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記者の目:舌禍タレント無期限謹慎の影響=若狭毅(大阪学芸部)

2009年06月12日 | スクラップ


 


■メディアの自粛拡大、心配 何のための謝罪会見か

 タレントの北野誠さん(50)が4月下旬、「涙のおわび会見」を開き、芸能活動から身を引いた。ラジオの生放送と関連イベントで「不適切な発言」があったことを自ら認め、無期限謹慎を宣言。所属する松竹芸能の安倍彰社長といっしょに、深々と頭を下げてみせた。

 これだけならよくある舌禍事件にすぎなかった。しかし、その幕引きがいけない。ひょっとしたらメディアにまた一つ、タブー領域を作ってしまったのではないか。

 会見の説明では、不適切な発言があったのは大阪ローカル、深夜のラジオ番組「誠のサイキック青年団」(朝日放送)のオンエア中だ。3月上旬、リスナーからの投書で明らかになり、朝日放送は約20年続いた番組を打ち切った。松竹芸能は北野さんを無期限謹慎処分とし、ラジオ、テレビの全レギュラー番組を降板させた。松竹芸能と朝日放送は、日本音楽事業者協会を退会する形でけじめをつけた。

 会見では、毒舌で鳴らす北野さんが「事実に基づかない問題を多く含んだ発言を20年にわたり続けてきた」と認め、見過ごしてきた松竹芸能も謝罪した。ほめられたことではないが、ここまでは不足ない対応だった。だが、せっかく設定した会見で、不適切な発言が何であったのか、また誰を対象にした発言だったかを一切明らかにしなかった。

 会見にはテレビ局や芸能リポーター、新聞などマスメディアが出席した。一部週刊誌などでいろいろ取り上げられていたが、安倍社長は冒頭、「外部の団体および企業からの強い要請により、北野誠の番組の降板および弊社の謝罪が行われたかのような報道がありますが、決してそのような事実はありません」と言った。多くのメディアが確認したかったのはこのことだ。外部から圧力があったのではないかとの疑念を持って、メディアは集まった。少なくとも私はそうだ。こちらの取材に対し、朝日放送も松竹芸能も発言内容などについては口をつぐんでいた。

 その上で開かれた会見。再三のやり取りがあったが、北野さんも松竹芸能も「発言の対象となった方にさらにご迷惑がかかることが予想されるから」と、結局対象者も内容も一切明らかにしなかった。

 これでは何のための会見なのか分からない。わびるだけでそれ以上説明する気がないのなら、当事者間で済む話だ。わざわざメディアを集めて謝罪だけするのは、見せしめのようなものではないか。

 公共の放送で北野さんがどんな発言をし、無期限謹慎の処分となったのか。少なくともリスナーの指摘がなければ、朝日放送も松竹芸能も問題視しなかったはずだ。それがなぜ、タレントが一人メディアから消える事態にまで発展したのか。

 安倍社長は外部からの圧力を繰り返し否定するが、安倍晋三衆院議員(当時は官房副長官、元首相)がかかわったNHKの番組改変問題を思い出す。言葉による示威などむしろまれで、権力側からの圧力を受けての行動は普通、互いの力関係の中で過剰反応として生じるのではないか。NHKの問題では、その疑いをぬぐいきれない。

 北野さんの発言によって被害に遭ったのは誰だったか。分からなければ、圧力の有無を判断しようがない。過去の番組内容を容易に検証できないため、ことがうやむやになる。放送でよくあることだ。内容を明かせば迷惑が生じるというなら、対象だけでも明らかにできなかったのか。

 なぜ、「この程度の問題」にそんなにこだわるのか、理由が分かりにくいかもしれない。恐れているのは、今後のメディアへの影響だ。

 マスコミ界では、「菊」と隠語で呼ばれる皇室問題などがタブーの代表のように言われるが、それだけではない。大小さまざまにタッチしづらい境界がある。それを作る要因の一つが自主規制だ。自戒を込めてだが、メディアは「論議を呼ぶ心配のない事実を取り上げ、その扱い方も読者の関心に一層沿うように」してしまうことがある。権力の監視を生業にしていると口では言いながら、ついやすきにつく。対象や社会へのマイナスの影響を配慮してではなく、なるべくなら面倒を起こしたくないと、結果、必要もない大小のタブーを自ら作って規制してしまうことが、ないとは言えない。

 結局、問題となった発言内容などは明らかにされず、憶測だけが二転三転しながら飛び交うことになった。その勘繰りは当たっているかもしれないし、外れているかもしれない。どちらにしても、真実は不明のまま、北野さんが追放されるという気持ち悪い空気だけが残る。“かかわりたくない微妙な領域”がまた一つ、この騒動によって作られてしまうことを恐れる。




毎日新聞 2009年5月28日 東京朝刊

 

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