ひろむしの知りたがり日記

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「ロングストリート」実戦ジークンドー講座 (4) ─ テクニック編 ③

2014年07月26日 | 日記
怒りを爆発させてリー・チョンに食ってかかり、レッスンを中止されたマイク・ロングストリートは、翌朝、リーの骨董店を訪れました。脅しのために自分を襲った3人のうちの1人であるジム・ボルトに挑戦状を叩きつけたことを告げるロングストリートに、リーは冷たく言います。
「喧嘩好きなんだな。それを抑えないと、周囲の音は決して聞こえてこない」
指導を続けることを拒むリーにロングストリートも諦め、
「しかたない。ならば、このまま闘うまでだ」
と店を去りかけます。その時、ふと思いついたように話し出しました。
「君の訓練は、ただの護身術以上のものだ。君の指導中に何度か、心と身体の一体感を味わった。武術や格闘を超えて、ある種の平安を感じるんだ。そこには、敵意もない。これが君の言うジークンドーの極意なのかな? それさえ理解できれば、(武器としての)技を使わなくても、十分に学んだ価値がある」
その言葉を聞いて、ロングストリートが真理を悟り始めていることを感じ取ったリーは、彼のトレーニングを再開することにします。

次の訓練シーンでは「チーサオ」が行われます。これは接近戦において、対戦者の力を無力化したり、利用するための練習法です。向かい合って立ったロングストリートとリーも、互いの腕を粘りつくように絡め合わせながら、相手の動きと自分の動きを連動させようとしていました。
「いいぞ。そのまま細やかに」
そして調子が出てきたところで、リーがおもむろに放った攻撃に対してロングストリートは即座に反応し、リーの胸めがけて掌底を打ち込みました。
「素晴らしい!」
リーが満足の叫びを上げたところで電話がかかってきて、トレーニングは中断されます。
放映当時、これがブルースが本格的に学んだ最初の中国拳法、詠春拳独特の訓練法だということに気づいた者はほとんどいなかったでしょう。短いシーンですが、彼のチーサオが見られる貴重な映像だと思います。

ブルースの詠春拳入門書『基本中国拳法』

別なシーンで、リーはロングストリートに両目を指で突くフィンガージャブの練習をさせようとします。
目はゴーグルで防護しているから心配ないと言っても、ロングストリートは「僕にはできない」と頑なに拒絶しました。視力を失う苦しみを知っている彼には、それが実戦ではたいへん効果的な攻撃法だとわかっていても、どうしても相手の目を突くことができないのです。
「君を襲った男だったら、君の目をえぐるのをためらったと思うか?」
「それはそいつの問題だ」
「鳥や猫は考えずに狙う」
「僕は鳥や猫とは違って考える」
「そこが君の問題だ」
これは前回書いた、リーとロングストリートが喧嘩別れする原因ともなった問題です。
闘いの際に頭で考えることは、リーの最も嫌うところです。考えなくても身体が自然に反応して最も効果的な攻防を行うというのが、彼の、ジーンドーの目指す境地です。

どこまでも平行線の議論に、リーが折れます。彼は、相手の目の辺りの位置に攻撃をしかけ、瞬きしたところに横蹴りを入れる連続攻撃にレッスンを切り替えました。
なかなかうまく動けないロングストリート。「心と体がバラバラだ」というリーの指摘に苛立ち「どうやる?」と詰め寄ると、リーはただ手を叩いて、「もう1回!」と、考えずにひたすら練習を繰り返すことを求めます。

1週間足らずで、屈強なボルトに勝てる力を身につけなければならないロングストリートに、リーはさらにダーティーな戦法を教えました。
寝技の訓練で、押さえ込まれて身動きのできないロングストリートにリーは、「生き残るためにはどうする?」と訊ねました。答えられずにいると、「噛みつけ」と言います。そして接近戦では役に立つとしつつ、「下手に噛むと歯が折れる」とそのマイナス点を指摘することも忘れません。
「難しいな」と考え込むロングストリートにリーは、「覚えようとするから忘れる」と、相変わらず頭で理解しようとする彼を嗜めます。

頭脳的な戦略で不正行為を働く者たちを追い詰める保険調査員ロングストリートにとって、考えないというのはある意味、もっとも難しいことかもしれません。そんな彼にリーは、「水の理論」を語って聞かせるのです。


【参考文献】
ブルース・リー著、松宮康生訳『基本中国拳法』フォレスト出版、1998年
ブルース・トーマス著、横山文子訳『BRUCE LEE:Fighting Spirit』PARCO、1998年
中村頼永著『世紀のブルース・リー』ベースボール・マガジン社、2000年

「ロングストリート」実戦ジークンドー講座 (3) ─ テクニック編 ②

2014年07月21日 | 日記
ある日のトレーニング風景です。
マイク・ロングストリートの事務所の中庭で、リー・チョンはしなやかでスピーディーな蹴りを連発し、その音をロングストリートに聞かせて動きを感じ取らせようとしていました。そして、
「次は私に合わせて動け」
と指示します。それに従ってロングストリートが前へ後ろへとステップし始めると、すかさず厳しく叱咤します。
「違う! 漠然と動くんじゃない、私に合わせて動くんだ」
さらにリーは、「集中しろ」「心を開け、風を感じろ」「鳥の声が聞こえるな?」と矢継ぎ早に、感覚を研ぎ澄ませることを求めます。
次第に感じを掴んできたロングストリートに、リーはキックをしろと促しました。ロングストリートは即座に反応し、リーの方へ足を踏み出してサイドキックを繰り出します。
会心の蹴りにリーは大きく「よし!」と叫び、「どんな感じだった?」と問います。「自然に足が出た」というロングストリートの答えに、リーは「さあ、もう一度」と再びキックを要求しました。
ところが、無意識に放ったその蹴りがどうやって出たのかわからないロングストリートは、「待て、思い出す」と考え込みます。
それに対してリーは、「全然分かってない」と怒りを顕にしました。
「闘いは一撃では終わらない。考えることなくコンビネーションが使えなければならない。それができないのなら、ボディーガードを雇え!」

このシーンから、ブルース・リーを世界的なスターに押し上げた映画、「燃えよドラゴン」の名場面を連想する方は多いでしょう。
少林寺で武術を修行するリー(「ロングストリート」と同じ役名です!)が少年にキックを教える際に、やはり効果的な蹴りを放った少年が「どうだった?」と聞かれて思い出そうと天を仰ぐと、「考えるな! 感じるんだ」と諭します。ロングストリートに蹴り技を指南するシーンとそっくりのシチュエーションです。
少年との絡みは、ブルースの発案で撮影されたものだそうですが、「ロングストリート」のこのシーンが、彼の念頭にはあったのかもしれません。


ロングストリートに闘い方を教えるリー・チョンの姿は、まさしく武術家ブルース・リーそのものです

リーの厳しい言葉はさらに続きます。
「目のせいにするな! 耳で聞け」
そしてゆっくりとロングストリートの周りを歩いて、「私はどこだ?」と自分の居場所を音から感じ取らせようとします。そして見当違いの方向を指さす彼に、「違う! 考えるのをやめろ」と強い口調で言いました。
そんなリーに、ロングストリートがついに切れます。
「講釈はいいから、闘い方を教えろ!」
リーは苦笑を浮かべ、「そのうち分かる」と言うと、その場を立ち去ってしまいました。

スターリング・シリファントはこのシーンを、自身がブルースから受けたトレーニングに基づいて書きました。
ブルースは彼に目隠しをさせ、自分の動きに合わせて動くように指示し、それを何週間も続けさせました。このことによって、対戦者の身体の動きに注意を集中し、自分と相手との関係を理解させようとしたのです。
この印象的なシーンは、シリファントが実際にブルースの弟子ならではこそ、生み出されたものなのです。

リーから見放された直後、ロングストリートは不正を暴こうとしている運輸会社を挑発するために、彼を襲った男たちの1人である港湾労働者に決闘を申し込みます。無謀ともいえる闘いを前に、背水の陣のロングストリートは、再び教えを請うためにリーの骨董店を訪れるのでした。


【参考文献】
ブルース・トーマス著、横山文子訳『BRUCE LEE:Fighting Spirit』PARCO、1998年
中村頼永著『世紀のブルース・リー』ベースボール・マガジン社、2000年
松宮康生著『ブルース・リー最後の真実』ゴマブックス、2008年

「ロングストリート」実戦ジークンドー講座 (2) ─ テクニック編 ①

2014年07月14日 | 日記
スターリング・シリファントとブルース・リーが、ハリウッドでの成功へ一縷の望みを託してシナリオを書き上げた「ロングストリート」の1話、「THE WAY OF THE INTERCEPTING FIST(邦題:波止場の対決)」では、主人公マイク・ロングストリートとリー・チョンの出会いのシーンにおいて、早くも「ジークンドー=拳を截<さえぎ>る道」の威力が鮮烈に発揮されることになります。
3人の暴漢に襲われてピンチに陥ったロングストリートを、たまたま通りかかったリーが一瞬のうちに全員を倒して救ったのです。「奴らに何をしたんだ?」と問うロングストリートに、リーは「彼らは自滅したのさ」と答えました。どういうことなのでしょう?

この闘いでリーが使った技は、すべて相手の動きに対して自然に反応し、繰り出したカウンター攻撃でした。つまり彼らは、自分の動きを利用された結果、倒されることになったのです。そのことを、リーは「自滅」と表現したわけです。
リーの技を学びたいと彼の骨董店を訪れたロングストリートに対し、リーはいいます。
「私はシステムというものを信じない。また、メソッド(方法)も信じない。システムなし、メソッドなしで、一体何が教えられる?」
しかし、そんなリーも生まれつき強かったわけではない、最初は学んだはずだ、とロングストリートは食い下がります。リーもそれは認めつつ、「“私の無学の原点”を見つけたんだ」と答えました。
ジークンドーはあらゆる形式や方式に拘束されず、「無法を以て有法と為す」を理念としています。形がないからこそ、あらゆる状況に適応できるというのがブルースの考えでした。これは有名な「水の理論」に繋がるものですが、詳しくは先に書く予定の「哲学編」で述べることにしましょう。

リーはなかなかロングストリートの願いを聞き入れてくれませんでしたが、彼も必死ですから、簡単には引き下がりません。
「“私の”(無学の原点)を見つけるのを手伝ってくれ」
リーは、とうとうロングストリートにジークンドーを指南することを引き受けます。


日本ではTV放映されなかったパイロット版も収録された「ロングストリート」DVDボックス(2007年)

事務所の中庭で、ロングストリートがサイドキック(横蹴り)のやり方を教わっています。彼はリーが構えるクッションに思い切りキックを放ちますが、足先だけの蹴りなのでびくともしません。そこでリーは、今度はロングストリートにクッションを持たせ、本物のキックの威力を体感させようとします。リーの腰の入った、体全体を使った強烈なサイドキックをまともに食らったロングストリーは、後方に大きく吹っ飛ばされてしまいました。そのさまを目撃したデューク・ペイジ部長は感嘆し、
「一体、君がやるそれは何なんだ?」
とリーに問いかけます。それに対してリーは、
「広東語で“ジークンドー”、つまり“拳をさえぎる道”といったところです」
と答えました。「“拳をさえぎる”ねえ・・・」と呟くペイジに、リーは「“蹴り”もですよ」と付け加えます。そして、
「さあ、どこなりと私に触れてみてください。何をしても構いませんよ」
と促しました。ペイジがパンチを打ち込もうと前に出ると、リーはその膝頭へ低いサイドキックを飛ばし、ペイジの動きを止めます。
「わかりましたか? 私に触れるために、あなたは近づいてこなければなりません。あなたが繰り出した一撃が、私にあなたをさえぎるチャンスを与えてくれたのです。この場合、私は自分の最も長い武器であるサイドキックを、最も近いターゲットであるあなたの膝頭に対して使いました。これはボクシングの左ジャブのようなものですが、もっと威力があります」
と説明しました。「なるほど」と言いつつペイジが、突然左ジャブをしかけようとした瞬間、リーは素早くフィンガージャブをペイジの顔面すれすれに放ち、彼の攻撃を阻みます。
「今度は、あなたの精神的緊張をさえぎりました。(左ジャブを出そうという)あなたの考えが拳に伝わるまでに、どれだけの時間が失われたかわかったでしょう」

ブルースはしばしば生徒たちに、武術の多くが相手の攻撃をブロックした上で反撃するというワンツー攻撃法を教えますが、ブロックと攻撃を同時に行えばもっと効率的だと説明していました。実力がついて、意識が高度に調律された状態になると、相手が動いた途端に迎え撃てるようになります。さらに最も洗練された段階では相手の攻撃しようという意思を感じ取り、それが開始される前に無効にしてしまうことができるというのです。そこまでいければ、およそいかなる敵と闘っても、決して敗北を喫するようなことはないでしょう。

今回紹介したシーンを見るだけで、ジークンドーの思想と技術の真髄がこのエピソードの中に見事に表現されていることがわかります。ブルースがたった32年の短い生涯の中で、最後に出演したテレビ・ドラマにおいてこのようなフィルムを遺してくれたことは、ファンや研究者にとってまさに奇跡といってもいい恩恵でしょう。
そうしたファンの1人として、次回も目が見えないというハンディを抱えたロングストリートが一人前のファイターに成長するために、リーがいかなる教えを授けていくのか、手に汗握りながら見守りたいと思います。


【参考文献】
ブルース・トーマス著、横山文子訳『BRUCE LEE:Fighting Spirit』PARCO、1998年
中村頼永著『世紀のブルース・リー』ベースボール・マガジン社、2000年
松宮康生著『ブルース・リー最後の真実』ゴマブックス、2008年

「ロングストリート」実戦ジークンドー講座 (1) ─ オリエンテーション

2014年07月07日 | 日記
1965年頃のある日、ブルース・リーが弟子であり、親友でもあるダン・イノサントとドライブをしていた時のことです。ブルースは、フェンシングで最も効率的な反撃法は1つの動作で受け流しと反撃を同時に行う“Stop-Hit”だと話しました。これは、攻撃された時に相手の動きを、自分から繰り出す突きで迎撃するもので、あらゆる反撃法の中でも最も効率的なやり方だというのです。ブルースが「僕たちのやり方も『ストップ=ヒット拳法』とか、『迎撃拳法』とでも呼ぶことにしようか」と提案します。「中国語では何というんだい?」とイノサントが聞くと、ブルースは「ジークンドー(Jeet Kune Do、截拳道)かな」と答えました。これが、ブルースが自らの武術体系を呼称するのに用いた「ジークンドー」という語が誕生した瞬間です。

ジークンドーの思想が色濃く反映されたテレビドラマがあります。それは、1971年から72年にかけて、米国のABCが放映した毎回60分のシリーズ「ロングストリート(LONGSTREET)」の中の1話です。このドラマは、日本では1976年にテレビ東京で放映されました。邦題は「復讐の鬼探偵ロングストリート」といいます。
製作総指揮を務め、脚本をも書いたスターリング・シリファントは、イノサント同様ブルースの弟子にして友人です。彼は「夜の大捜査線」でアカデミー脚色賞を受賞し、「ポセイドン・アドベンチャー」や「タワーリング・インフェルノ」も手がけた敏腕脚本家・製作者です。
彼は、「グリーン・ホーネット」が終了して以来目ぼしい役に恵まれないブルースが俳優としてのキャリアを積む手助けをしようと、新しく作られるテレビシリーズ「ロングストリート」の中に、彼の役を盛り込みました。そしてこの話には、「THE WAY OF THE INTERSEPTING FIST(拳をさえぎる方法)」というタイトルがつけられました。まさに「ジークンドー」を英語でいったものです。

ブルースの協力を得ながら書かれたこの話には、盲目の主人公に自分の身を守るための闘い方を教える武術指導者が描かれています。1971年12月9日に収録された「ピエール・バートン・ショウ」のインタビューでブルースは、あの場面では自分自身を演じたのだと語っています。この1話は彼の格闘における方法論と哲学の集大成でした。これは後に、映像に遺された彼の最も重要な仕事の1つに数えられることになります。

ブルースの武術論をまとめた『魂の武器』

優秀な保険調査員であるマイク・ロングストリート(ジェームズ・フランシスカス)は、鋭い着眼点と粘り強い捜査でいくつもの不正行為を摘発してきました。それだけに、彼に恨みを持ったり、邪魔だと感じている者たちが大勢いたのです。そして、ついに悲劇が起こります。シャンパンに仕掛けられた爆弾によって、愛する妻と自らの視力を失ってしまいました。しかし彼は、不屈の意思をもって調査員としての活動を再開します。
そんな彼を支えるのは盲導犬のパックスと、音で向けた物との距離を知らせるエレクトロニクス仕掛けの杖、そして点字を教えてくれたニッキー・ベル(マーリン・メイソン)や、友人で仕事のパートナーであるデューク・ペイジ部長(ピーター・マック・リッチマン)らです。さらにロングストリートの前には、思わぬ救世主が現れます。それが、ブルース演じる中国人骨董商のリー・チョンです。

ある晩、1人で通りを歩いていたロングストリートは、彼に脅しをかけようとする3人の暴漢に襲われ、通りかかったリーに救われました。ロングストリートはリーのように闘う術を学びたいと望みます。リーは、最初はそれを断りましたが、やがてロングストリートの真剣な思いに心を動かされ、「私は教えることはできないが、あなたが自分自身を探究する手助けならできるかもしれない」と協力を引き受けるのです。

リーはロングストリートに、ステップ・ワークに始まり、詠春拳のチーサオ、フィンガー・ジャブ、サイド・キックから噛みつきに至るまで、ありとあらゆる実戦的な技を教え込みます。これらはすべて、ジークンドーにおけるテクニックです。このエピソードはまさに、ジークンドーの入門フィルムといってもよい内容になっています。
それでは、次回はいよいよ、それらについて具体的に見ていくことにしましょう。


【参考文献】
ブルース・リー著、風間健編『魂の武器 截拳道への道』福昌堂、1980年
ブルース・トーマス著、横山文子訳『BRUCE LEE:Fighting Spirit』PARCO、1998年
松宮康生著『ブルース・リー最後の真実』ゴマブックス、2008年