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普天間代替施設 事業「後出し」強引アセス

2009年06月12日 | スクラップ


 

 
■「14年移設完了」ありき

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)のキャンプ・シュワブ沿岸部(同県名護市)への移設は、滑走路の位置を巡る日本政府と沖縄の交渉が停滞しているが、移設に先立つ環境影響評価(アセスメント)は着々と進む。県環境影響評価審査会は月内にも、防衛省がまとめた準備書の審査を始める。一方、国内外では移設自体の再検討を示唆する動きも出始めた。2014年移設完了を目指す「結論ありき」のアセス手続きを検証する。【三森輝久】




 ●「再調査は不要」

 「アセス法の精神にのっとり手続きをやり直すべきだ」。5月末、沖縄県議会委員会室。防衛省沖縄防衛局が開いたアセス準備書説明会で、野党県議が迫った。代替施設配置計画に、方法書にはなかった四つのヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)が記載されていたからだ。「方法書を作り直して再調査をすべきだ」と主張する県議に、防衛局幹部は「再手続きする必要のない修正」と突っぱねた。

 事業の「後出し」はヘリパッドだけではない。海上約1・3キロにわたり設置される着陸進入灯や洗機場などが方法書提出の4カ月後、政府と沖縄で開く移設協議会で示された。

 環境影響評価法は方法書、準備書に対する住民の意見提出を認めている。だが、「後出し」があっては、十分な判断材料を提供したとは言えず、住民参加による合意形成という法の趣旨にそぐわない。にもかかわらず防衛省が手続きのやり直しを拒むのは、14年移設完了という日米合意があるからだ。沖縄大の桜井国俊学長(環境学)は「後出しを認めれば、アセスは成り立たない。方法書に戻って手続きをやり直さなければ、アセスではなくなる」と防衛省の姿勢を厳しく批判した。

 ●土砂調達に無理

 問題はまだある。代替施設建設用の埋め立て土砂の調達だ。防衛局は08年1月、県環境影響評価審査会に対する方法書の追加説明で、埋め立て土砂約2100万立方メートルのうち、1700万立方メートルを主に沖縄本島周辺から採取する方針を示した。これは本島周辺の年間採取量の14倍にあたる。「環境への影響が大きい」との審査会の指摘に、防衛局は準備書で「県外からの調達も含め具体的に検討し、慎重に判断する」と書き加えた。だが、採取による漁業への影響が指摘され、瀬戸内海沿岸県は採取を全面禁止するなど、「県外調達」は容易ではない。

 ●「生態系に影響」

 市民団体「環瀬戸内海会議」顧問で、海洋物理が専門の湯浅一郎さん(59)は「瀬戸内海では海砂採取でイカナゴの産卵場所が失われタイやサワラなどが減った」と生態系への影響の可能性を指摘した。

 


■知事・政府、どう折り合い

 準備書には5317通の住民意見が寄せられた。沖縄防衛局は月内にも意見の概要と見解をまとめ、仲井真(なかいま)弘多(ひろかず)知事に提出する。知事は審査会の答申を踏まえ、今秋にも準備書に対する意見を出す見通しだ。

 審査会では、準備書に対する厳しい意見が相次ぐとみられる。知事は、滑走路位置の沖合修正には強くこだわるが、移動幅については「微修正でいい」と発言。シュワブ沿岸部への移設自体にはむしろ積極的だ。

 知事が政府とどう折り合いをつけ、県民に説明するのかが焦点となる。

 


■決着までに不確定要素も 政権交代の可能性、米側に足並みの乱れ

 普天間飛行場の移設問題について、防衛省は06年に日米で合意した在日米軍再編「ロードマップ」に基づき、早急に決着させたいとの思いが強い。ただ、米海兵隊トップのコンウェー司令官が「修正」に言及するなど米国側に足並みの乱れが見える上、国内では次期衆院選後の政権交代の可能性も無視できず、主体的に動きにくい状況に陥っている。

 防衛省が4月に提出した準備書には、政府の計画案に加え、沖合に350~50メートル移動する6案も示し、沖合修正に含みを持たせた。

 一方で、コンウェー氏が4日の米上院軍事委員会公聴会で、「訓練や普天間飛行場移設施設の能力に関する問題」について、「検討に値するいくつかの修正案がある」と発言したことには戸惑いもうかがえる。防衛省の増田好平事務次官は8日「(発言が)米国政府でどう位置付けられているか不明だ。ロードマップに従って着実に実施していく方針だ」と強調したが、「米国の出方を慎重に見極めている」(同省幹部)というのが実情だ。

 また、普天間飛行場の県外移設を求めている民主党は、5月に国会で承認された「普天間代替施設の完成に向けた進展」を条件とする在沖縄米海兵隊のグアム移転に関する協定にも反対した。衆院議員の任期切れまで3カ月。政権交代による計画見直しの可能性もあり、移設問題は衆院選の結果待ちの様相を強めている。【仙石恭】

 

■ことば
◇普天間飛行場移設計画

 普天間飛行場返還の代替措置として、日本政府が米軍キャンプ・シュワブ沿岸部(沖縄県名護市)に計1800メートルの滑走路2本(V字形)を建設する。世界規模の米軍再編の一環で、06年5月に日米両政府が合意、日本政府が実施方針を閣議決定した。07年度から3年間で環境影響評価を実施する。

 

◇環境影響評価

 大規模事業が環境に与える影響を事前に調査、予測、評価する制度。手法を記載したのが方法書で、公告・縦覧後、住民や首長の意見を踏まえて調査を実施。準備書は調査結果を踏まえ、環境への影響を予測、評価し、環境保全措置などを記載する。知事は住民や審査会の意見を考慮し準備書に対する意見を述べる。これらを受け、事業者は評価書を作る。

 

 
毎日新聞 2009年6月9日 東京朝刊

 

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