ひろむしの知りたがり日記

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お台場と剣豪斎藤弥九郎の意外な関係 ─ 都立台場公園

2012年12月03日 | 日記
レインボーブリッジが架かる東京湾内に、幕末に築造された海上砲台の跡があります。
いわゆる「お台場」で、嘉永6(1853)年6月にアメリカのペリー艦隊が最初に浦賀に来航した後、その再来に備えて幕府が海防強化のために設けたものです。
正式には「品川台場」といいます。伊豆韮山<いずにらやま>代官で砲術家の江川太郎左衛門英龍<ひでたつ>の献策により、内海防備の充実を目的として南品川猟師町から東北の深川洲崎<すざき>(江東区東陽)間の海中に、連珠のように11基の台場を並べようというのです。ペリーが去って2ヵ月後の8月21日から台場の建設が開始されました。太郎左衛門は計画設計と備砲の製作を担当しました。

「お台場」遠望

話は変わりますが、太郎左衛門は岡田十松吉利<じゅうまつよしとし>の剣術道場撃剣館で神道無念流を学んでいます。2年で免許皆伝を受け、撃剣館四天王の一人に数えられていますから、剣の腕は相当なものでした。同門には水戸藩の藤田東湖、三河田原藩の渡辺崋山<かざん>、蘭学者の高野長英らそうそうたる面々がいました。その一人で、直接太郎左衛門の指導に当たったのが斎藤弥九郎善道です。

斎藤弥九郎と言えば、千葉周作の玄武館、桃井春蔵<もものいしゅんぞう>の士学館と共に江戸三大道場と並び称された練兵館の主です。二人の絆は強く、文政9(1826)年に弥九郎が九段下俎板橋<まないたばし>に練兵館を開いた時には太郎左衛門が援助しています。天保6(1835)年に太郎左衛門が伊豆韮山の代官職に就くと、弥九郎は請われてその手代となりました。品川台場の建設の際には工事が始まった当初、弥九郎は太郎左衛門から湯島馬場大筒鋳立場の大筒鋳造御用掛を命じられています。太郎左衛門が工事を指揮し、弥九郎が現場監督を務め、弟子で長州藩士の桂小五郎(後の木戸孝允<たかよし>)が弁当持ちの従僕として現場に日参したという話もありますが、それはどうも違っているようです。
桂にはこんなエピソードがあります。台場建設に当たって太郎左衛門と弥九郎が海上視察に出た時、志願して舟を漕いだのが桂でした。ところ彼のミスで舟が転覆し、一同は海の中へ落ちてしまいます。桂は後に練兵館の塾頭にまでなりますが、こんな間抜けな出来事もあったのかと考えると、少し楽しい気がします。

台場築造には山を削り、海を埋めて大砲を据える人工島を造るという方法がとられました。工事は昼夜兼行で行われ、関東各地から集められた材木や石材、土砂を運ぶ船は2,000隻、土方・石工などは5,000人、築造経費は備砲を除く台場構築費だけで75万両に及びました。
着工から8ヵ月後の安政元(1854)年4月、第一から第三台場までが完成します。第五・第六は1月着手、11月に完成しました。しかし第四と第七は財政難などの理由から5月に前者は七分、後者は三分程度の進行状態で中止、第八以下は着手すらされませんでした。そして台場完成前の同年1月にペリーが再来し、3月には日米和親条約が締結されて日本は開国への道を歩み始めたので、結局これらの台場が実戦に使用されることはなかったのです。

明治になって陸軍省の管轄に入りますが、昭和元(1926)年12月20日に国史跡に指定された第三・第六台場を残し、他は埋め立てられたり、撤去されて姿を消します。
史跡として整備されているのは東京臨海新交通ゆりかもめのお台場海浜公園駅から徒歩12分にある亀甲型をした第三台場です。関東大震災で被害を受けましたが修復され、昭和3年7月7日に台場公園(東京都港区台場1-10-1)として開放されました。


台場公園として開放されている第三台場

第三台場は昭和43(1968)年の有明埠頭完成により、堤防で陸続きとなりました。面積約29,963.4平方メートル、周りを高さ5~7メートルの石垣で囲み、その上に土手が築かれています。36ポンド砲が配置されていた砲台跡がある土手の内側は5メートルの深さで掘りくぼめられており、弾薬庫やかまど、陣屋などの跡を見ることができます。


台場公園内の砲台(上左)、弾薬庫(上右)、かまど(下左)、陣屋(下右)の跡


第三台場からレインボーブリッジの方を眺めると、もう一つ残されている第六台場(港区台場1-11)が見えます。イロハモミジ、クロマツ、ケヤキ、オオシマザクラなど多種多様な植物や野鳥の宝庫で、学術的にも貴重な場所です。そこで、保全のために立入禁止となっています。


豊かな自然に恵まれた第六台場


【参考文献】
国史大辞典編集委員会編『国史大辞典』第6巻他、吉川弘文館、1985年他
仲田正之著『江川坦庵』吉川弘文館、1985年
戸部新十郎著『日本剣豪譚 幕末編』光文社、1993年
木村紀八郎著『剣客斎藤弥九郎伝』鳥影社、2001年
是本信義著『時代劇・剣術のことが語れる本』明日香出版社、2003年
一坂太郎著『幕末歴史散歩 東京篇』中央公論新社、2004年
加来耕三著『評伝 江川太郎左衛門』時事通信社、2009年

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