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領土ナショナリズム脱却のための基礎知識(2)

2013年01月13日 | スクラップ






うっぷん晴らし。

ふつうの社会人なら一杯ひっかけてクダをまく、というのがまあいじらしいやり方だ。家に帰って家族に当たり散らす、というのはタチの悪いやりかた。人間性の未熟な者がやる方法。それでも個々人の家族に当たり散らすなら、社会全体、いや国家の命運に迷惑をかけることはないだろう。国家の命運にかかわるしかたでうっぷんを晴らすやり方に、ナショナリズムを煽って排外主義に陥り、いたずらに隣国との緊張を高めて、思わず知らず一線を越えてしまう、ということがあり、実際にそういう経験を日本人はしたのだが、世代が代わって、過去の歴史をきちんと学んでいない人々が大人になってしまうと、おんなじ道をたどってしまう。それがこのたびの領土ナショナリズムの高ぶりだ。

多くの日本人は、まさか武力衝突なんてことがほんとに起こることはない、とタカをくくっている。だが中国は、日本が先鋭化してきたら武力行使も辞さない態度をもたげはじめていたところだった。飛んで火にいる夏の虫とは今回は日本のことだ。ご丁寧に、日本再軍備の強硬派の、2・26クーデターを引き起こした青年将校のような理想主義者、安倍晋三が300議席のタカ派自民党員を引き連れて帰ってきた。経済を立て直して国民の信任を得ようとして、必死で「スピード感を持って」政策を立てている。まさに聖書の預言のようだ。カルト信者はこのように信じている。

「人々が、『平和だ、安全だ』といっているそのとき、突然の滅びが、ちょうど妊娠している女に陣痛の激痛が臨むように、彼らに突如として臨みます。彼らは決して逃れられません」(テサロニケ会衆の人びとへの手紙第一5章3節)。

1941年12月8日の第一報もおおかたの国民にとっては「突然の」ニュースだった。多くの人は高揚したという。日中戦争が泥沼にはまっていて、社会には閉塞感がまん延していたからだ。今回も、石原の無謀な暴走に野田が乗り、フィニッシュを決める役者が、いま首相の座に君臨しており、この事態を大多数の国民が好観しているのだ。たいへんな時代に生まれついたものだ、わたしは。つくづくついていない人生だった。生まれる親を間違え、カルト宗教に幻惑されて人生をムダに消費し、17年かかってようやく正気を取り戻して世間に帰ってきたら、そこにいた一般の人々は世を挙げてカルト思考を謳歌するのだった。

領土ナショナリズムを支えているのがサンフランシスコ条約の「意訳」的な解釈だった。だがいまわたしたちが依拠しているその「意訳」的解釈も、よくよく調べてみると、トンデモ解釈である可能性が高い。そんな指摘について、今日はご紹介しようと思う。

 

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本質的に考えるべきは、領土問題に関する日本の「固有の領土」論はそもそも国際的に通用するかどうか、という問題だ。尖閣、竹島、北方4島という領土問題を考える上では、
 ①第二次世界大戦で敗北した日本に対する処理方針を扱ったカイロ宣言(1943年12月)、
 ②ヤルタ協定(1945年2月)、
 ③及びポツダム宣言(1945年7月)、
この論考で、以上をまとめて「三条約」と略すことがある。
 ④そして、サンフランシスコ対日平和条約(1952年4月発効)
…を抜きにして語れない。

そして、これらの条約(広義の意味で)に関しては、関係国それぞれにとっての形式的効力の問題と、条約内容にもとづく実効的効力の問題とを考える必要がある。

 

形式的効力の問題とは、簡単にいえば次のことだ。

四条約すべての当事国はアメリカだけだ。
カイロ宣言、およびポツダム宣言に関しては、アメリカ、中国、イギリスとそして
 ポツダム宣言を受諾して無条件降伏した日本が当事国。
秘密協定だったヤルタ協定についてはアメリカ、イギリス、旧ソヴィエト連邦、
サンフランシスコ対日平和条約については、アメリカ、イギリス、日本
…が当事国だ。

なぜこのことにこだわらなければならないか。条約の法的効力は当事国にだけ及び、非当事国には及ばないからだ。

だから、これら条約に定める日本の領域に関する規定内容が互いに整合性があれば問題は生じなかったであろう。だが、アメリカが旧ソ連、中国を抜きにして条約作成を主導したサンフランシスコ対日平和条約と他の三条約のあいだでは、アメリカが前者(サンフランシスコ対日平和条約)に意図的にあいまいさを忍び込ませたために、整合性が取れていない。そこにこそ、日本の領土問題が起こった根本原因がある。

 

具体的にいうと、日本の「領域」については、対日平和条約第2条で決めており、日本はもっぱらこれを根拠にして自らの主張を行ってきた(日本が当事国ではないヤルタ協定およびカイロ宣言は無視する)。しかし、中国も旧ソ連も対日平和条約の非当事国だから、これ(サンフランシスコ対日平和条約)には縛られるいわれはない。両国としては、自らが当事国であるカイロ宣言およびポツダム宣言(中国の場合)あるいはヤルタ協定(旧ソ連、現ロシア)にもとづいて権利を主張する。

中国側報道(2011年4月11日付け「中国青年報」)によれば、ロシア外務省は2011年4月4日、ヤルタ協定に加え、対日平和条約、および国連憲章第107条をも根拠にして自らの権利の正当性を主張する声明を発表したという。

ロシアが当事国ではない対日平和条約を根拠に持ちだした、ということには首をかしげざるを得ない。しかし、国連憲章107条 (「この憲章の如何なる規定も、第二次世界戦争中にこの憲章の署名国の敵であった国に関する行動で、その行動について責任を有する政府がこの戦争の結果として取り、または許可したものを無効にし、または排除するものではない」) を根拠にすることは、条約の形式的効力を確認するものとして有効である。

 

また条約の形式的効力を考えるときは、アメリカはいままでのところ批准してはいないが、条約法条約の第30条(「同一の事項に関する相前後する条約の適用」) も忘れてはならない。そこでは、
 「条約の当事国のすべてが後の条約の当事国となっている場合において、第59条の規定による条約の終了または運用停止がされていないときは、条約は、のちの条約と両立する限度においてのみ、適用する」と定める。
この規定の反対解釈として、中国およびロシアが当事国ではない対日平和条約には両国は適用外であることが確認されるわけだ。

確かに、対日平和条約第26条は、この条約に照明、批准しない国には「いかなる権利、権原(=権利の発生する原因、という意味の民法用語)または利益も与えるものではない」と定めるが、同条約の非当事国である中国およびロシアにとっては何の意味も持たないし、国連憲章第107条および条約法条約の第30条規定に則しても、この規定が先行する三条約にもとづく中国およびロシアの権利を消滅させるがごときはありえない。

ちなみに、日本に独立を奪われていた韓国は上記のいずれの条約の当事国でもないので、形式的効力にかかわる問題は生じない。

 


(「領土問題を考える視点~尖閣問題と戦後日本の形成」/ 浅井基文・元外務省官僚・国際問題研究者・著)

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つまり、サンフランシスコ対日平和条約によって、中国もロシアも領土取得の権利を奪われることはない、ということなのだ。中国はカイロ宣言とポツダム宣言、ロシアはヤルタ協定に基づいて「粛々と」権利を主張する。国連憲章107条は敗戦国から取得したものから権利をはく奪されないと謳っているし、条約法条約30条も、対日平和条約の適用によって権利を排除されないと規定しているからだ。

中国とロシアが確信をもって領土への権利を主張し続けることには立派に根拠があったのだ。この論文はたいへんに勉強になる。

次週日曜日には条約の実効的効力について考察した部分をご紹介する。




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1 コメント

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Unknown (N&D)
2013-02-11 00:56:07
SF講和条約第「25」条

「この条約の適用上、連合国とは、日本国と戦争していた国又は以前に第二十三条に列記する国の領域の一部をなしていたものをいう。但し、各場合に当該国がこの条約に署名し且つこれを批准したことを条件とする。第二十一条の規定を留保して、この条約は、ここに定義された連合国の一国でないいずれの国に対しても、いかなる権利、権原又は利益も与えるものではない。また、日本国のいかなる権利、権原又は利益も、この条約のいかなる規定によつても前記のとおり定義された連合国の一国でない国のために減損され、又は害されるものとみなしてはならない。 」

日本はSF講和条約の第2条において海外領土を放棄しました。
もし中国が同条約を認めないとなると、第2条でなされた日本の領土放棄の法的効力が受けられず、尖閣諸島はおろか台湾も法的には日本領土となりますが、よろしいでしょうか?
権利主張はどんな事も言えますが、国際社会では台湾は日本の領土と言われても文句は言えなくなりますね。
そしてSF条約を否定し日本国の権原又は利益を減損、又は害するなら、批准した連合国すべてが敵となります。
もし武力衝突が起こって国連の場で論議された時、批准国すべてが中国の違法性を指摘するでしょう。
当事者である中国には拒否権は使えませんよ。どうします?
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