1973年、「ドラゴンへの道」を撮り終えた後ブルース・リーは、少し休養をとって、それから次回作「死亡遊戯」に取りかかる予定でした。ところがその時、弟子でNBAのトップ・プレイヤーだったカリーム・アブドール・ジャバーが香港を訪れたのです。そこでブルースは、格闘シーンを一緒に撮ろうと彼を誘います。身長1メートル63センチ~72センチだったというブルースが、2メートル18センチの巨人カリーム(身長差46~55センチ!)と闘うのは、これ以上ないおもしろい見ものになるだろうと考えたからです。2人は1週間を共にし、練習から始めてあの名シーンを撮影しました。アクションに説得力を持たせるために、ブルースが300回近くも練習を繰り返した蹴りもあったそうです。
「死亡遊戯」のクライマックス・シーンは、塔<パゴダ>の内部が舞台です。各階でブルースは武術の達人たちと闘うのですが、そのフィナーレを飾るのが、カリームとの対決でした。
「死亡遊戯」の特別鑑賞券。未完に終った作品の思わぬ公開に、ファンは胸を踊らせました
ブルースはまた、アメリカ時代に第1回インターナショナル・カラテ・チャンピオン・シップで出会い、その後熱心な弟子となったフィリピン系アメリカ人のダン・イノサントを香港に呼び寄せます。この時のことをダンは後に、「映画の撮影はどうでもよかったんですよ。私は、ブルースと会って練習できることがうれしくて、ブルースと練習するために香港に行ったんです」と言っています(『ブルース・リー最後の真実』)。
「死亡遊戯」では、最初ブルースがバオ(バンブースティック。細長い竹の棒)、ダンがアーニスまたはエスクリマと呼ばれるフィリピンの伝統武術で使う2本のバストン(短棒)を使って闘い、次にはお互いにヌンチャクを取って、見事な技の応酬を披露しました。ちなみにブルースにヌンチャクを紹介したのはダンで、ブルースはこれをやすやすとマスターしたといいます。
次いで、韓国の合気道<ハブキドー>7段のチー・ハンサイ(池漢載)との闘いも撮影されました。あまりに過酷な撮影に、チーは金輪際ブルースとは映画に出たくないとコメントしています。
こうして、まず格闘シーンだけが撮影されました。そして、それ以外のシーンを撮影しようとしていた矢先、ワーナー・ブラザースと共同制作する「燃えよドラゴン」の話が決まり、「死亡遊戯」は一旦中断されます。その後、ブルースが急死してしまったために、レイモンド・チョウは彼と打ち合わせをした時のアイデアを生かし、新しい「死亡遊戯」を作ろうと試みます。
レイモンドは「燃えよドラゴン」を監督したロバート・クローズを起用し、武術指導にはサモ・ハン・キンポーを使いました。サモは敵の手下カール・ミラーを演じたロバート・ウォール(彼もブルースの弟子です)と試合をする武術家役で、役者として出演もしています。2人は「燃えよドラゴン」で、ブルースにやられた者同士でした。
「ブルース・リー 死亡遊戯」のパンフレッド。今度こそ最後だと思いきや、この作品の後にはなんと「燃えよドラゴン」の未公開シーンを使った「死亡の塔」が作られ、ファンは2度ビックリさせられます
ストーリーをざっくりと言うと、映画スターのビリー・ロー(ブルース)が、芸能界を食い物にする犯罪シンジケートに戦いを挑むというものです。オープニングでは、撮影現場ということで、いきなり「ドラゴンへの道」のチャック・ノリスとの格闘シーンを用いてしのぎ、その後はユン・ピョウらを代役に立てて話が進行します。アップの場面では、他のブルース主演作のフィルムを援用したり、顔だけ切り抜いたものを合成したり、さらには殺されたと偽って身を隠す必要があるというシチュエーションを作って変装させたり(ここでは、なんとブルースの本当の葬式の映像が使われています!)と、涙ぐましい(?)工夫でなんとか切り抜け、生前にブルースが撮影していたクライマックス・シーンへと繋ぎます。そしてラストでは、ビリーが敵のボスであるドクター・ランド(ディーン・ジャガー)が最上階で待ち受ける中華料理店のビルに乗り込み、ハキム(カリーム)ら凄腕の用心棒たちと、激しい死闘を繰り広げるのです。
こうして完成した「ブルース・リー 死亡遊戯」(GAME OF DEATH)は、1978年3月23日に香港、4月15日に日本で公開されました。ブルースの遺作ということでかなりの興行収入を上げましたが、天国の彼には目を覆いたくなるような出来ばえのものだったでしょう。
しかし、敵の本拠地に侵入した主人公が最初の相手と戦うために階段を昇りきったところで代役からブルース本人に入れ替わると、一瞬にしてスクリーンにピーンと緊張感が漲り、魔法のようにガラリとムードが変化します。そして、決して誰も真似することのできないブルースの発するオーラを、まざまざと感じるのです。
図らずも、この映画で改めて彼の偉大さを再認識させられました。その意味で「ブルース・リー 死亡遊戯」は決して忘れることのできない、印象的な作品となりました。
【参考文献】
リンダ・リー著、柴田京子訳『ブルース・リー・ストーリー』キネマ旬報社、1993年
ブルース・トーマス著、横山文子訳『BRUCE LEE:Fighting Spirit』PARCO、1998年
松宮康生著『ブルース・リー最後の真実』ゴマブックス、2008年
「死亡遊戯」のクライマックス・シーンは、塔<パゴダ>の内部が舞台です。各階でブルースは武術の達人たちと闘うのですが、そのフィナーレを飾るのが、カリームとの対決でした。
「死亡遊戯」の特別鑑賞券。未完に終った作品の思わぬ公開に、ファンは胸を踊らせました
ブルースはまた、アメリカ時代に第1回インターナショナル・カラテ・チャンピオン・シップで出会い、その後熱心な弟子となったフィリピン系アメリカ人のダン・イノサントを香港に呼び寄せます。この時のことをダンは後に、「映画の撮影はどうでもよかったんですよ。私は、ブルースと会って練習できることがうれしくて、ブルースと練習するために香港に行ったんです」と言っています(『ブルース・リー最後の真実』)。
「死亡遊戯」では、最初ブルースがバオ(バンブースティック。細長い竹の棒)、ダンがアーニスまたはエスクリマと呼ばれるフィリピンの伝統武術で使う2本のバストン(短棒)を使って闘い、次にはお互いにヌンチャクを取って、見事な技の応酬を披露しました。ちなみにブルースにヌンチャクを紹介したのはダンで、ブルースはこれをやすやすとマスターしたといいます。
次いで、韓国の合気道<ハブキドー>7段のチー・ハンサイ(池漢載)との闘いも撮影されました。あまりに過酷な撮影に、チーは金輪際ブルースとは映画に出たくないとコメントしています。
こうして、まず格闘シーンだけが撮影されました。そして、それ以外のシーンを撮影しようとしていた矢先、ワーナー・ブラザースと共同制作する「燃えよドラゴン」の話が決まり、「死亡遊戯」は一旦中断されます。その後、ブルースが急死してしまったために、レイモンド・チョウは彼と打ち合わせをした時のアイデアを生かし、新しい「死亡遊戯」を作ろうと試みます。
レイモンドは「燃えよドラゴン」を監督したロバート・クローズを起用し、武術指導にはサモ・ハン・キンポーを使いました。サモは敵の手下カール・ミラーを演じたロバート・ウォール(彼もブルースの弟子です)と試合をする武術家役で、役者として出演もしています。2人は「燃えよドラゴン」で、ブルースにやられた者同士でした。
「ブルース・リー 死亡遊戯」のパンフレッド。今度こそ最後だと思いきや、この作品の後にはなんと「燃えよドラゴン」の未公開シーンを使った「死亡の塔」が作られ、ファンは2度ビックリさせられます
ストーリーをざっくりと言うと、映画スターのビリー・ロー(ブルース)が、芸能界を食い物にする犯罪シンジケートに戦いを挑むというものです。オープニングでは、撮影現場ということで、いきなり「ドラゴンへの道」のチャック・ノリスとの格闘シーンを用いてしのぎ、その後はユン・ピョウらを代役に立てて話が進行します。アップの場面では、他のブルース主演作のフィルムを援用したり、顔だけ切り抜いたものを合成したり、さらには殺されたと偽って身を隠す必要があるというシチュエーションを作って変装させたり(ここでは、なんとブルースの本当の葬式の映像が使われています!)と、涙ぐましい(?)工夫でなんとか切り抜け、生前にブルースが撮影していたクライマックス・シーンへと繋ぎます。そしてラストでは、ビリーが敵のボスであるドクター・ランド(ディーン・ジャガー)が最上階で待ち受ける中華料理店のビルに乗り込み、ハキム(カリーム)ら凄腕の用心棒たちと、激しい死闘を繰り広げるのです。
こうして完成した「ブルース・リー 死亡遊戯」(GAME OF DEATH)は、1978年3月23日に香港、4月15日に日本で公開されました。ブルースの遺作ということでかなりの興行収入を上げましたが、天国の彼には目を覆いたくなるような出来ばえのものだったでしょう。
しかし、敵の本拠地に侵入した主人公が最初の相手と戦うために階段を昇りきったところで代役からブルース本人に入れ替わると、一瞬にしてスクリーンにピーンと緊張感が漲り、魔法のようにガラリとムードが変化します。そして、決して誰も真似することのできないブルースの発するオーラを、まざまざと感じるのです。
図らずも、この映画で改めて彼の偉大さを再認識させられました。その意味で「ブルース・リー 死亡遊戯」は決して忘れることのできない、印象的な作品となりました。
【参考文献】
リンダ・リー著、柴田京子訳『ブルース・リー・ストーリー』キネマ旬報社、1993年
ブルース・トーマス著、横山文子訳『BRUCE LEE:Fighting Spirit』PARCO、1998年
松宮康生著『ブルース・リー最後の真実』ゴマブックス、2008年