【第6章】 タイトルから消えた「グリーン・ホーネット」の文字
1974年に全米公開された「ブルース・リー IN グリーン・ホーネット」は、1週目で500万ドルの収益を上げるヒットとなりました。そこで、残されたエピソードからやはり4話が選ばれて、1時間32分の劇場用映画に仕立て上げられます。これが、LL&JMJエンタープライズ・フィルム製作の「ブルース・リー IN グリーン・ホーネット2 電光石火」(BRUCE LEE in GREEN HORNET2 FURY OF THE DRAGON)です。
もっともこのタイトルはビデオ化された際につけられたもので、1979年2月3日に東宝東和配給で日本公開された当時のパンフレッドを見ると、題名は「ブルース・リー 電光石火」(FURY OF THE DRAGON)とだけあって、「グリーン・ホーネット」の文字はどこにも見当たりません。それを窺わせるのは、隅っこに小さく印刷された、カトーの扮装で飛び蹴りをするブルース・リーの写真のみです。これではまるで、彼の新作主演映画のようです。事実、チラシには「若き日のアメリカ主演作品」と謳われていました。
それは映画自体も同じことで、オープニングに出るタイトルは「FURY OF THE DRAGON」のみ。お馴染みのテーマ曲も流れません(エンディングではちゃんと使われていたので、少しホッとしました)。さらに最もカトーが活躍するエピソードは前回使ってしまっており、不足しがちな彼のアクション場面を補うためか、格闘シーンでは他のエピソードのフィルムを再利用して挿入するといった、前年の1978年に製作・公開された「死亡遊戯」さながらの強引な手法も用いられています。
この作品の出現によって、ブルース登場以来、常に進化を遂げてきたカトーが、初めて退化、というのは言い過ぎにしても、進化の停滞を見せたように、私には感じられました。

「ブルース・リーのグリーン・ホーネット」がヒットしたため作られた続編「ブルース・リー 電光石火」
つい愚痴っぽくなってきましたが、気を取り直して、この映画に収録されたエピソードの内容を見ていくことにしましょう。最初の話は、カハラ王国から来た王子の婚約者をさらい、退位を迫る領事一味に立ち向かう第21話「フィアンセ誘拐事件」、次いで、ブリット・リードが肩を撃たれ重傷を負いながら、裏で強盗を働く悪徳警官を追い詰める第19話「瀕死のホーネット」、そして、盗まれた名画と拉致された美人秘書を取り戻すため、恐るべき破壊力を持つレーザー・ガンが待ち受ける敵地へ、大気圏に再突入する宇宙船を護るための特殊な液体で防御されたブラック・ビューティで乗り込む第9話「殺人光線」、最後は、台風で沈没して引き上げられた貨物船に隠された200万ドル相当のブツをめぐって麻薬シンジケートと熾烈な争いを繰り広げる第13話「サリー・ベル号の秘密」といった4話で構成されています。
前回、「バットマン」にグリーン・ホーネットがゲスト出演した話をしましたが、「サリー・ベル号の秘密」では、悪党が「バットマン」を見ているシーンがあり、バット・カーがチラッとテレビ画面に映し出されます。
【第7章】 カトー「グリーン・ホーネット」を飛び出す
実のところ、「カトー」はブルース・リーにとって、いろいろと気に入らない点の多い役でした。彼は見かけの派手さを演出するために、バランスを崩しやすく実戦ではほとんど使わないハイ・キックや飛び蹴りを多用することを求められます。このことには、本職が武道家である彼には少なからず違和感がありました。また、ほとんどのシーンがマスクで顔が隠されていることや、カトーのセリフの少なさも、彼の不満を募らせる要因でした。
しかしブルースの思いはどうあれ、この役は彼を功夫スターとして世に知らしめる契機となりました。漢字で「青蜂侠」と書く「グリーン・ホーネット」が香港で放映されて大ヒットしたことが、「ドラゴン危機一発」への主演に繋がったのです。そして1973年に急逝した後も、彼をリスペクトする映画人たちから、カトーはさまざまな形でオマージュを捧げられることになります。
まずは前世紀も終盤に入った1996年に、香港で製作された近未来SFアクション「ブラック・マスク」でジェット・リーが、カトーを意識したと思われる黒ずくめの格好にマスク姿で登場し、国家プロジェクトで生み出された超戦士を演じました(2001年に続編)。
次いで、以前の記事「「燃えよ!カンフー」の敵を「キル・ビル」で討て!(3)」で触れたように、2003年製作のアメリカ映画「キル・ビル」Vol.1では、「死亡遊戯」まがいの黄色に黒縞のトラック・スーツに身を包んだ主人公ザ・ブライド(ユマ・サーマン)に、「カトー・マスク」を装着した武闘集団クレイジー88が襲いかかります。
さらに2010年には「ドラゴン怒りの鉄拳」をリメイクした中国映画「レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳」で、ブルースと同じチェン・ジェンを演じたドニー・イェンが1925年の上海を舞台に、やはりカトーそっくりの扮装で、暴虐の限りを尽くす日本軍に闘いを挑むといった具合です。
そして同じ年、ついに満を持して真打登場と相なります。ついに本家「グリーン・ホーネット」が、新たなキャストをもって復活するのです。
【参考文献】
東宝東和編『ブルース・リー 電光石火 FURY OF THE DRAGON』東宝、1979年
ブルース・トーマス著、横山文子訳『BRUCE LEE:Fighting Spirit』PARCO、1998年
BLACK BELT誌編、呉春美訳、松宮康生監修『伝説のブルース・リー』フォレスト出版、1998年
1974年に全米公開された「ブルース・リー IN グリーン・ホーネット」は、1週目で500万ドルの収益を上げるヒットとなりました。そこで、残されたエピソードからやはり4話が選ばれて、1時間32分の劇場用映画に仕立て上げられます。これが、LL&JMJエンタープライズ・フィルム製作の「ブルース・リー IN グリーン・ホーネット2 電光石火」(BRUCE LEE in GREEN HORNET2 FURY OF THE DRAGON)です。
もっともこのタイトルはビデオ化された際につけられたもので、1979年2月3日に東宝東和配給で日本公開された当時のパンフレッドを見ると、題名は「ブルース・リー 電光石火」(FURY OF THE DRAGON)とだけあって、「グリーン・ホーネット」の文字はどこにも見当たりません。それを窺わせるのは、隅っこに小さく印刷された、カトーの扮装で飛び蹴りをするブルース・リーの写真のみです。これではまるで、彼の新作主演映画のようです。事実、チラシには「若き日のアメリカ主演作品」と謳われていました。
それは映画自体も同じことで、オープニングに出るタイトルは「FURY OF THE DRAGON」のみ。お馴染みのテーマ曲も流れません(エンディングではちゃんと使われていたので、少しホッとしました)。さらに最もカトーが活躍するエピソードは前回使ってしまっており、不足しがちな彼のアクション場面を補うためか、格闘シーンでは他のエピソードのフィルムを再利用して挿入するといった、前年の1978年に製作・公開された「死亡遊戯」さながらの強引な手法も用いられています。
この作品の出現によって、ブルース登場以来、常に進化を遂げてきたカトーが、初めて退化、というのは言い過ぎにしても、進化の停滞を見せたように、私には感じられました。


「ブルース・リーのグリーン・ホーネット」がヒットしたため作られた続編「ブルース・リー 電光石火」
つい愚痴っぽくなってきましたが、気を取り直して、この映画に収録されたエピソードの内容を見ていくことにしましょう。最初の話は、カハラ王国から来た王子の婚約者をさらい、退位を迫る領事一味に立ち向かう第21話「フィアンセ誘拐事件」、次いで、ブリット・リードが肩を撃たれ重傷を負いながら、裏で強盗を働く悪徳警官を追い詰める第19話「瀕死のホーネット」、そして、盗まれた名画と拉致された美人秘書を取り戻すため、恐るべき破壊力を持つレーザー・ガンが待ち受ける敵地へ、大気圏に再突入する宇宙船を護るための特殊な液体で防御されたブラック・ビューティで乗り込む第9話「殺人光線」、最後は、台風で沈没して引き上げられた貨物船に隠された200万ドル相当のブツをめぐって麻薬シンジケートと熾烈な争いを繰り広げる第13話「サリー・ベル号の秘密」といった4話で構成されています。
前回、「バットマン」にグリーン・ホーネットがゲスト出演した話をしましたが、「サリー・ベル号の秘密」では、悪党が「バットマン」を見ているシーンがあり、バット・カーがチラッとテレビ画面に映し出されます。
【第7章】 カトー「グリーン・ホーネット」を飛び出す
実のところ、「カトー」はブルース・リーにとって、いろいろと気に入らない点の多い役でした。彼は見かけの派手さを演出するために、バランスを崩しやすく実戦ではほとんど使わないハイ・キックや飛び蹴りを多用することを求められます。このことには、本職が武道家である彼には少なからず違和感がありました。また、ほとんどのシーンがマスクで顔が隠されていることや、カトーのセリフの少なさも、彼の不満を募らせる要因でした。
しかしブルースの思いはどうあれ、この役は彼を功夫スターとして世に知らしめる契機となりました。漢字で「青蜂侠」と書く「グリーン・ホーネット」が香港で放映されて大ヒットしたことが、「ドラゴン危機一発」への主演に繋がったのです。そして1973年に急逝した後も、彼をリスペクトする映画人たちから、カトーはさまざまな形でオマージュを捧げられることになります。
まずは前世紀も終盤に入った1996年に、香港で製作された近未来SFアクション「ブラック・マスク」でジェット・リーが、カトーを意識したと思われる黒ずくめの格好にマスク姿で登場し、国家プロジェクトで生み出された超戦士を演じました(2001年に続編)。
次いで、以前の記事「「燃えよ!カンフー」の敵を「キル・ビル」で討て!(3)」で触れたように、2003年製作のアメリカ映画「キル・ビル」Vol.1では、「死亡遊戯」まがいの黄色に黒縞のトラック・スーツに身を包んだ主人公ザ・ブライド(ユマ・サーマン)に、「カトー・マスク」を装着した武闘集団クレイジー88が襲いかかります。
さらに2010年には「ドラゴン怒りの鉄拳」をリメイクした中国映画「レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳」で、ブルースと同じチェン・ジェンを演じたドニー・イェンが1925年の上海を舞台に、やはりカトーそっくりの扮装で、暴虐の限りを尽くす日本軍に闘いを挑むといった具合です。
そして同じ年、ついに満を持して真打登場と相なります。ついに本家「グリーン・ホーネット」が、新たなキャストをもって復活するのです。
【参考文献】
東宝東和編『ブルース・リー 電光石火 FURY OF THE DRAGON』東宝、1979年
ブルース・トーマス著、横山文子訳『BRUCE LEE:Fighting Spirit』PARCO、1998年
BLACK BELT誌編、呉春美訳、松宮康生監修『伝説のブルース・リー』フォレスト出版、1998年
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