ぞな通信

四国・松山生まれ、在米25年、Zonaの日常生活。

氷上のプロポーズ

2008-01-28 23:27:59 | Weblog
全米フィギア選手権が先週あった。

ペアで出場する予定だった玲奈ちゃん&ジョンの試合は、水曜日から始まった。
今シーズンはショーに出場することが多く、公式試合はほとんど出場してなかった。
年末は日本でショーに出た後、クリスマスにヨーロッパに移動。
向こうでいくつかのショーに出る予定だったが、信じられないことにスケートリンクが出来ていなかった。
スケートリンクがなくてどうやってスケートショーが出来ようか。
練習も陸の上でやったそうだ。
いつから陸上部になったんか?

準備が遅れているのに、おっさんたちは休憩してタバコをふかしていた。
道具を貸してくれれば招待選手自ら整備するつもりだったが、その道具すらなかった。
どうやらスケートのことを全く知らない業者がこの仕事を請け負ったようなのだ。
日本の基準では絶対ありえない。

結局、スケートリンクそのものの準備ができていなくてショーは中止になり、彼らは飛行機に乗ってわざわざ疲れに行ったようなものだった。
可哀想なのはチケットを買ったお客さんたちだ。
当日券を求めて寒い中並んだお客さんだって大勢いた。
そういう人たちの気持ちを踏みにじった興行者。
一体、何を考えてるんだろうか。

無駄な体力を使い、ストレスだけが溜まり、時差ぼけに悩まされた。
ツアーから帰って来たときは、全米選手権の2週間前だった。
ぎりぎりまで出場を見合わせていた彼らだったが、出発しても本当に滑るのかこっちとしても半信半疑だった。

テレビに彼らの姿が映ったとき、ああ、やるんだ、と思った。

もしかしたらこれが最後の全米になるかもしれないな。

一方で、この試合が今シーズンの彼らの進路を決める,大切な試合でもある。

短い準備期間でこんな大きな試合に出場するなんて無謀でしかないし、競争相手は彼らの年の半分という、現実的な年齢差も大きくなって来た。
どう考えても体力的に不利である。

そんな条件下、ジョンがとても切れのあるスケートをしていた。
玲奈ちゃんは歩けるような状態ではないほど右足を痛めていた。
なのに、何度も何度も痛めた足でランディングを繰り返していた。

ショーの成果か、表現力が豊かになっていた。
短い期間でここまで調整したのはベテランの力としか言いようがない。
それよりも何よりも、思い残す事はない、といったような気合の入った滑りだった。
特にジョンが。

演技終了後、しつこいくらいジョンが何度も「玲奈に拍手を!」みたいなジェスチャーをしていた。
さっさとリンクを出たらいいのに、ちょっと挨拶が長いんじゃないの~? と思った瞬間、いきなり彼はひざまずいた。

玲奈ちゃんは「どうしたの? 何いってんの?」てな感じで彼にハグをして、今度は「へ?」という驚いた顔をした。
あれ? もしかしてプロボーズしてる????

テレビを観ている人も、テレビの向こうの人たちも何かが起こってると感じ取った。
そして、明らかにジョンがプロポーズをしていることがわかった。

わあっという歓声があがって、場内放送が、

She said, “YES.”

と、ご丁寧に放送してくれた。
ぎゃ~、全国放送でプロポーズしちゃった!!!!!

玲奈ちゃんは「まいったな~」という感じで,泣いていた。
私も夫もテレビを見て泣いた

もう、おじいちゃんとおばあちゃんみたいだ。

一気にスター街道まっしぐら、というペアではなく、でこぼこ道を軽四で歩んで来たペアだ。軽四どころかリヤカーって感もある。
金銭的に大変だった時期も長かった。
玲奈ちゃんは父親を肺がんで失ったし、自身も肺がんになった。
ジョンはロシアで強盗に襲われて、九死に一生を得た。

そんな二人がオリンピックに出場して、全米選手権では常連になり、アイスショーにも頻繁に出て、公に認められるペアになった。

本当に本当によかったね。
お二人に幸せの雨がたくさん降り注ぎますように