昭和三丁目の真空管ラジオ カフェ

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ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-41G Sky Rider Jr. (2)

2008-11-04 | アメリカ製真空管ラジオ
短波帯の受信を主目的としたラジオや受信機では、十分な感度や選択度に加え、チューニングダイヤルをごく僅か動かしただけで周波数が大きく変化する特性にどう対応するか、という点も重要だ。S-41G "Sky Rider Jr."の周波数同調回路について検証する。
 この問題をクリアするために、S-41G "Sky Rider Jr."にも周波数同調回路のメイン・バリコン(MAIN TUNINGダイヤル)に、電気的な周波数微調整を行なうバンド・スプレッド用回路(FINE TUNINGダイヤル)を装備している。
 S-41G "Sky Rider Jr."やS-38の元祖と言われるEchophone EC-1 のバンドスプレッド・ダイヤルのスケールは左右に動く横行きタイプだった。
    
    ▲Echophone EC-1 の横行きタイプのバンドスプレッド・ダイヤルスケール
EC-1A以降、メインダイヤルとバンドスプレッド・ダイヤルの周波数スケールを左右対称に配置した特長的なレイアウトを採用。以後、S-41GやS-38シリーズへと受け継がれ、Hallicrafters 入門用短波受信機のアイデンティティとなる。
    
    ▲S-41G "Sky Rider Jr." の左右対称タイプのバンドスプレッド・ダイヤルスケール
    
    ▲レイモンド・ローウィによりデザインされたS-38のバンドスプレッド・ダイヤルスケール
 通常、短波受信機の周波数同調回路には、メイン・バリコンの横へバンド・スプレッド用バリコンが取付けられているか、またはS-38のようにメイン・バリコンと一体型のバンド・スプレッド用バリコンを糸掛けドライブで駆動する方式が採用されている。 ところがS-41Gのキャビネットの中を覗いて見たところ、バンド・スプレッド用バリコンが見当たりません・・・!
    
 ウェブサイト Noobow System Lab. の記事を拝読すると、EC-1/EC-1A とEC-1B/S-41Gとでは、バンドスプレッド機構が大きく異なることが判明した。
EC-1/EC-1Aは、メイン・バリコンと一体型のバンド・スプレッド用バリコンを オーソドックスな糸掛け方式で左右のチューニングつまみから駆動します。
    
これに対しEC-1BやS-41Gは、周波数スケールを左右対称に配置したレイアウトは同じながら、 バンド・スプレッドはシャーシ下の局発コイルの中にあるコア棒を移動させる方式へ変更されている。この方式は、下記 ①、② の2連タイプの糸掛け方式であり、各糸掛けの途中にはロードスプリングが入っています。

① バンド・スプレッドつまみのシャフトとダイヤル指針のついたシャフトが糸掛けでつながれ、シャーシを垂直に貫通するシャフトを回す
②シャーシ下面の糸掛けにより、局発コイルの中にあるコア棒を往復作動させる
    
 複雑な機構でフリクッションロスが多く、ダイヤル操作感も良くないこの方式は、バンド・スプレッド機能としては不利である。なぜこうした複雑な機構を採用したのかは不明ですが、コストダウンを図ったのか、一体型バンド・スプレッド用バリコンの供給が滞っていたのか、その背景は定かではない。 いずれにしてもユーザーから不評だったため、 S-38 ではメイン・バリコンと一体型のバンド・スプレッド用バリコンに戻されています。

 出品者の方によってあらかじめ電源平滑用の電解コンデンサ3個とPHONEジャックの抵抗を新品に交換されています。またIFT(455kHz)の調整も行なわれているとのこと。S-41Gは60年以上の時間を経過しても、これだけの部品交換だけでちゃんと動作する当時のアメリカ製製品の品質には敬服してしまう。
    
 電源プラグを家庭用の100Vコンセントにつなぎ、BAND SELECTスイッチを「1」(中波)に切替え、電源スイッチ付音量調整ヴォリュームをONにすると、フロントパネルの半円形周波数表示部にオレンジ色のパイロットランプが点灯する。裏蓋の無いリアパネルからは、GT管のプレートが灯り、部屋の電気を消すと幻想的な世界がそこに広がる。
ん・・・・・?? S-41Gのスピーカーから僅かなハム音は聞こえるが、空電ノイズは聞こえない。 そうだ、アンテナを繋いでなかった!(笑)
    
 しばらくするとスピーカーから静かに空電ノイズが聴こえ、左側にあるMAINダイヤルのチューニング用ツマミを回すと、ノイズから浮かび上がるように放送が聴こえてきた♪  短波帯の低域付近でチューニング用ツマミを回すと、何故かバリコンにガリがあります。バンド・スプレッドつまみを回すと、確かに周波数の微調整は行なえますが、可変範囲は狭く、フリクッションロスが多く、ダイヤル操作感もS-38と比べると不満が残る。ただ短波帯域の感度はイマイチながら、中波の感度はバッチリ!(^-^)v  所詮は5球スーパーと言いながら、感度や選択度は、あきらかに国産の家庭用5球スーパーと異なる。世界中からの電波を聴くことができるパフォーマンスは本当にすごい。

 S-41G "Sky Rider Jr."のチューニングダイヤルをアメリカ合衆国政府(USIA:合衆国情報庁)が公式に運営する国営短波ラジオ放送局、ボイス・オブ・アメリカ (The Voice of America 略称:VOA) の強力な電波に合わせ、彼らの主張する国際情勢やアメリカ国内の話題、歴史や文化・音楽などのプログラムに耳を傾けながら、日本とアメリカの関係に思いを巡らせた。

 戦後、日本は、アメリカの開発したラジオや通信機、家電あるいは自動車・産業機械といった様々な分野の工業製品の基礎技術を吸収し、発展してきた。また"アメリカ製"の堅牢な品質を分析・取捨選択することで、 "ビジネス" として改善・進化してきた "日本人のモノづくりへのこだわり" こそが、アメリカを凌駕し今日の日本の繁栄を支えているのだと思う。  
その反面、戦後、食料をはじめ教育、文化等あらゆる物質的あるいは精神的価値観がアメリカから流れ込み、それらを何疑うことも無く受け入れてきた自分自身を含めた日本のあり方に疑問を抱いた20代・・・ 
ボクは、アメリカや東南アジア、中東からヨーロッパを旅する中で、 "日本人としての何か" が自然派生的に芽生えていることに動揺を隠せない自分と対峙していた。
    
 バブルの終焉と自分の生き方の微妙なすれ違いに微妙な違和感を感じていた最中(さなか)、ブルース・スプリングスティーンを真似る悲しい日本人に扮したジャケット、浜田省吾のアルバム「Father's Son」に収録されている唄に出会った。
ボクに一つの答えを与えてくれた 『Rising Sun~風の勲章~』 は、戦後の焼け野原からバブル経済に辿り着くまでのこの国の姿が歌われている。

  焼け野原で学んだものと、経済大国になって忘れてしまったもの。

 真の国力とは、国家資産や経済力、軍事力などではなく、その国が培ってきた普遍的な価値観、歴史、文化である。
にもかかわらず、我々は  「日本とは何か」  「日本人として何を誇るのか」 という自らの問いかけすら忘れ、唯一の精神的支柱とも言える『恥』という概念さえも捨て去り、世界に向け主張できる価値観など、無くしてしまった。 それが国としての存在に関わる根源的な問題であることに、誰も気づこうとすらしない。 今、この国は、すでに国家としてのありようを完全に失ってしまっている。 日本はもはや、「亡国」と化してしまったのだろうか。本来、日本人の持つ "精神的価値観" さえも捨て去り始めた'90年代のバブル崩壊以降の "脆さと危さ" を、仕事やプライベートで日本を離れるたびに感じずにはいられない。
    
    ▲浜田省吾Father's Sonのジャケットはブルース・スプリングスティーンを真似る悲しい日本人
 『Rising Sun~風の勲章~』で時折流れるシーケンスのフレーズが心地良く、80年代のロック・サウンドのお手本になるようなアレンジ。深いディストーションでありながらも粒子の細かいギターサウンドは、理想の音の一つだ。
 いみじくもの今日、ダンスミュージックに乗せたギリギリの高音域の女性ボーカル-という新しいエンターテインメントで頂点に上り詰めた、某超大物音楽プロデューサーが大阪地検特捜部に巨額詐欺容疑で逮捕された。音楽プロデューサー、作曲家として、彼は時代に愛され、時代から見放されたのだろう。人々が真に求めていたものは、虚しいトランス状態ではなく、 "心に触れる音楽" だったのではないだろうか?

 時代認識や世相を歌うことに対して懐疑的なアーティストやオーディエンスも多い昨今、浜田省吾のそれは決して政治やイデオロギー的な立場からのものではなく、「君が好きだ」という感情も、この国の行方を憂う気持ちも、極めて個人的な感情から生まれている。
浜田省吾の歌う曲の主人公は常に迷い、もがき抗いながら生きていることが殆んどだ。だからメッセージは、いつもその背景の向こう側にある。そのメッセージを受け取れる人は、同じようにもがき苦しんでいる人だろう。だからこそあれだけ多くの人に届き、30年間を経てもなお多くのファンに支持され、共感を得ているのだと思う。

 日本敗戦の翌年に生まれたS-41G "Sky Rider Jr." から聞こえる、アメリカ合衆国の国営ラジオ放送局The Voice of America の論調に、親しみと敬愛するアメリカではあるが、彼の国の大義へ追従するだけの日本に疑問を抱く自分の中のDNAが葛藤するの夜、S-41Gのスイッチを切り、久しぶりに愛用のBOSEオーディオシステムで浜田省吾のアルバム「Father's Son」に聴き入った。

でもよく考えれば、このBOSEオーディオシステムも、しっかりアメリカ製じゃん!・・・・・などとどうでもいいことを "文化の日" に思う、店長の "憂い" はいつまで続くのやら・・・です(笑)

■前回の記事 ハリクラフターズ ( Hallicrafters ) S-41G Sky Rider Jr. (1)
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