ひろむしの知りたがり日記

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「グリーン・ホーネット」カトー進化論 (5)

2014年06月23日 | 日記
【第8章】 カトー、スーパーマンになる

TVシリーズの「グリーン・ホーネット」全26話のうち、劇場映画化されたのは2本合わせてわずか8話に過ぎません。そのわずかばかりの情報では解くことのできない、いくつかの謎があります(もっとも全話見たとしても、おそらく謎に対する答えは与えられないだろうと予測していますが・・・)。
それは、ブリット・リードがなぜグリーン・ホーネットになったのか、なぜカトーはブリットと行動を共にしているのか、ブラック・ビューティやホーネット・ガス銃などのスーパー・メカを誰が作ったのかということです。
2010年、ついにそれらを明らかにする映画がアメリカで製作、公開されました。ミシェル・ゴンドリー監督作品の「グリーン・ホーネット」(THE GREEN HORNET。上映時間1時間59分)です。同じ年のうちに、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントの配給で、日本でも公開されています。

主人公のブリット・リード(セス・ローゲン)は、幼くして母を亡くします。父ジェームズ(トム・ウィルキンソン)はロサンゼルスの有名な新聞社デイリー・センチネルの創業者で、いつも仕事に追われていて彼を構ってはくれません。常に寂しい思いを抱えて成長したブリットは、父親への反発からか酒や女遊びに溺れる絵に描いたような放蕩息子に育ちます。ところがある日、ジェームズが蜂に刺されてアレルギー反応で急死してしまいます。こうしてブリットは、突然、莫大な遺産と新聞社社長の座を受け継ぐことになるのです。


ついにTVシリーズの再編集ではなく、オリジナル劇場映画として登場した「グリーン・ホーネット」

父の埋葬翌日、ブリットは毎朝楽しみにしているカプチーノの味がいつもと違うことに激怒します。メイドを問い詰め、父の死にともない解雇した使用人のカトーがコーヒーを入れていたことを知り、彼を呼び戻します。
カトーを演じるのは台湾出身の歌手・作曲家で、俳優としても活躍するジェイ・チョウです。ジェイも才能豊かな人ですが、彼が扮するカトーはTVシリーズのそれを遥かに凌ぐスーパーマンへと進化しています。
彼は武術の達人である上に、天才的な発明家でもあります。絵を描くことも得意で、クラシック音楽を愛する芸術家肌の一面も持っています。冷静沈着な性格で、気難しいジェームズやわがままなブリットに根気よく対応する忍耐強さの持ち主ですが、一方でブリットが手下扱いすることに対しては、不満を口にするプライドの高さも有しています。

カトーは上海生まれで4歳の時に両親と死別、12歳まで児童施設で育ちました。友人と施設を脱走し、ストリートチルドレンとなります。その後、自動車修理工場で働いていた時に、彼の腕前に惚れ込んだジェームズにスカウトされ、リード家に雇われました。カトーはジェームズのために、美味いカプチーノを入れる機械から、さまざまな防御機能を備えた自動車まで、画期的なハイテク・マシンを作り上げます。ジェームズが死んだ後、それらを息子のブリットに披露しますが、その時に見せたスケッチ・ブックには、メカのデザインのほかに、ブルース・リーの似顔絵も描かれているといった微笑ましいシーンもあります。

そのブルースが演じてから、カトーの新たな能力として付与されることになった功夫の腕前も、さらに人間離れした域に達しています。路上生活を送っていた頃、喧嘩に明け暮れていた彼は、心臓の鼓動が速まると周囲の動きがスローモーションみたいに見えるようになるという、まるで加速装置を使って超スピードで闘う時のサイボーグ009並みの能力を身につけました。
わずかな動作で至近距離にいる相手を吹き飛ばす、ワンインチ・パンチの妙技も見せます。これは言わずと知れた、ブルースが「グリーン・ホーネット」に出演するキッカケとなった、第1回国際空手トーナメントでのデモンストレーションで披露したものです。
そんな何でもこなすカトーのことを、ブリットはアーミーナイフにたとえました。いろんな機能が隠れていて、「もう終わりかな」と思うと、さらに次のものが出てくる──まさにカトーとは、そういった存在です。

意気投合したブリットとカトーは、傲慢だったジェームズへの腹いせに、夜陰に紛れて彼の銅像の首を切断します。それを抱えて意気揚々と引き上げようとしたところ、偶然悪漢がカップルを襲う場面に遭遇してしまいました。カトーの電光石火の早技のおかげで彼らを叩きのめすことができたブリットは、俄然、正義に目覚めます。そして、世間からは銅像の首泥棒としか見なされていないのを逆手に取ることにします。犯罪者を装って、人質がいると悪人に手を出せないといった正義の味方特有の弱点を持たない最強(?)のダーク・ヒーロー、グリーン・ホーネットとして自分たちを売り出すのです。

ブリットとコンビを組むことを決めたカトーは、戦車のように頑丈で、火炎放射砲や小型ミサイルを装備したスーパー・カー、ブラック・ビューティを完成させます。彼はまた、実戦経験に乏しいブリットのために、一瞬で相手を眠らせることができる強力なガス・ガンも開発しました。
自分だけが武器を持たされることに不満を抱いたブリットは、カトーにヌンチャクを持つことを勧めます。カトーはその場では相手にしませんでしたが、こっそりとブラック・ビューティの天井にヌンチャクを備え付け、後にカー・チェイスのシーンでそれが威力を発揮することになります。
ヌンチャクと同様、ブルース版カトーが使っていた独特な武器である投げ矢も、ラスト近くになってようやく登場します。どちらも取って付けたような扱いではありますが、製作者たちは一応これで先代カトーに敬意を表しているつもりなのかもしれません。

「ブルース・リー IN グリーン・ホーネット2 電光石火」

ブリットの秘書レノア(キャメロン・ディアス)はジャーナリズム学と犯罪学を学んだ経験があり、ブリットとカトーは彼女から引き出したグリーン・ホーネットの行動予想をヒントに、ロスの裏社会を支配するチュドノフスキー(途中から「ブラッドノフスキー」と名乗りを変えます。演じるのはクリストフ・ヴァルツ)と覇権を争うふりをしながら、凶悪犯罪の撲滅を図ります。
やがてブリットは、チュドノフスキーと裏で手を組む地方検事スカンロン(デヴィッド・ハーバー)がジェームズの死に絡んでいることを知り、物語はクライマックスへと突入していくのです。

【終章】 カトーよ、永遠に・・・

新しく作られた劇場版「グリーン・ホーネット」はコメディ・タッチで、だらしないお調子者のブリットは、ダンディで理知的だったTVシリーズの彼とはとても同一人物とは思えません。彼がカトーに勝てるのは、唯一カトーが金づちで、ブリットは泳げるということぐらい。2人の間柄は、まるでドラえもんとのび太のようです。
もちろんブリットは主役ですから、最後には映画「ドラえもん」ののび太ばりに大活躍をするのですが、話のうちの大部分では、カトーがいないと何もできないダメ男ぶりをさらします。そんな映画ですが、彼らの原点を考える上で、多くの示唆を含んでことも確かです。

まず、ブリットがグリーン・ホーネットとなった理由です。
単なる正義感からというのではなく、何か、相応のきっかけがあったはずです。それには、おそらくジャーナリストとして正義を貫こうとした父の死が大きく関係しているでしょうし、あるいは犯罪者の手にかかって非業の最期を遂げたということがあったのかもしれません。
カトーが映画にあるように、父の代からリード家に仕えていたのなら、そんなブリットの思いに同情と共感を抱き、手助けをするようになったのだと想像することは可能です。また、犯罪者と見なされながらも、悪を許せず孤独な闘いを続けるブリットを、密かに敬愛する気持ちもあったに違いありません。それが、明らかにブリットを上回る戦闘能力を持ち、時に驚くべき聡明さを示すカトーが、あくまでブリットのサポート役に徹している理由だと思われます。彼らの絆のあり方は、あたかも劉備玄徳の崇高な志や人柄にひかれ、関羽雲長、張飛翼徳、諸葛亮孔明といった英雄俊傑が、彼のもとに集ったのと似ています。

こうして、約80年前に単なるブリット・リードの助手、引き立て役として登場した従順な東洋人カトーは、やがて向かうところ敵なしの武術を身につけ、天才的な発明能力を発揮し、ブリットと同格のパートナー、それどころか主人公を完全に食ってしまうような存在へと進化・成長を遂げていきました。
最新版の「グリーン・ホーネット」でブリットを演じ、製作総指揮、脚本も務めたセス・ローゲンは、パンフレッドに掲載されたインタビューの中で、映画のシリーズ化も考えていると語っています。
それが実現するかどうかはわかりませんが、カトーをヒーローの座に押し上げたブルース・リーの存在がその輝きを失わない限り、彼はこれからもさまざまな形で、メディアの上に甦り続けることでしょう。


【参考文献】
四方田犬彦著『ブルース・リー 李小龍の栄光と孤独』晶文社、2005年
松宮康生著『ブルース・リー最後の真実』ゴマブックス、2008年
映画パンフレッド『グリーン・ホーネット IN 3D』松竹、2011年

「グリーン・ホーネット」カトー進化論 (4)

2014年06月15日 | 日記
【第6章】 タイトルから消えた「グリーン・ホーネット」の文字

1974年に全米公開された「ブルース・リー IN グリーン・ホーネット」は、1週目で500万ドルの収益を上げるヒットとなりました。そこで、残されたエピソードからやはり4話が選ばれて、1時間32分の劇場用映画に仕立て上げられます。これが、LL&JMJエンタープライズ・フィルム製作の「ブルース・リー IN グリーン・ホーネット2 電光石火」(BRUCE LEE in GREEN HORNET2 FURY OF THE DRAGON)です。
もっともこのタイトルはビデオ化された際につけられたもので、1979年2月3日に東宝東和配給で日本公開された当時のパンフレッドを見ると、題名は「ブルース・リー 電光石火」(FURY OF THE DRAGON)とだけあって、「グリーン・ホーネット」の文字はどこにも見当たりません。それを窺わせるのは、隅っこに小さく印刷された、カトーの扮装で飛び蹴りをするブルース・リーの写真のみです。これではまるで、彼の新作主演映画のようです。事実、チラシには「若き日のアメリカ主演作品」と謳われていました。

それは映画自体も同じことで、オープニングに出るタイトルは「FURY OF THE DRAGON」のみ。お馴染みのテーマ曲も流れません(エンディングではちゃんと使われていたので、少しホッとしました)。さらに最もカトーが活躍するエピソードは前回使ってしまっており、不足しがちな彼のアクション場面を補うためか、格闘シーンでは他のエピソードのフィルムを再利用して挿入するといった、前年の1978年に製作・公開された「死亡遊戯」さながらの強引な手法も用いられています。
この作品の出現によって、ブルース登場以来、常に進化を遂げてきたカトーが、初めて退化、というのは言い過ぎにしても、進化の停滞を見せたように、私には感じられました。

 
 「ブルース・リーのグリーン・ホーネット」がヒットしたため作られた続編「ブルース・リー 電光石火」

つい愚痴っぽくなってきましたが、気を取り直して、この映画に収録されたエピソードの内容を見ていくことにしましょう。最初の話は、カハラ王国から来た王子の婚約者をさらい、退位を迫る領事一味に立ち向かう第21話「フィアンセ誘拐事件」、次いで、ブリット・リードが肩を撃たれ重傷を負いながら、裏で強盗を働く悪徳警官を追い詰める第19話「瀕死のホーネット」、そして、盗まれた名画と拉致された美人秘書を取り戻すため、恐るべき破壊力を持つレーザー・ガンが待ち受ける敵地へ、大気圏に再突入する宇宙船を護るための特殊な液体で防御されたブラック・ビューティで乗り込む第9話「殺人光線」、最後は、台風で沈没して引き上げられた貨物船に隠された200万ドル相当のブツをめぐって麻薬シンジケートと熾烈な争いを繰り広げる第13話「サリー・ベル号の秘密」といった4話で構成されています。
前回、「バットマン」にグリーン・ホーネットがゲスト出演した話をしましたが、「サリー・ベル号の秘密」では、悪党が「バットマン」を見ているシーンがあり、バット・カーがチラッとテレビ画面に映し出されます。

【第7章】 カトー「グリーン・ホーネット」を飛び出す

実のところ、「カトー」はブルース・リーにとって、いろいろと気に入らない点の多い役でした。彼は見かけの派手さを演出するために、バランスを崩しやすく実戦ではほとんど使わないハイ・キックや飛び蹴りを多用することを求められます。このことには、本職が武道家である彼には少なからず違和感がありました。また、ほとんどのシーンがマスクで顔が隠されていることや、カトーのセリフの少なさも、彼の不満を募らせる要因でした。
しかしブルースの思いはどうあれ、この役は彼を功夫スターとして世に知らしめる契機となりました。漢字で「青蜂侠」と書く「グリーン・ホーネット」が香港で放映されて大ヒットしたことが、「ドラゴン危機一発」への主演に繋がったのです。そして1973年に急逝した後も、彼をリスペクトする映画人たちから、カトーはさまざまな形でオマージュを捧げられることになります。

まずは前世紀も終盤に入った1996年に、香港で製作された近未来SFアクション「ブラック・マスク」でジェット・リーが、カトーを意識したと思われる黒ずくめの格好にマスク姿で登場し、国家プロジェクトで生み出された超戦士を演じました(2001年に続編)。
次いで、以前の記事「「燃えよ!カンフー」の敵を「キル・ビル」で討て!(3)」で触れたように、2003年製作のアメリカ映画「キル・ビル」Vol.1では、「死亡遊戯」まがいの黄色に黒縞のトラック・スーツに身を包んだ主人公ザ・ブライド(ユマ・サーマン)に、「カトー・マスク」を装着した武闘集団クレイジー88が襲いかかります。
さらに2010年には「ドラゴン怒りの鉄拳」をリメイクした中国映画「レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳」で、ブルースと同じチェン・ジェンを演じたドニー・イェンが1925年の上海を舞台に、やはりカトーそっくりの扮装で、暴虐の限りを尽くす日本軍に闘いを挑むといった具合です。
そして同じ年、ついに満を持して真打登場と相なります。ついに本家「グリーン・ホーネット」が、新たなキャストをもって復活するのです。


【参考文献】
東宝東和編『ブルース・リー 電光石火 FURY OF THE DRAGON』東宝、1979年
ブルース・トーマス著、横山文子訳『BRUCE LEE:Fighting Spirit』PARCO、1998年
BLACK BELT誌編、呉春美訳、松宮康生監修『伝説のブルース・リー』フォレスト出版、1998年

「グリーン・ホーネット」カトー進化論 (3)

2014年06月07日 | 日記
【第4章】 バットマンVSグリーン・ホーネット

シリアス過ぎるのが災いして、製作者の期待通りに視聴率を伸ばせなかった「グリーン・ホーネット」に対し、コメディ・タッチでよりエンターテインメントに徹した「バットマン」は第2、第3シーズンとシリーズを重ねていきました。そうした中、弟分である「グリーン・ホーネット」になんとかテコ入れしようと、グリーン・ホーネットとカトーの「バットマン」へのゲスト出演が図られます。
まずは1966年9月30日の「グリーン・ホーネット」第4話「死を呼ぶ電子計算機」放映前の28日、「バットマン」の第41話「カブトムシには毒がある」でロープを使ってビルをよじ登るバットマンとロビンの前に、ホーネットとカトーがちょっとだけ窓から顔を出します。さらに翌1967年3月3日の「グリーン・ホーネット」第23話「危険な贈り物」放映直前の3月1日には「バットマン」の第85話「グリーンが街にやって来た」、翌日には第86話「アルファベットは26文字か?」という続きものの2話が放映されました。
これは、「グリーン・ホーネット」の第2シーズンを念頭に置いて製作されたものだとも言われています。第85話には、警察本部のゴードン総監が「バット・フォン」というバットマンに通じる専用電話で、「ロサンゼルス方面で暴れまわっていたグリーン・ホーネットが、ついにゴッサム・シティに現れた」と語るシーンがありました。

ストーリーはというと、2大仮面ヒーローの共演にしてはいささかスケールの小さな敵が相手のお話です。
スタンプ会社の工場長ガム大佐は、一方では変装して切手商を営み、偽物を売りつける悪党です。彼は国際切手展示会で高価な逸品を偽造切手とすり替え、大儲けしようと企んでいました。バットマンのホームグランドであるゴッサム・シティにやって来たホーネットとカトーは、犯罪者と見なされている自分たちと違い、正義の味方ともてはやされるバットマンやロビンと反目しながらも、力を合わせてガムの陰謀を阻止します。

このドラマの中に、ホーネットとバットマン、カトーとロビンがそれぞれ闘うシーンがありますが、ブルースの発する威圧感にロビンを演じるバート・ワードが怖気づいて後ずさりしてしまったとか、バートが実際にブルースと張り合おうとして、そのあまりに速い動きに手も足も出なかったといった逸話が残されています。

【第5章】 ブルース・リー主演(?)の劇場版「グリーン・ホーネット」

1973年に製作された「燃えよドラゴン」が大ヒットしたため、日本をはじめ世界各地でそれ以前の「ドラゴン危機一発」や「ドラゴン怒りの鉄拳」などが相次いで公開されました。映画界はブルース・リーという稀に見る純度の高い金の鉱脈を掘り当てましたが、それが見つかった時、彼は既にこの世の人ではありませんでした。
そこで、彼が過去に出演した作品をあさって、使えるものはないかと探しまわることになります。そんな中で発掘されたのが、彼が準主役を務めたTVシリーズ「グリーン・ホーネット」でした。
といっても1回30分の番組(正確にはコマーシャルが入るので約22分)ですから、20世紀フォックスは数本を集めて1本の作品にすることにしました。そして全エピソードの中から、「探検クラブ」という表看板の影で殺人を繰り返す秘密結社に挑む第11話「人間狩り」、宇宙人を装って核弾頭の強奪を目論むマッド・サイエンティストと対決する第24・25話「水爆スチール作戦 前・後編」、チャイナタウンを舞台に中国人同士の抗争を描く第10話「火を吐く空手」の4本が選ばれ、それらを編集し直して1時間24分の劇場用映画にしました。

「人間狩り」では後にブルースのトレードマークの1つとなるヌンチャクも登場しますが、しかしそれよりも4本のうちで最も注目すべきは、「火を吐く空手」のカトーとマコ岩松演じるロウ・シンとの対決シーンです。ここでは中国人のブルースが日本人を、日本人のマコが中国人を演じるという逆転現象が起こっています。
カトーは空手の達人、ロウは蟷螂拳<とうろうけん>の名手という設定でしたが、ブルース本人は詠春拳を母体として独自に作り上げた截拳道<ジークンドー>の創始者ですから、実際には空手対中国拳法ではなく、中国の伝統武術と新時代の武術の対決ということになるのでしょうか。マコ岩松におそらく拳法の心得はなかったでしょうが、格闘シーンでは顔がアップになる時以外はブルースの親友で、弟子でもあったダン・イノサントが代役をしていますので、それなりに本格的なアクションになっています。

 
 「ブルース・リーのグリーン・ホーネット」劇場パンフレッド(同時上映「ブルース・リーのドラゴン拳法」)

この映画は日本では、「ブルース・リーのグリーン・ホーネット」(BRUCE LEE IN THE GREEN HORNET)と題され、1975年3月21日に公開されました。当時のチラシには、驚いたことに「アメリカ主演第1回作品」と書かれています。それを信じて映画館に足を運んだ人は、さぞガッカリしたことでしょう。
もともとTV放映時から、ファンレターのほぼすべてがブルース宛てだったという事実はありましたが、あくまでもこのドラマの主役はタイトルが示す通りグリーン・ホーネットです。それにもかかわらず、このような広告が打たれたのは、カトーが役柄のあり方はそのままに、演じたブルースの世間におけるステータスが向上するのと連動して、作品内での彼の存在価値が進化したことを意味しています。
「看板に偽りあり」との感がしないでもありませんが、それでも「ブルー・ス・リーのグリーン・ホーネット」はヒットし、柳の下のドジョウを狙って第2弾が作られることになります。


【参考文献】
ブルース・トーマス著、横山文子訳『BRUCE LEE:Fighting Spirit』PARCO、1998年
四方田犬彦著『ブルース・リー 李小龍の栄光と孤独』晶文社、2005年
松宮康生著『ブルース・リー最後の真実』ゴマブックス、2008年

「グリーン・ホーネット」カトー進化論 (2)

2014年06月02日 | 日記
【第2章】 チャーリー・チャンの息子

ブルース・リーがハリウッド映画界入りするのは、1964年8月2日にロングビーチで行われた第1回国際空手トーナメントで披露したデモンストレーションがきっかけでした。
大会にはハリウッドでも有名なヘア・スタイリストのジェイ・セブリングが見に来ていました。彼はブルースの功夫に強い衝撃を受けます。美容室のお得意さんに、「バットマン」(BAT MAN)のプロデューサーをしているウイリアム・ドジエがいました。ウイリアムが中国人刑事ものの新シリーズ「チャ-リー・チャンズ・ナンバーワン・サン」に出演できる役者を探していると話していたのを思い出したジェイは、主催者のエド・パーカーから大会のフィルムを借りて、20世紀フォックスのスタジオでウイリアムに見せました。それを見たウイリアムもブルースの動きに感銘を受け、彼にスクリーン・テストを受けさせます。
この時のフィルムはのちに、TV版「グリーン・ホーネット」を再編集して作られた劇場版が日本で公開された時に、短編映画として併映されました。24歳の若きブルースが功夫について語り、実演してみせる貴重な映像で、これを見られたことによって、本編ではあくまでもサブキャラであるブルースのアクションを十分に堪能できなかったファンの不完全燃焼感も、いくらかは癒されたものです。
余談ですが、連続短編映画版でカトーを演じたケイ・ルークは、かつてチャーリー・チャンの息子役をやったことがあります。彼は後年ブルースが主演を熱望したTVシリーズ「燃えよ!カンフー」で主人公の師匠に扮しており(『「燃えよ!カンフー」の敵を「キル・ビル」で討て!(1)』参照)、もし、ブルースの願いが叶っていたら、新旧カトー夢の(?)共演が実現していたことになります。これは、ぜひ見てみたかったものです。
「ナンバーワン・サン」の企画は残念ながら流れてしまいますが、ドジエはブルースの起用にこだわり、「バットマン」の後に続く連続TVアクションに使うことを決めます。かつてケイ・ルークが演じていたカトーに武術の達人という設定はありませんでした。カトーが単なる優秀な助手から、腕っぷしも立つ頼もしいパートナーへと進化したのは、ブルースの配役あってのことだったといえるでしょう。

【第3章】 シリアス過ぎたTV版「グリーン・ホーネット」

「バットマン」を制作したグリーンウェイ・プロと20世紀フォックス・テレビジョンが手がけた「グリーン・ホーネット」は、1966年6月6日に収録が開始されました。そして同年の9月9日、ABCテレビで金曜午後7時30分というゴールデンタイムに放映がスタートします。日本でも1967年1月17日から放送されました。
主人公グリーン・ホーネット(ヴァン・ウイリアムズ)が相棒のカトー(ブルース)と、さまざまに秘密の仕掛けを凝らした黒い車「ブラックビューティ」を駆使して悪と戦うという設定は、バットマンとロビン、そしてバットモービルの関係とたいへんよく似ています。そういった背景から、ウイリアム・ドジエがこの作品を「バットマン」の後番組に持ってきたのは十分うなずける話です。
デイリー・センチネル新聞社と同テレビ局を経営するブリット・リードは、一度事あればビジネス・スーツに青緑のマスク、手袋、灰緑のソフト帽という出立ちのグリーン・ホーネットに姿を変えます。普段は白シャツに黒い蝶ネクタイという執事風スタイルのカトーも、立ち襟のスーツにいかにも運転手らしい制帽を被り、やはり青緑のマスクという格好でブリットに従います。2人はブラックビューティに乗り込むや、ブリット邸の地下に設けられた秘密基地から事件現場に向かって颯爽と駆けつけます。
ブリットは状況に応じて、敵を傷つけずに倒す「ホーネット・ガス銃」や、相手の凶器を一瞬にして破壊する威力を持つ「ホーネット・ステッキ」といったハイテク武器を用い、素手で闘う時は、もっぱら敵を拳で殴りつけます。カトーはブリットとは対照的に、拳銃を持った敵に対しては竹で作った手製の投げ矢を素早く投げつけて動きを封じます。時にヌンチャクを使うこともありますが、彼の最大の武器は何と言っても強力なキックです。変幻自在に繰り出される彼の蹴りに、相手はなす術もなく打ち倒されていきます。
ブリットが饒舌に喋り、相手に脅しをかけたり駆け引きをしている間も、カトーはほとんど口をきかず、ただ黙々とそばに寄り添ってブリットを守ります。彼は機敏にして冷静で、悪人たちを退治し終え、ブリットが悠々と現場を立ち去った後に1人戻り、床に倒れている悪人の中に、まだ意識のある者を見つけるとすかさず蹴りを入れ、完全に気絶したのを見届けてから、その場を後にするという周到さを見せたりもします。

              
              劇場版のDVD「ブルース・リー IN グリーン・ホーネット」

「バットマン」に続くヒット・シリーズになることを期待されて始まった「グリーン・ホーネット」でしたが、わずか1クール(全26話)で終了してしまいました。失敗の原因は、意外にも現代社会を反映させたシリアスな作品を作ろうとしたことのようです。1960年代当時は、まだまだ娯楽性の高い現実離れしたドラマの方が受ける時代でした。斬新なものを作ろうとした制作者側の意気込みが、空回りしてしまう結果となったのです。
「グリーン・ホーネット」には、「バットマン」に出てくるジョーカーやキャット・ウーマンのような荒唐無稽な悪役キャラは登場せず、街に巣食うギャング団や密輸組織など実際にいてもおかしくない凶悪な犯罪者たちが相手でした。また、第11話「人間狩り」に出てくる、社会の裏側で暗躍する者たちをターゲットに抹殺を繰り返す秘密組織の殺人リストに名があったことからもわかるように、世間の目からはグリーン・ホーネット自身も犯罪者と見なされる、いわゆるダーク・ヒーローであり、純然たる正義の味方として位置づけられなかったことも、人気を獲得できなかった要因だったといわれます。
こうして短命に終ったTV版「グリーン・ホーネット」ですが、やがてブルース・リーが世界的なスーパー・スターとなったことによって、闇の底から浮かび上がることになります。次回はそのことに触れたいと思いますが、まずその前に、「グリーン・ホーネット」と違って最初から日の目を見ることができたもう1つの幸運な仮面ヒーローもの「バットマン」との間に企画された、コラボのエピソードから話を始めることにしましょう。


【参考文献】
スクリーン・デラックス『ブルース・リー伝説』近代映画社、2002年
四方田犬彦著『ブルース・リー 李小龍の栄光と孤独』晶文社、2005年
松宮康生著『ブルース・リー最後の真実』ゴマブックス、2008年
関誠著「「グリーン・ホーネット」魅力の源泉はブルース・リーにあり!」『キネマ旬報』2月上旬号
 キネマ旬報社、2011年
ポール・ボウマン著、高崎拓哉訳『ブルース・リー トレジャーズ』トレジャーパブリッシング、2014年