雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

就活あれこれ 其の弐

2010-07-22 | 雑記
 結局のところ、二股云々で無駄に悶々していたのは本当に無駄であった。土曜日の夕方に二発目の会社から不採用の連絡が入った。
 ちょうどその日の午後のことであるが、三発目の運送会社のお達しで「運転適正検査」を受けに行った。運転業務に従事するためには、なにはともあれ、まずその適正を判断してそれから面接を行うのだという。
「運転適正検査」を受ける場所は金沢駅西口を出てすぐ目の前にある大きなビルの中であった。正直、自分みたいな奴には一生、縁もゆかりもなさそうな瀟洒なビルヂングであったのでまるっきり田舎者のように外観を仰ぎ慄き、不審者然とした挙動で恐る恐る中に入っていった。土曜日ということもあるのだろう、ビルの中はひっそりとしていた。なんだか、映画でしか見たことないようなビル内は、いったいぜんたいどこをどう進めば目的地に辿り着けるのか? 軽度の方向音痴はここでも遺憾なく発揮され、時折すれ違うスラッとしたおねぃさんやパリッとしたおじさまに不審な眼差しを浴びせられ萎縮していた。
 ようやくのことでエレベーターを見つけたものの、そこだけでエレベーターが六基くらいあって、どれに乗ればいいのか逡巡してしまう。まずもってしてこんなにエレベーターがたくさん並んでいるのを見るのはオラ初めてだってばさぁ。
 二、三度いらないところを進んだもののなんとか「適性検査」を実施しているフロアに着くと、指定された三十分前にもかかわらず、受付けをすると同時にさくさく課題を与えられた。
 一昔、いや二昔前くらいのゲームセンターにあったレースゲームのような、目の前に画面があって、もうパワーステアリングを通り越して、どうにもぐらんぐらんなハンドル、左右にボタン、右横に0から9までの数字が書かれたボタン、そして右足元にカックンカックンのアクセル。そんな装置が六つ並んでいるところに座らされ、ヘッドホンを装着させられる。
 係の人が言う「ヘッドホンから説明が流れますので、よく聴いてその指示に従っていってください」。ラジャー。
 ちょっと、詳細は省くが、まず一発目から説明をよく聴いてなかった私は係の人から怒られた。
「ちゃんと説明聴いてくださいね!」
 ら、ラジャー……。
 が、なんだかよくわからないうちに最初の検査? 試験? いやなんかゲームっぽい。それもファミコン以前の、ゲームウォッチ系。
 そういうのが、まあ何種類か、ゲームさながらレベルアップしながら行われるのだ。さて、ここで、ひとつ言っておきたいのだが私はゲームが苦手だ。まったく要領を得ないのはおろか、いったい自分が何をすればいいのかコントローラーと画面の意識が直結しないのである。そんなのだから、最終のハンドルを操作して左右の障害物に当たらずに進むという試験では、始終「障害物に当たりましたぜ」とでも言ったような「ブーブー」うるさい音がヘッドホンから鳴り響いていた。

 さて、それが済むと次は視力の検査になる。視力には自信がある。近頃老眼の気味は出てきているものの両目とも2.0を自負している。
 まず最初のオーソドックスな視力検査はなんなくパスした。次に名前は忘れたが三本の線が一直線になったらボタンを押す、という検査があって「やったことあります?」と訊かれて「ああ、なんとなく」と言ったのがいけなかった。はっきりいって、座ったはいいがわけがわからなくってただぼんやりしていたら係の人に怒られた。
「だから、わからないんならちゃんと説明聴いてくださいね!」
 あい、すみまてん……。
 ともあれそんなこんなで視力のほうも済み、次は筆記試験。これはまあ、性格だのなんだの、一種の心理試験というか性格判断みたいなものであるので、多少の嘘と正直さでいい人をアピールしておいた。

 すべての検査が終わり、最初のゲーム機にまた座らされた。画面に診断結果が出るのだという。程なくグラフになってでてきた私の運転適正は、すばらしいものであった。
 ゆずり合いの心、思いやりの心、状況判断、等々……五段階で示されているのだが、ほぼ四か五である。ただ、ひとつをのぞいては。
 それは、いちばん下の「反射神経」だったか「素早い判断力」的な項目が、なんと「レベル1」である。だいたい、自分と同年齢の平均値は三とか四である。まあ、そうだろな、と。
 なにやらヘッドホンからは説明が流れてくるのだが、なんだかもうどうでもいいや、と思ってあまり真剣に聴かなかった。
 それがまた、いけなかった。
 ああ、これで、帰れるんだ。これでただの男に。帰れるんだ、これで、帰れるんだー。おー、らいららいららいららいららい、らいららいら……などとアリス状態になっていたら、最初からなにかと私を怒っていた係の人に呼ばれて面談みたいなものになった。
 まずその人が訊く。「診断結果の説明、おわかりになりましたか?」
 やべ、聴いてねーし。
「はぁ、まぁ、えぇ……」とりあえず曖昧に誤魔化してみたものの、
「ちゃんと聴いて、理解したうえで改善していかなければなりません」
 なんだかまた怒られた。
 それでもなにかとその人の話に適当に相槌をうったり、殊勝な感じで「はぁ」などと頷いていたら、係の人が突然にっこり笑ってこう言った。
「貴方は慎重に、物事をよく考えて行動を起こす人なのですね。決して反射神経が鈍いとか、運動能力が劣っているわけではありませんよ。運転には咄嗟の判断も必要ですけれど、それに慣れてしまうのがいちばん危険なのです。ですから、運転のお仕事をされるうえでは、あなたのその慎重さはとても大事なことなのですよ」
 うわ、なんか完全に慰められてるよ……オレ。

 
 とにもかくにも、この「運転適正検査」の結果が運送会社に送られて、そののち本格的な面接を行うということであったが、未だ会社から連絡は来ていない。 
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