雲跳【うんちょう】

あの雲を跳び越えたなら

Another/綾辻 行人

2009-12-15 | 小説
 思えば、僕が初めて推理小説を読んだのは、小学校の図書室。江戸川乱歩の怪人二十面相シリーズだった。あれは四年生か五年生くらいだったか? 勉強はちっともしなかったけれども、図書室へはよく足を運んだ。そして少年探偵団のめくるめく活躍に胸躍らせたものだ。
 江戸川乱歩を足掛かりに、他の推理もの……なにを読んでいたかはよく憶えていないが、友達から無理矢理貸された赤川次郎(たしか三毛猫ホームズとかなんとか)なども読んだ。あの頃、流行っていたからであろう、しかしたいして心に響かなかった。それよりも、よくテレビ映画などでよく目にした「犬神家の一族」や「八つ墓村」の横溝正史なんかを難しい漢字を飛ばして読んでいた。(だから話がちっとも解からなかった)
 さて、それからの僕はどういうわけか推理小説よりもSFものやホラーもののほうに魅力を感じるようになり、ついては媒体も漫画のほうが圧倒的になっていった。
 それが十代の終わり頃だったであろうか? 書店で一冊の文庫本を手にした。

『十角館の殺人』

 僕を推理小説に導いたのが江戸川乱歩だとするなら、僕を推理小説の虜にしたのは、そう『館シリーズ』すなわち綾辻行人なのである!


 ……と、かなり前置きが長くなったが、要するに僕の読書人生に多大なる影響を与えてくれた作家・綾辻行人氏、待望の新作を読んだ、と。
『十角館の殺人』から、早20年余り、ずーっと氏の作品を読み続けてきて思うことは、陳腐な表現だけれど、本当にドキドキワクワクさせられた。もちろん中には肩透かしを喰らったものもあったさ。けれど、圧倒的に驚愕させられることのほうが多かった。
 そうそして、もちろん今作も言うに及ばず、もう文字を追うごとに現れる「謎」「不可解」に身悶えしちゃいそうなくらいの悦びを覚えた。

『本格ミステリとホラーの融合』今までもこの試みは何度かあったけれども、イマイチ不完全燃焼気味だったと思う。それがここにきて、ようやく完璧なカタチに仕上がった。 
 背景はまったくのホラーなのに、骨格は完全なミステリ(推理)もの。不可思議性と論理性が見事に調和した、これは綾辻行人にしか描けない、本格ミステリ史上で特別な意味を持つ一冊であることに間違いはない。

 とにかく、この驚愕に慄かない者はいないであろう。
コメント (2)
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