほんでも、縁起ものやから、一口くらい食べなはれ」
「わかった、わかった」
「返事は一度でよろしい。何度いってもわからへんのやね」
「なんか、両方、曽我のおばあさんみたいや」
「和子はん。それで、よろしい」
と、曽我のおばあさんはにんまりしている。
「それじゃ、そろそろ、箱寿司をつくってもええころやねー」
「そうみたいね」
「ジョンさん。見てなはれや!」
曽我のおばあさんが作りはじめる。
「ぼくが作るんや」
「見本や、模範や」
曽我のおばあさんは小学校の校長のように威張っている。
「箱寿司の下の台をおいて、枠を置きます。これには水を少々つけておきます。そうでないと、ご飯が箱にひっつきますねん」
「わかります」
と、ジョンさんは首を上下に振っている。
「それから、最初にこの薄い昆布を入れます。昆布をきれいに敷いて、その上に鯖を入れます。きれいに並べます。そしてその上にすし飯を入れて、蓋をして押します。よーおーと、こう力を入れて押しますから押し寿司と言いますねん」
「そうですか。力は入れるのですか」
「しっかり入れます」
「それから、ひっくり返して底になっていた蓋をとります。そして枠をとります」
「おー、お寿司です」
「そうでっしゃろ。なかなか、見事でっしゃろ」
「そうですね」
ジョンさんは感激している。ごはんもすし飯は光り輝いて見えるのである。
「これを包丁で切って、皿にのせます。簡単なこっちゃろ。ジョンさんにはエビがあります。エビと卵はこっちの小さい方で作ります。鱧寿司もこっちで作ります」
「どうしてですか?」
「そら~見た目が、こっちの方がよろしいのとちゃいまっか。それに大きかったら、大きなエビ捜さないといけまへん。エビは高いでっしゃろ」
「そうですか。すみません」
ジョンさんは、恐縮している。
「ええんですわ。私の好きでやっていますねん。小さな箱寿司も原理はいっしょですねん」
「わかります」
エビと卵の箱寿司も曽我のおばあさんは作り上げた。
「やっぱり、こっちの方が美味しそうでっしゃろ」
曽我のおばあさんはうれしそうである。
「それより、私はちらし寿司がいいです」
ジョンさんは子どもみたいな笑顔を見せている。
「何を言うんや。せっかくエビを買うて来たというのに」
「いえ、あの、その」
ジョンさんは困っていた。
「ジョンさんは、子どもやからちらし寿司が好きなんやなあー」
雄二はジョンさんをかばうつもりで話した。
「何をぬかしているんや」
「何を言うの」
曽我のおばあさんと母に叱られる。
「子どもが大人にそんな口をきいたら、あきまへんやろ」
「あきません」
「ほんま、親の顔が見たい」
「私ですがな」
「そうでしたな。すんまへん」
「なんや、漫才みているみたいやな」
「こら。また、大人をからかう!」
二人の声はまるでコーラスのように揃っていた。
そして、雄二も箱寿司をつくる。
「四方の端に、ご飯は多い目に入れておくんや。その方ができたとき、端がきれいにそろっていて、奇麗に見える」
「わかった」
雄二はそれから箱を反対にする。枠を抜く。
「ほれ、奇麗にできた」
自分の作品を見て、満足する。
「それじゃ、ジョンさん、作ってみまへんか」
「私がですか、私、不器用です」
「雄二にでもできるのです。できますって」
「そうですがな」
「ジョンさん、やりなはれ」
ジョンさんも上手くできた。
「やっぱー、先生がええと、ちゃんとできるものやなあー」
曽我のおばあさんは自画自賛している。
お寿司を美味しく食べた。
「食べるのだけでなく、作るのも楽しいものですね」
ジョンさんはまんざらでもない様子だった。
「おうどんも手打ちうどんって、自分でつくったら楽しいおまっせ」
「そうですか」
「今度、わてが教えてあげましょうか」
「ええ、お願いします」
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