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記者の目:東尋坊・自殺防止パトロール、取材し思う=大久保陽一(福井支局)

2009年06月12日 | スクラップ


 

■自治体、NPOと連携せよ 熱意・救出策・ケアを学べ


 海にせり出した絶壁が続く福井県坂井市の景勝地・東尋坊。04年4月から自殺防止のパトロールに取り組むNPO「心に響く文集・編集局」は、人生に行き詰まった190人を保護してきた。全国の“自殺の名所”と呼ばれる地では、こうしたボランティアの人たちの地道な水際での活動が今日も続く。取材を続ける中で思った。NPOやボランティアの活動に対する政府や自治体の支援はまだまだ十分といえないのではないか。

 自殺者の急増から、国や地方自治体に対策の責務を課した自殺対策基本法が06年に施行された。しかし、年間自殺者数は昨年まで11年連続で3万人を超え、今年も4月までで1万1000人を上回り減少の兆しは見えない。もちろん、自殺に至る要因を断ち切る施策を打ち立てるのが第一義にある。多重債務やいじめ、精神疾患や過労など要因は多岐にわたる。だが、そうした要因で追い込まれた人たちを最後に助けるのが、彼らNPOのメンバーの活動だという事実も知ってほしい。

 福井支局に赴任して4年、東尋坊でのパトロールに幾度も同行した。自殺志願者は日没ごろに多く集まる。大半は30~50代の働き盛りの男性。岩場で自殺しそうな人を、メンバーは積み重ねた経験と直感で見つける。後ろからそっと手を添える。「帰ろう」との一言だけで彼らを連れ戻す。警察官だったNPOの茂幸雄(しげゆきお)理事長(65)は、住所、氏名、年齢はもちろん、保護した日時と様子、自殺を思い立った動機、その後の措置に至るまで、保護した全員の事情を詳しく記録している。各地のNPOなどは日々の活動で培った保護のためのこうしたノウハウを持っている。

 和歌山県の三段壁(さんだんべき)や山梨県の青木ケ原樹海で活動する団体などと共に、東尋坊のNPOが中心となって、4月末に東京都内で「自殺ストップ 自殺多発現場からの緊急集会」を開いた。民間同士でネットワークを築くのが狙いだった。

 緊急集会での発言は、現場で命と向き合っているだけに説得力があった。三段壁のNPO「白浜レスキューネットワーク」の藤藪(ふじやぶ)庸一理事長は教会の牧師も務め、自殺しようとした年間約30人をパトロールで保護している。藤藪理事長は「教会には里子として預かっている子たちがいる。自殺志願者は最初は興奮状態にあるが、子どもたちと一緒に食事をすると気持ちがほぐれていくのがよく分かる」と話した。茂理事長は「声をかけられるのを待っている人たちの『声なき声』を、国に届けるのが、私たちの役目だ」と訴えた。ボランティアたちは今、政府関係者や学者などを巻き込み総合的な自殺対策を話し合う「東京サミット」の今秋開催に向けて準備を進めている。

 自殺者の減らない現状に、麻生太郎首相は1月の参議院代表質問で、「自殺者年間3万人は異常だ。自殺対策に携わる民間の方の声をうかがいながら対策を全力で推進したい」と答弁した。警察庁も今年から、月ごとの自殺者数の公表を始めた。事態を重視するのなら、もっと現場の声に耳を傾けたらどうだろう。

 自殺対策基本法が施行された06年、福井県は独自の自殺対策を立てるため、茂理事長もメンバーに加え「自殺・ストレス防止対策協議会」を設けたが、具体的な連携の方策はいまだ見いだせていない。NPOによると、東尋坊での自殺者は徐々に減る傾向にある。だが昨年は15人が自ら命を絶ち、派遣切りなどで悩む若者を多く保護したという。

 一方で民間の自殺防止活動に積極的な支援を表明する自治体も出始めている。先の緊急集会に出席した和歌山県白浜町の立谷(たちたに)誠一町長は「観光地で自殺対策が取りづらかった。これからは活動をサポートし、ひとつでも多くの生命を救いたい」と話し、具体策の検討に入りNPO支援の姿勢を示した。青木ケ原樹海でパトロールに取り組む団体には保健福祉事務所の職員がメンバーに入って活躍している。

 だがこんな例はまだ数少ない。自殺防止に取り組むNPOやボランティアの多くは民間団体などからの寄付で活動を続けている。東尋坊では、保護した人たちを一時収容するためアパートの家賃を茂理事長が私費で賄っている。資金的に綱渡りが続いているのが現状だ。彼らは活動資金の援助に加え、自殺志願者の社会復帰を手助けするための一時的な住まいの提供やカウンセラーの養成を切実に求めているが、国内には一時収容する専門の公的施設すらない。

 自殺対策基本法は、基本理念で関係機関の連携の必要性を示し、基本的施策には国と自治体による民間団体の支援を示している。自殺は避けられる死である。自殺者を一人でも出さないために、政府や自治体は現場の取り組みから学べることがたくさんあるはずだ。





毎日新聞 2009年6月3日 東京朝刊

 

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2 コメント

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Unknown (しげる)
2010-01-21 08:53:02
働き盛りの人には、生きるとは何なのかが分からなければ自殺は無くならない。

私も昨日から、
自殺者側の気持ちに入ってしまいました。
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しげるさんへ (ルナ)
2010-01-23 17:38:53
しげるさん、はじめまして。コメント、ありがとう。

結局わたしたちは、生きてあれをしなければならない、とかこうでなければ評価してもらえない、とか、そんな環境で生きています。

それは自分の「生きること」を自分でコントロールできない状態ですよね。なんかこう、後ろから横からいつもせっつかれているっていう感じ。

だからわたしは、ひとりでいる時間を大切にしています。自分だけの時間を、ね。
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