昭和三丁目の真空管ラジオ カフェ

昭和30年代の真空管ラジオを紹介。
アンティークなラジオを中心とした、自由でお洒落な、なんちゃってワールド♪

東京芝浦電気(TOSHIBA)  かなりやH 5LD-124

2007-07-02 | 東芝 かなりやシリーズ
 東芝かなりやシリーズは、初号機のかなりやA以外、後の同シリーズはすべてトランスレス・タイプになり、機種の変遷を辿ると時代に沿った回路設計が施され、興味深い。今回は、かなりやシリーズで最初にトランスレスタイプの標準である12BE6-12BA6-12AV6-30A5-35W4の回路構成を採用した、昭和32年発売の中波専用機 かなりやHをご紹介する。
        
 かなりやAに続いて発売されたトランスレス・タイプの かなりやB・Cや かなりやDかなりやEでは整流管に25MK15、出力管に35C5が使われた。25MK15は、日本独自の真空管で、整流用の7ピン2極管。出力60mAのプレート特性は35W4と同一、パイロットランプ用のタップがなく、これを使うと35W4よりヒーター電圧の合計が低くなり、35C5を出力管に使う場合、ヒーター電圧がほぼ100Vになる。昭和30年代初頭のトランスレス機に使われているケースはあるものの、現在、25MK15の流通量は少なく、秋葉原やオークションでの入手は難しく、高値である。
        
 昭和32年に発売された かなりやFと かなりやGは、シャーシもボックス・スタイルから鉄板を垂直に立てたスタイルに変更。また整流管を25MK15から35W4に、変更したが、出力管は従来の35C5のままであった。12BE6-12BA6-12AV6-35C5-35W4の構成だとヒーター電圧の合計は108V近くになるから、日本の100V電源規格では都合が悪かったのだろうか、かなりやHからは出力管を電力増幅用5極管30A5に変更し、以後 12BE6-12BA6-12AV6-30A5-35W4の回路構成が標準的なスタイルとして確立した。
        
当時の広告を見ると、30A5を採用することにより、あたかも音質が飛躍的に向上したような表現が見られ、今日のエレクトロニクス分野の目まぐるしい技術革新のスピードと比べ、隔世の感がある。ホント、の~んびりとした、いい時代だったんですね~。今は家電製品やエレクトロニクス製品の性能に人が振り回され、ボクのようなアナログ世代は強迫観念さえ感じるだけに、ホッとさせてくれる。
                 
 昭和32年に発売された かなりやHは、「h」をモチーフにスリット加工されたフロントマスクと逆L型前面クリアパネルのコンビネーションが特徴的であり、初期のかなりやシリーズの中でもお洒落に進化したデザインだ。また絞込みの強い逆台形とその上面にラウンドをきかせたキャビネット、薄緑色の入ったグレーのキャビネットと小豆色のバックパネル、大小2つのツマミのカラーコンビネーションも、落ち着きの中に存在感をほどよくアピールしていて嫌味のないデザインである。初期から中期の かなりやシリーズに付く、赤い「マツダ」の七宝焼エンブレムに当時のメーカーの心意気、プライドを感じる。
        
オークションでは「通電はしないです。裏蓋はありません。部品取りに保管してた物ですが形的には良いので理解ある方入札お願いします。」とのコメントに引いてしまったのか、入札数は僅か。キャバクラ開店3周年記念半額キャンペーンの価格で落札できた。以前、同機種の入札価格が高騰し、¥15,000以上で落札されたことを思い返すと、「ホントにいいの?」という気分である。

 メーカー:東京芝浦電気(マツダ) かなりやH 5LD-124

 サイズ : 高さ(約17cm)×幅(約34cm)×奥行き(約13cm)

 受信周波数 : 中波専用 530KC~1605KC

 使用真空管 :12BE6(周波数変換)、12BA6(中間周波数増幅)、12AV6(検波&低周波増幅)、30A5(電力増幅)、35W4(整流)

 宅急便で届いた かなりやHは、裏蓋はなく、ツマミやエンブレム等の欠損や酷いダメージは見られないが、キャビネット天板のプラスチック自体に化学薬品が侵食したようなシミや汚れがある。
        
キャビネット内は清掃された様子はなく、大きな綿埃は少ないが、シャーシやバリコン、真空管には50年間の埃が堆積していて汚い。出品者から「通電はしない」とコメントされたこのラジオ、まずは電源スイッチをONにして、テスターで電源プラグから導通確認を行なったが、完全にアウト!どこかで断線している。
        
 シャーシ、スピーカーを順次取り外し、シャーシ内の点検を行なう準備に取りかかった。埃はOAクリーナーで吹き飛ばし、真空管を抜いて平筆とアルコールを使って丹念に清掃しながら、目視点検を行なった。初期のかなりやシリーズは、かなりやA、Dを除きすべてバリコンに直接選局ダイヤルを取付けたタイプだが、この かなりやHは本格的な糸掛けプーリーを使った減速機構を持つ。
        
 続けて導通確認を行なうと、ヒューズはOK、真空管のヒーター切れか・・・整流管35W4を抜いて3-4番ピンの導通を調べると、やはりここで断線をおこしている。ということは・・・パイロットランプにつながる4-6番ピンも断線していた(T_T) すべての真空管のヒーター、出力トランスの導通を調べたところ他に断線は無く、とりあえず一安心。まずはパイロットランプと朽ち果てていたゴムブッシュを新品に交換し、次にヒューズと0.05μFのコンデンサーを交換、3-4-6番に断線のない正常な35W4を挿し込んで、電源を入れてみた。パイロットランプと5本の真空管のヒーターがやさしい光を放ち、点灯。はたしてこれだけの部品交換だけで復活するのだろうか・・・ 
        
 電源投入後、スピーカーから空電ノイズとともにNHKのニュースが聞こえてきた。選局ダイヤルをゆっくり回すと、複数の放送局が聞こえてくる。単なる35W4の球切れだったようだ。  (=´∇`=) ただバリコンの羽根同士が接触するのか、選局ダイヤルを回すとバリバリという内部雑音が聞こえてくる。エレクトロニクス・クリーナーでバリコンを洗浄し、ゴムブッシュを交換しておいた。
        
今後の安全のため、また球切れ等のリスクを低減するために、ペーパーコンデンサ5個を順次、ラジオの性能を確認しながら一つひとつ新品のフィルムコンデンサに交換した。IFTに接続されている0.05μFを交換すると、固体数値の違いのためかバリコン主軸に指を触れるだけで受信音にハウリングが起こる。調整すれば直るのだろうが、ペーパーコンデンサに戻すと元通り快適に受信できた♪
        
 希釈したマジックリンを使い、キャビネットの洗浄・清掃を行なった。コンパウンドとプラスチッククリーナーを使い丹念に研磨したため、50年間の汚れはキレイに落ち、ピカピカに光っている。修復を終えた50年前のラジオの乾いた音色を聞きながら、無心にキャビネットを磨いている間は、まさに“男の至福の時間”である。
        
 このところ連日の深夜におよぶ残業と出張で少々お疲れ気味の身体では、たまに9時過ぎに帰宅し、シャワーを浴びた後でもテレビを見る気力さえ湧かない。窓を開け、梅雨の湿った空気を肌に感じながら、セブンスターに火をつける。昨日、修復を終えたばかりの かなりやHの電源スイッチを入れた。感度は上々、東京・名古屋・関西・九州の大出力局を快適に受信する。
 雑音混じりの音楽や楽しげなトークを避けて、ゆっくり選局ダイヤルを回すと、落ち着いた雰囲気の女性パーソナリティがその日に起きたニュースをランキング形式で紹介している番組にボクの指は止まった。
          
OBCラジオ大阪1314kHzの『News Tonight いいおとな』(月~金曜日 21:00~22:30)では、産経新聞グループの全面協力を得て、コラムニストらがアンカーマンとして解説を加え、またMusic Cafeのコーナーでは、懐かしの名曲や最新の音楽など、「大人」世代が満足するエンタメ情報を交え番組は進行する。一日の終わりに「ニュース」と「音楽」でクールダウンしていく・・・バーアンテナを内蔵した かなりやHは、この大人のための番組に似合うラジオである。