昭和三丁目の真空管ラジオ カフェ

昭和30年代の真空管ラジオを紹介。
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LUXMAN NEO CLASSICOシリーズ SQ-N100/D-N100

2008-06-03 | 三流オトコの二流品図鑑
オーディオの世界でも急速な進歩を遂げるデジタル・テクノロジー。そんな流れに反するように、アナログ・オーディオの象徴・真空管アンプが静かな人気を集めている。ある日、知人から「真空管のミニコンポを買ったよ~♪」と連絡があった。
 真空管のミニコンポ???  元来、レコードプレーヤー、アンプ、スピーカーなどが独立した製品として幅17インチ(約432ミリ)のフルサイズコンポーネントで提供されてきたオーディオシステムが真空管アンプやアナログ・オーディオの主役だった。しかしCD(コンパクトディスク)の出現とともに、その横幅を縮小し、サイズにこだわらず据置型でスピーカーを分離できるオーディオシステム全般が「ミニコンポ」と呼ばれ、フルセットで3~7万円台の手軽なオーディオ機器として今日に至っている。
 ところがPCや携帯電話、デジタルオーディオプレーヤーの圧倒的な普及と“音にあまりこだわらない”そして“リスニングはヘッドフォン中心” といった傾向の若年層と、音楽よりも “音” そのものにこだわりフルサイズオーディオシステムに走る “オーディオが好き” である40代以上の年齢層の二極化で、ミニコンポの存在感そのものが希薄なものとなってしまったと言えよう。
        
        ▲60万のミニコンポ? TANNOY Autograph miniとD-N100/SQ-N100
 そんな中、今回知人が購入したという「真空管ミニコンポ」は、LUXMANのNEO CLASSICOシリーズ CDプレーヤーD-N100 ¥126,000 / 真空管プリメインアンプSQ-N100 ¥189,000(希望小売価格税込)とスピーカーにTANNOY Autograph miniを組合わせたミニシステムであった。
LUXMANのセットの魅力は何と言っても、A4サイズに底面積をまとめたコンパクトなサイズと洒落たデザイン、往年の名作モデルにも冠された、「SQ」という型番が物語る出力管にEL84をプッシュプル構成で使う真空管アンプだ。一般的に真空管アンプはシングル方式とプッシュプル方式に大別される。シングル方式は出力管をchあたり1本用いて増幅を行い、プッシュプルはchあたり2本、若しくは4本のペアリングを組んで増幅しているものだ。
出力を大きく取れるのはプッシュプル方式であり、出力は小さいもののサウンドの質感を重視したいのであればシングル方式と言われている。
        
        ▲出力管にEL84を採用したプッシュプル構成のSQ-N100
 LUXMAN(ラックスマン)というブランドは、30代後半~40代の人なら、10代の頃に全盛を迎えた自作オーディオブームに憧れの存在でもあったラックスキットの親会社だったという方がピンと来るという人もいるだろう。1925年創業のラックスを前身とし、そのオーディオ製品のブランドであったラックスマンを引き継いだ現在のラックスマンは、いまだ日本のオーディオブランドとして、独自の地位を築いている。量販向け製品ではなく、あくまでも音の質感にアイデンティティを求めてきたが故に一般のブランド認知は比較的低いかもしれないが、オーディオに興味を持つ人たちにとっては、今も昔も変わらず、特別な存在として人気がある。
        
        ▲底面積A4サイズのコンパクトサイズと洒落たデザインSQ-N100
 一方のスピーカーTANNOYは、イギリスの高級メーカーである。1954年に発表されたコーナー設置型バックロードホーンスピーカーTANNOY Autographのデザインコンセプトを受け継ぎ、伝統的な造形と最新の生産技術・製造技術が融合し、タンノイのフィロソフィーを具現化したブックシェルフ・スピーカーが「Autograph mini」だ。小型の10センチ(4インチ)同軸2ウエイ・ユニットを搭載し、Autographと同じ厳選されたバーチ(樺)とチークのリアルウッド採用のエンクロージャーは職人の手による一品一品丁寧に仕上げられた手作り品だという。ネットで調べてみると希望小売価格¥300,000(税別)。
        
        ▲伝統のデザインコンセプトを受継いだAutograph mini 税別30万!
LUXMANのNEO CLASSICOシリーズ / CDプレーヤーD-N100と真空管プリメインアンプSQ-N100にTANNNOY Autograph miniを加えた価格は、ざっと¥600,000以上!

「真空管ラジオで音楽を聞いているとゆったりした気分になれることを父に話したら、このミニコンポを薦めてくれて、気に入ったから買っちゃった♪」

 BMW1シリーズを乗り回していると思ったら、FIAT 500をポンっと買ってしまう知人とはいえ、そんな由緒正しいメーカーのシステムを数万円の「ミニコンポ」と同列に扱ってはばからないオーディオ素人の “無邪気さ(無知?)” に、ヤフオクで¥5,000前後の真空管ラジオの入札ごときに一喜一憂するボクは苦笑いするしかなかった。
        
        ▲Fiat 500 1.4 Loungeや60万のシステムをポンっと買う・・・
 「まぁ好事家のコレクターズアイテムなんだろうな」と思っていたが、このシステムでダイアナ・クラール(Diana Krall)の「All for You」を聞いて、前言を撤回!
ナット・キング・コールへのトリビュートCDである同作品は、Krallの美しい歌声とピアノで40年代の名曲が蘇る。全体のトーンとアレンジはまろやかで実にすばらしいアルバムだ。彼女の代表作、「Live in Paris」と並んぶ極上の仕上がりを、TANNOY Autograph miniとD-N100/SQ-N100のシステムは十二分に引き出してくれる。
 さすがにTANNOY Autograph miniのサイズでは最低域は出ないものの、ミッドバス帯域にエネルギー感が押し出されるため、印象的なベースラインに乗って歌われるスタンダードナンバーのヴォーカルも、グッと情感が深く描かれてくる。
ホーンらしく細かい音はきちんと出るわ、低音も膨らまないわ、定位は良いわ、音量にかかわらず音像は崩れないわ、ホント降参しました。
        
 LUXMANは、その道の専門家に言わせれば、音場型の音という印象が強く、ふわっとした独特のソフトな空気感に包まれる心地よさはあったものの、カッチリとした音像や音離れの良さを求める向きには少々音場が濃厚になりすぎる傾向が強いそうだ。しかしこのNEO CLASSICOシリーズで聞いた音は、奥行き感や濃厚な中域の質感を残しつつも、音のまとわりつきが少ない、しかしスッキリとしすぎて雰囲気を損ねない、「程よい音場空間」を描いている。
        
またTANNOY Autograph miniは、レスポンスと切れ味の良さ、鮮度の高さ、歪みの少なさなど、贅沢なネオジウムマグネットを使った良さが「音の質の高さ」となってあらわれているように感じられた。なぜかホーン特有の指向性の強さはあまりなく、音場の拡がりや立体感が失わないまま高域の質感が保たれるため、プライベートルームで使うこのシステムでは、スピーカーの良さを遺憾なく発揮している。ただ中低域は、ややハイ上がり(高域より)のバランスになって、やや音痩せするように感じられるのは、小型スピーカーの限界なのかも知れません。

 ではその真空管はどこに良さがあるのだろうか。
半導体では出せない温かみのある音、豊かで潤いのあるサウンドが、真空管サウンドの特徴といわれている。真空管という素子自体は、トランジスターやMOS-FETといった半導体素子と構造こそ違えど、動作目的の部分として “信号を増幅する” という役割は同じだ。
        
 真空管をアンプに用いる場合、半導体アンプとは違って200V~500Vという高電圧をかける回路となるが、三極管あるいは五極管であろうと基本回路構成がシンプルなため、圧倒的に部品点数は少なくなり、その部品一つひとつが “温かみのある音、豊かで潤いのあるサウンド” の重要なファクターになる。また基本回路構成がシンプルである故に、クリアで鮮度の良いサウンドを楽しめるのも、真空管方式ならではのこと。
 高電圧をかける真空管アンプは扱いが難しいと思われがちである。しかしメーカーから販売されている製品であればプロテクト回路も搭載されており、熱に対する配慮と頻繁に電源を入/切しないよう気をつけていれば、通常のオーディオ機器と何ら変わらない使い勝手で楽しめるはずだ。適正な設計がなされているアンプであれば、真空管の寿命も5~10年は平気で使える。もし心配であれば、スペアの真空管も含め、まとめてアンプ購入時に確保しておくと良いでしょう。

 あえてケチをつけるとするなら、ロックやフリージャズがやや不得手かも知れません。例えばジャズ/フュージョン/AOR/ロック/R&Bなど様々な音楽要素が入り混じった Steely Danの「Gaucho」を聞かせてもらったところ、ドラムの音で立ち上がり曲は始まるが、この立ち上がりはややスローに感じてしまうのは気のせいでしょうか?
 とはいえ、システムトータルで聴いた際のボーカルの美しさは、なかなか秀逸。このデザインとサイズで、ここまで楽しめるシステムはそうは見つからない。

 コアなオーディオマニアの方から見ると、
「EL84ごときで何言ってるの?俺のプリメインアンプMA6900GとJBLは4348にしてんだけど、ステレオ録音初期のモダンジャズの輪郭が上手く再現できなくってねぇ~」
と、仰る姿を黙ってうかがうしかない、プアな構成である。
 が、このシステムに出会ってからというもの、「愛用しているBOSEのサウンドシステムでいいや~」 とは割り切れない何かが浮かんでは消え、悶々とした日々を過ごしている。ロシア製のEL84をRCAやSYLVANIA製の6BQ5に変更したらどんな音になるんだろう・・・と考えるだけで、思いが膨らむ。

夏のボーナスをこのLUXMAN NEO CLASSICOシリーズ「真空管ミニコンポ」につぎ込もうかと思ってしまう、『悪魔の囁き』を振り払う毎日なのである。