


昭和31年当時の史料を見ると、メーカー各社は真空管ラジオの量産体制を整え、
①高級タイプ(大出力対応トランス式Hi-Fi型 中波/短波 ¥25,000~15,000前後)
②中級タイプ(トランスレス式 中波/短波 ¥15,000~10,000前後)
③普及タイプ(トランスレス式 中波専用 ¥10,000~6,000前後)
といった各クラス別けを明確に行ない、多くの種類の真空管ラジオを発売している。
昭和31年(1956年)に発売されたシャープ5M-82は、普及タイプの中で最もリーズナブルな価格帯の¥6,200で売られていた中波(MW)専用小型卓上型mT管トランスレス式ラジオである。
デザインは、曲面を一切排除したボクシーなフォルムを基調とし、クラシカルな雰囲気が漂う。

メーカー:早川電機工業(SHARP)『シャープラジオ 5M-82』
サイズ : 高さ(約15.5cm)×幅(約31cm)×奥行き(約12cm)
受信周波数 : 中波 530KC~1650KC
使用真空管 :12BE6(周波数変換)、12BD6(中間周波数増幅)、12AV6(検波&低周波増幅)
35C5(電力増幅)、35W4(整流)
電気的出力 : 最大1W 電源 : 50~60c/s 100V 消費電力 : 23VA

50年の時を経た5M-82のキャビネットにはかなりの汚れ、傷があり、底板にも小さなクラック等がある。
底板にあるネジを外してシャーシーを取り出すと、周波数指針はダイヤル糸にネジ止めされていたり、バリコン、IFT、電源トランス・ケミコン・ペーパコン・抵抗の一部も自社銘柄を使用しているなど、丁寧なつくりである。
しかし真空管はメーカー不統一・・・やばい、また誰かの手によっていじられたのか。黄色の新しいアンテナ線が接続されている。トリマー等をいじってなければいいのだが。

オークションのコメントでは「動作品」ということであったが、いつものように焦げた部品、膨れたコンデンサーはないか、PL配線の被覆等チェック。とりあえず電源プラグを挿して、電源を入れてみた。
パイロットランプが灯り、5球スーパー独特の雑音が聞こえてくる。選局ダイヤルを回すと、雑音がひどく市内の民放中継局は強力に受信するが、10km離れたNHK中継局(共に1kW)は弱々しい。
う~ん、微妙だぞ! 不安感が増幅する。
自慢?と相談を兼ねて、ラジオ病仲間(本人は否定)の音響の匠氏の事務所に持ち込んだところ、先に来ていたラジ男氏が、「店長~、まだ懲りずに真空管ラジオ集めてるんですか?病気っすね!」 と、悪態をつく。
事務所で2時間ほどラジ男氏のGW四国一人旅の土産話やオーディオ談義ほかバカ話後、知人が設計した近くの洋風居酒屋&レストランでランチを食べ、帰宅した。

やはりバリコンのトリマーをいじって修理した痕跡がある。またコンデンサーのキャパシティ、レジスタ不良、コイル関係の容量変化等などが発覚。
初期のmT管トランスレス式ラジオは容量を変えれない発振コイルを使用しているため、新品時の規格まで調整することは困難らしい。(音響の匠氏は、各種測定器と長年の経験値を基にいつも限界値まで設定を追い込んでいただき、ホント感謝です。ただしナショナル製IFTは破損の可能性が高いため、絶対に調整してくれない。リスク管理を含めた匠氏の技に脱帽です)
ん~、困った。コンデンサーだけでも交換して様子を見みるか、しばらく放置するか・・・ アタシゃあ、こういったモヤモヤ感やストレスを楽しめるほど、人間ができてませんぜ。
翌日、トホホ・・・な気分で事務所を再度訪ねると、「不燃ゴミは邪魔だから、早く持って帰ってくれよ!」と呟く匠氏。 こんなリアクションの時は、何か進展があった証拠。
怪訝がる匠氏をよそに、慌ててACプラグを差し込み電源を入れてみた。
おぉっ・・・!! ボリュームには酷いガリ音があるものの、バリコンを回してみると今までとは雑音の状態が違う。地元の民放中継局とNHK中継局(共に1kW)、さらに弱いながらも隣接県の民放局まで入感する。
嬉しくなって、思わず素手でシャーシーを持ち上げ、感電しそうになるボクを横目に匠氏はニヤリ。

シャーシー内部の部品はオリジナルのままのため、硬化したACコード、ペーパーコンデンサー・抵抗の類(たぐい)は、安全のためにも後日、自分で交換することにした。せっかく調整を追い込んだラジオも、コンデンサーや抵抗を新品に交換すると定量変化が発生し、再調整を必要とする。
その節は、匠氏、よろしくお願いしますぜ!

汚れの酷く傷だらけのキャビネットと透明周波数表示パネルを洗浄し、コンパウンドを使って丹念に磨いたが、四角い孔でデザインされているフロント・キャビネットは特に根気がいる。透明周波数表示パネルには2つのダイヤルの裏に隠しネジがあり、取外すことができるため、プラスチッククリーナーとガーゼで丁寧に磨き、また左下の真鍮で装飾された脚、Sharpエンブレムもコンパウンドで研磨して酸化皮膜を取ると新品時のゴールドの輝きをとり戻した。

昭和31年(1956年)当時発売されていた、シャープ5M-82と同クラスの中波専用mT管トランスレス式ラジオには、下記の機種がある。
シャープ 5M-82 (¥6,200) ゼネラル 5M-408(¥6,700) オンキョー OS-12 (¥7,980)
サンヨー SS-35 (¥6,300) ビクター R-2000(¥8,800) マツダ かなりやG(¥6,900)
ナショナル CX-430(¥― ) トリオ 5M-2 (¥6,500)
サンヨーSS-35の記事では昭和31年の国家公務員の給与から当時のラジオの価値を計ったが、物やサービスの種類によって、価格の上昇率がまちまちであるため、お金の価値を単純に比較することはなかなか困難です。
そこで、「今の物価は、昭和31年と比べてどのくらいの水準なのか?」という設問に置き換え、昭和31年当時に 1万円で取引されていた物が、現在は何円ぐらいなのか?ということから、大体の価値が見えてきます。
今回は、消費者物価指数で算出してみた場合、
1776.7(平成16年消費者物価指数)÷300.2(昭和31年消費者物価指数)=5.92
当時の価格を現在の価値観に照らし合わせると、約6倍となる。
つまり当時¥6,200の廉価版の中波専用mT管トランスレス式ラジオでも、今の感覚で言うと¥37,200ということになる。
いずれにしても国民にとって、ラジオはまだまだ高級家電製品であった時代という訳ある。