映画といいますが、これは実在の愛称「グラニー・D」という94歳のおばあちゃんが
米国の上院議員選に立候補したときのドキュメンタリー。昨年米国のCATV局で
放送され、大変話題になったそうです。
このお年を聞いたとき失礼ながら、びっくりして。最初、これはドキュメンタリーでは
なくて冗談じゃないかと疑った次第(こっちの見方のほうがよっぽど失礼かな)
だって、彼女が無事任期を全うしたら100歳ですよ!
彼女は1910年生まれ。夫に先立たれ自立を模索していた彼女は政治活動に興味
を持ち、89歳のときに「企業献金による選挙の悪影響」を訴えるために全米を歩いて
キャンペーンすることをはじめます。14ヶ月をかけて5000キロを踏破し、この姿は
全米の話題になりました。
その後も彼女の政治に対する関心と活動は衰えを知らなかったようです。
そして三年前に彼女の運命を大きく変える出来事がありました。彼女の地元で上院
議員選があり、現役の共和党議員に対抗し出馬宣言した民主党議員が資金難を
理由に辞退、その代役として素人の94歳の彼女が企業からの寄付を拒絶して立候補
を決意するのです。
日本でもそうですが、資金なしで選挙活動をするなんて自殺行為。かの米国でも
状況は同じようです。彼女は自分のような一般市民が企業献金というタガにはめ
られず自由に行動する議員になるために、後進にその道を示すためにという理由で
あえて茨の道を選択するのです。
映画は彼女通称グラニーD(「D」はばあちゃんという意味)が立候補を決意して、
民主党公認にも拘らず同じ党の有力議員のサポートが得られないばかりか、対立
候補を褒め称えられるという仕打ちにまであいます。それでも先の大陸横断の
キャンペーン同様に徒歩で選挙活動を行い徐々に支持者を広げていく様を淡々と
描いていきます。
ともかくびっくりするのが彼女が94歳という年を感じさせないクレバーな頭を持って
行動していること。、あの広大なアメリカを歩いて選挙キャンペーンをやるなんて、
気違い沙汰です。
とても信じられない体力とそれにもまして旺盛な気力です。時として選挙参謀の
アドバイスについていけず、子供のように駄々をこねる彼女。そして我に返って素直
に謝る姿等々が等身大で映し出されていきます。
ボクが一番感動したのが、彼女の娘が認知症で親の名前も分からない状態でいる
こと。
「わたしだれ?」と聞く声に全く反応しない娘。それを黙って抱きしめるグラニーD。
なんとも強烈なシーンでありました。94歳の母が認知症の娘を抱きしめる図。高齢化
日本では何れ日常になるんだろうか。凄いショック!
グラニーDの歩行キャンペーンにずっと付き添っているのが彼女の息子。彼の
言葉がこれまたふるっていた。「定年退職して穏やかな生活が出来ると思ったら、
全くの計算違いだった」とおおらかに笑う息子の顔。イラク戦争以降、9・11以降米国
が再認識した家族の絆が見事に描かれています。
選挙はグラニーDの善戦ではありますが、約600万円弱の彼女の借金を残して選挙
に大敗し、早々に決着がつきます。インタビューを受ける彼女の痛々しい顔が印象的
でありました。選挙参謀が言う言葉が又良かった。グラニーDが圧倒的な効果を持つ
TVキャンペーンに金を使うために土地・建物を担保にしたらという提案に、「君はもう
十分金銭的な犠牲を払っている。君は二期目はない。その人間に金は集まらない。
返す当てのない借金はすべきでない」と答えます。これが戦略上不利と分かっていな
がら、あえて拒否した選挙参謀の英知に脱帽です。仮に借金を増やし、当選しても
結局は返済のために企業献金を当てにする構造が出来ることを恐れたんですね。
日本の政治家に聞かせてやりたい。
最初この映画を見始めたときはずいぶんとふざけた候補がいるものだと思いましたが、
彼女の発言の数々が実に素直で真摯。年寄り特有のやんちゃもあるけど、愛嬌のある
アメリカの典型ばあちゃんの圧倒的魅力にぐいぐいひきつけられあっという間に見終
わってしまいました。
彼女の素敵な言葉がこちらにあります。外国の方って本当にメッセージがうまい。
We live in a land where each person's voice matters. We can all do something.
Sometimes, we have to make sacrifices to be heard. But it is still our free land
and, my, how we all do love it.
アメリカのチャレンジ精神が見事に表現された秀作です。米国の大統領選はいよいよ
佳境に。あの、共和党パウエルさんが昨日民主党オバマ氏を支持しました。裏読み
すると黒人反発票が逆に伸びるという見方がありますが、果たして結末やいかに。
また日本の総選挙も日程が詰まってくるでしょう。
選良として身近な選挙をどう考えればいいか、大変に示唆に富む映画です。CATV枠
でしか見ることが出来ないのが残念ですが、機会があれば是非ご覧になられてはいかが
でしょうか。番組は今月いっぱい見られるようです。
■この映画の評価:★★★★☆
(★五つが最高評価)
■2007年米国制作
2008年10月21日投稿